小沢一郎衆院議員の書生を経て政界入りし、2010年には「陸山会事件」で政治資金規正法違反の容疑で逮捕・勾留、東京地検特捜部による取調べを受けてきた“異色”の政治家、石川知裕衆院議員が、農業と安全保障をテーマにした新刊砂糖と安全保障』を出版しました。

「あなたは知っていますか?」「日本の砂糖の8割が北海道で作られていることを。それが『てん菜』を原料としていることを。そして、サトウキビ栽培の放棄が南の島を無人化してしまうことを」帯に書かれたこの言葉に惹かれて、すでに手にとった方も多いかもしれません。

 今回は著者の石川知裕衆院議員(新党大地・新民主)にインタビューを行い、執筆のきっかけや、現在問題になっている領土問題やTPPについて伺いました。

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<映像→ 石川知裕:話題の“砂糖と安全保障”を語る(TIME:09min25sec)>

石川知裕 衆議院議員
(新党大地・真民主)

 議員になって初めて執筆したのは『悪党』でした。『アエラ』からの依頼がきっかけで、裁判費用を捻出する目的もありましたが、小沢一郎先生にも了解を頂き本にすることができました。そして秘書時代のことをもっと掘り下げた『雑巾がけ』、裁判が始まると佐藤優さん、郷原さんとの対談本が続き、そして今回は農業と安全保障をテーマにした『砂糖と安全保障』の出版に至りました。
 私の選挙区は一大農業地帯です。我々が食べている国産小麦の4分の1、小豆に関しては約6割が私の選挙区である十勝(北海道11区)で作られています。砂糖の原料である「てん菜(ビート・砂糖大根)」に至っては、約4割になります(※1)。
 地域の農業を守ると同時に、国全体として砂糖をどう考えていくかを提起しなくてはいけないな、というのがこの本を書いたきっかけでした。

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Q,なぜ砂糖をテーマに?

 砂糖の原料が地域や離島を運営していく上で欠かせない作物だからです。砂糖は、ショ糖(スクロース)という成分から作られるのですが、その原材料となる作物はサトウキビとてん菜です。世界で生産される砂糖のうち、6〜7割がサトウキビ、2〜3割程度がてん菜から作られています。
 米国とオーストラリアの米豪FTA(自由貿易協定)で唯一除外されたのは砂糖でした。これはなぜ除外されたかというと、米国ではビートが60%、サトウキビは40%ぐらいの割合で生産されているのですが、農家が原材料を生産し、それを運送業が運び、砂糖の製造工場へ送られる…それぞれに働き手がいます。もしオーストラリアの安い砂糖を輸入したら、裾野の広い米国の砂糖産業がつぶれるとの懸念が広がりました。そして2004年のアメリカの大統領選挙の時に、ブッシュ元大統領は砂糖を自由化品目から除外する決断をしました。
 日本では、砂糖の総生産量85万トンのうち、8割にあたる68万トン(2009年度)がてん菜から作られ、それらはすべて北海道で生産されています。もう一方のサトウキビの多くは沖縄でつくられています。アメリカ同様にそこで働いている人がいて、沖縄を含む南西諸島に至っては、耕作面積全体の6〜7割でサトウキビを作って暮らしています。

Q,サトウキビに偏らざるを得ない理由があるのでしょうか。

 沖縄の久米島を視察した際に、地元のサトウキビ農家がこう言いました。「久米島の経済はサトウキビを中心に回っています。輸送や肥料などの波及効果も含めれば、島の経済の8割はサトウキビに頼っている。他の作物も検討されていますが、サトウキビ以外に作れるものがない」
 南西諸島には台風が頻繁に上陸します。台風がくると作物がみな倒されてしまうため、台風に強いサトウキビを植えています。それに取って代わる作物があるかというとなかなか難しいのが現状でしょう。
 私が以前オーストラリアに行った時に、マカデミアナッツを植えているのを見ました。確かにすごく丈夫な木なので、沖縄でサトウキビに代わる作物になるかもしれないと思いました。しかしこうした代替作物が安定した収穫量を得て、採算がとれるようになるまでには販路の確保を含めて相当の年月を要するでしょう。
 サトウキビ産業に代わって、南の島々の人々の雇用をきちんと確保する産業があるのか。観光業は水物で風評被害が起こればすぐにダメになりますし、ブームに左右されます。現段階では、砂糖を全部自由化して、雇用を失うようなことになれば大変だと思います。

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砂糖と安全保障』(講談社/1,260円)

Q,「砂糖」と「安全保障」のつながりは?

 今、尖閣諸島をめぐる問題が取り沙汰されています。太平洋戦争の頃、尖閣諸島が危険地域になり、1939年か40年には最後まで残っていた鰹節工場が不採算を理由に撤退してしまいました。もし戦争が終わって尖閣諸島に人が戻り、引き続き事業を営んでいたらどうなっていたでしょうか。国際社会において「先占」は大きなアピールになります。1969年に資源が下にあるからといって中国が自分たちの領土だと主張したとしても、国際社会は納得してもらえなかったでしょう。しかし人がいないというのはアピールする上では多少弱いということがあったと思います。
 他の島に目を移せば、与那国島も人口が減り1,500人ぐらいになっています。その他にも島は全国に6,500ぐらいあり、そのうち有人の島は220~30程度だったと思います。海面から少し出ているのも島の定義になっていますし、日本地図を見ても6,500もあるようには見えないですよね。戦後、人口減をきっかけにいくつかの島が他島へ住民を移した例があります。八丈島の近くの島では、消防、警察などの自治にはお金がかかり単体ではやっていけず集団移住させたということがあります。
 このままいけば、2050年には日本の人口は9700万人(※2)になると言われています。海岸線を防衛するといっても限界があり、その時にはそこに人が住み続けることが大事です。南西諸島の島々においてサトウキビは地域の基幹産業として成り立ち、それで暮らしている人々がいます。そういう意味で砂糖と安全保障がつながっているのです。

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Q,TPPで農作物が自由化されれば沖縄のサトウキビ産業は衰退するという懸念が出ています。石川議員はTPPには反対ですか?

 そうですね。TPPは無条件の自由貿易協定を目指しています。交渉というのはお互いの相談の中でものごとを決めて行くものですが、TPPに関しては最初からすべての関税を撤廃するものです。関税がゼロになり安い海外産の砂糖が流入すれば、最悪の場合、沖縄ではもちろん国内での砂糖生産は消滅してしまいます。
 もちろん推進する側は、例外品目を設けられるだろうという点を落とし所として見ているようです。野田政権としても「例外規定はあるけれども、やはりルール作りに乗り遅れてはいけない」と言っています。一つの政治的判断かもしれませんが、リスクしては大きいと思います。
 第二次世界大戦後の世界を振り返ると、国際貿易機関(ITO)を作ろうとしてそれがダメで、GATT(関税および貿易に関する一般協定)が登場し、その後今の世界貿易機関(WTO)が生まれました。しかし、先進国と開発途上国の利害が一致しなくなったことで滞っています。もちろん自由化を進めていくことは、資源の効率配分を行っていくということであり、みんながそれで儲かるのであれば一番喜ばしいことですが、実際それぞれの国家の利益を守らなければならないので前に進んでいません。
 日本の場合は譲りすぎてはいけません。今まで日本はずいぶん貿易障壁を下げています。これ以上下げてはいけないところまで来ていて、それをゼロにしてしまうというのはちょっと乗れません。

Q,一部の評論家は日本の農業は大規模化、効率化を進めて輸出すればいいといいますが、大規模・集約化が進んでいる北海道は農業分野にかかわらず反対していると聞きます。北海道はTPPに反対しているのでしょうか。

 地域の中で一次産業に関して関連する産業が多く、やはり反対意見が多いです。以前、大阪の参議院議員が北海道に来て、役場にかかった「TPP反対」のポスターを見て驚いてました。理由を聞くと、「役場は中立ですよね。自治体は中立的な機関なのに、一方の考え方を推進するようなポスターを貼っているのは大阪では考えれられない」と。私は「いや、これが問題だと言ってポスターをはがそうという人は一人もいないでしょうね」と答えました。それだけ一次産業に依拠している経済状態なんです。
 私の地元の十勝地区の有効求人倍率を見てみると、平成16年から右肩上がりです。もちろん非正規雇用が増えてるということがあります。正規雇用が増えないで非正規雇用の求人が多いものですから、有効求人倍率がなだらかながらも右から上がりに増えている。一方、全国的にはリーマンショック以後、ぐんと落ちてますね。輸出産業がダメになっているからです。私の地域はいわゆる好景気には乗れないけど、不景気の時にはさほど影響を受けない、要するに一次産業を中心とした雇用体系になっているということです。じゃがいもを選ぶ仕事のパートなど、どうしても人でやらなくてはならないという仕事はあります。
 しかし、もしTPPが可決して全く関税なくなるようなことになれば、農家からパートから農機具会社、輸送会社、段ボール会社など一斉にダメになってしまうという懸念があるので北海道はみんな反対しています。他の地域と経済に与える影響が違うというわけです。

Q,石川議員は農業に関心が高いようですが、ご実家は農家なのですか?

 いえガソリンスタンドを経営していて、今は不動産関係を営んでいます。昔から農業に関係が深い家に育った訳ではありません。

Q,いつから農業に関心を持ちだしたのでしょうか?

 立候補してからですね。秘書のときに農業問題に詳しかったかというとそうではありません。小沢一郎先生はもともと農家で、田んぼも持っています。秘書は稲刈りの時に駆り出されるんです。もちろん本を書くほど農政に詳しかったかと言えばそうではありません。
 私が農業に関心を持ったきっかけは、地域の雇用です。雇用を守るためには地域に農業を中心とした経済体系をどう守って発展させて行くかを考えています。立候補してから体験実習なんかも含めてずいぶん農家を回りました。やはりどうやって自分の選挙区の経済が回っているのかといったら一次産業、農業が柱です。立候補してから勉強していくなかで感じたことで、砂糖に関しては一つの集大成としてこういう本を出しました。

Q,農業に関する政治・行政の将来的な構想はありますか

 私は2010年にオランダに行きました。その2010年の秋にオランダで農林水産省と経済産業省と環境省が合併して「農業環境イノベーション省」をつくりました。その狙いは6次産業(一次・二次・三次産業を組み合わせた経営形態)化を進めた体制づくりにあります。
 オランダでは「フードバレー」(食の集積地)といって、何百という大学や食品会社、研究機関が一箇所に集まり、輸出する体制を進めています。それにあわせて行政が変わってきました。現在、帯広市や富士宮市は「フードバレー構想」を進めています。今後は行政の仕組みそのものも、農業に対応した形に変えて行く必要があると思っており、私はそういった仕組みづくりに携わりたいなと思っています。

(取材日:10月22日 取材・撮影:THE JOURNAL編集部)

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【脚注】
※1「農林水産省統計部『作物統計』」と「北海道十勝総合振興局『2010 資料編 - 十勝総合振興局』」による平成20年のてんさいの収穫量の割合
※2 「総務省統計局 平成24年推計」

【関連記事】
■小沢一郎氏元秘書3人に有罪判決(2011.09.26)
http://ch.nicovideo.jp/article/ar7836
■陸山会事件:検察が石川議員に禁錮2年を求刑するも、調書不採用で論告は精彩を欠く(2011.07.20
http://ch.nicovideo.jp/article/ar7854

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砂糖と安全保障』(講談社/1,260円)