「高齢の父の体が弱ってきて、この夏を越えられないかもしれないので、父と母を連れて最後の思い出に二人のふるさと信州に連れて行きたいと思っています。父は両足切断していて要介護4です。」
そんなメッセージが、ホームページのメールに入っていた。時刻を見れば午前6時、相談者の急ごうとする様子が伝わってくる。
早速、メールの宛先に電話をかけてみる。
介護が必要な父親は、君塚富士夫さん82歳。糖尿病で5年前に両足切断の手術をしていた。
相談は、富士夫さんの娘の幸子さんからだった。
都内で同居する両親と幸子さんのご主人、それに子供2人の家族6人で思い出づくりに信州へ行きたいという内容だった。暑くなる前の諏訪湖とふるさとの山々を見せてあげたいという。
家族が希望する日程と富士夫さんの詳しい介護情報、それに予算を伺い、おおよそのコースプランを考えてみる。
都内から諏訪へ行く交通手段は、いくつかの選択肢がある。中央高速道を使うか、JR中央本線の特急列車「あずさ」「かいじ」を使う方法をとるか、いずれにせよ片道200キロを超える旅になる。
身体の負担を考えれば、ワゴンタイプのタクシーを貸切り、自宅まで迎えにきてくれるのがありがたい。荷物も楽に運べるが、鉄道なら半額で済みそうだ。
富士夫さんには、自治体が発行した障害者手帳もあり、旅客鉄道株式会社旅客運賃減額欄には、第1種と記載されている。トラベルヘルパーのような介護者がつくなら、それぞれ50%の割引運賃が適用される。介護者なら家族も同様の扱いになる。
障害者申請をしていない要介護者は多いのだから、介護保険の認定者にもこうした運賃割引制度が適用されたらいいと思う。
長距離バスを利用するなら、さらに費用は抑えられそうだ。起点となるターミナル駅までは、路線バスやタクシー利用も考えられるが、体重の軽い富士夫さんは、座位がとりづらい。移動中は、幸子さんとご主人が交代でトラベルヘルパーと両脇を固めることでクリアできそうだが、車内のトイレを使用するには不安がある。
季節もいい頃だし、幸子さんには主治医と相談の上、富士夫さんの体調を見計らい結論を出してもらうことにした。
あとは受け入れるふるさと側の課題が残る。
諏訪に限らず、地方にはこれから数十年で高齢化率40%〜50%の町村がたくさん現れる。そこに住む人の多くが高齢になるわけで、そうした地域は高齢者が住みよいまちづくりが必要になる。高齢者が住んでよかったと感じるまちになれば、訪れる高齢者にとっても必ず良いまちになる。
【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。