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高野孟:舛添新知事は堂々と「原発再稼働」を掲げるべきだった
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高野孟:舛添新知事は堂々と「原発再稼働」を掲げるべきだった

2014-02-17 20:18
    その場をつくろうために口にしてしまった言葉が、後になって重荷となってのしかかってくるというのは、よくあることだが、舛添要一新都知事の「一日も早く原発に依存しない社会をつくる。再生可能エネの比率を2割にする」という選挙公約はまさにそれだ。

    もともと原発推進論者で、高速増殖炉を「夢の科学技術」と礼賛したり、10年前に新潟県巻町で町民投票と町長リコールで原発計画を撤回させた時には、雑誌に「巻原発『住民投票』は駄々っ子の甘えである」という文章を書き、それどころか電力会社の手先となって現地に乗り込んで原発推進派の町長候補の応援演説までしたのが舛添である。その彼が「私も脱原発を言い続けている」と言い放つ鉄面皮ぶりに、私は腰を抜かすほど驚いたものだが、それは要するに、細川・宇都宮両陣営の脱原発主張をはぐらかして、「原発はないほうがいいけど、すぐになくなって停電が起きるのは困るな」くらいにしか物事を考えていない平均的な都民の票を集めるための「目くらまし」戦術にほかならなかった。

    「それはそれで成功したのですが…」と与党の再稼働慎重派の若手議員が語る。「だからといって、これで原発は容認された、さあ再稼働だ、というわけにはいくら何でも行かないでしょう。都知事選後まで閣議決定を先送りしてきた新『エネルギー基本計画』の、特に『原発を重要なベース電源とする』という文言については、自民党内でも、公明党との間でも、一度も議論していない。これで再稼働を強行したら、舛添は嘘をついた、舛添にそう言わせた自民党は国民を欺した、ということになってしまう」と心配する。

    そういう与党の空気を感じたのだろう、菅義偉官房長官は10日の会見で「与党側からは、しっかりと議論してほしいという要請もいただいているので、政府・与党でしっかり調整して結論を出す。期限を区切って行うことではない」「安倍政権としては、再生可能エネの最大化を進めながら、原発依存度をできるだけ引き下げていくという基本方針のもと(同計画を)作って行きたい」と、安倍晋三首相の「何が何でも再稼働」という前のめり路線とはだいぶニュアンスの違った言い方をした。

    本当は舛添に再稼働、原発はベース電源と言わせて真正面から勝負させればよかったのだ。それをしないで目くらましをかけておいて、勝ってしまえばこっちのものというのでは都民は納得しないだろう。

    (日刊ゲンダイ2月12日付から転載)



    《補足》

    以上が日刊ゲンダイのコラムの再録だが、若干補足する。中部電力が14日に浜岡原発4号機の再稼働に向け審査申請を出した。これを含めて電力8社の再稼働申請は10原発17基に上っているが、それを報じるマスコミの視点が狂っている。例えば岐阜新聞15日付の見出しは「中電、地震対策に自信/浜岡4号機審査申請/厳しい経営、背景に/都知事選結果も追い風」だ。記事中には「都知事選で与党が支援した舛添要一氏が圧勝し、電力業界は再稼働に向け活気づく。『最悪の事態は免れた』。業界幹部は手放しで喜ぶ」「舛添氏の圧勝が『暗雲』を吹き飛ばした。選挙結果に意を強しくした政府は、原発活用の大方針を据え置いた基本計画を月内にも閣議決定する構えだ」とある。

    第1に、舛添は、繰り返すが、「一日も早く原発に依存しない社会をつくる。再生可能エネの比率を2割にする」という公約を掲げて戦ったのであって、「一日も早く再稼働を進めたい」とは一度たりとも言っていない。

    第2に、しかもその公約を前面に出すことを意図的に避け、細川・宇都宮両陣営との間でそれが最大争点にならないように心掛けた。また政府・自民党も、どこまで裏から手を回したのかは分からないが、マスコミが原発を議論しないように、とりわけ人気抜群の小泉純一郎元首相の主張を出来るだけ露出させないように計らった。

    第3に、その結果、景気や福祉を重視する都民ばかりでなく、原発はない方がいいとは思っているけれども細川・小泉のように「即ゼロ」というのはちょっと極端かもしれないと思っているような都民も引きつけることに成功した。

    これでどうして政府や電力業界が「手放しで喜」んで「再稼働に向け活気づく」ことが出来るのか。都民は決して「再稼働OK」という意思を示したわけではないのに政府・業界が調子に乗るのはおかしいと批判するのが、マスコミの役目ではないのか。これではマスコミも舛添の目くらまし戦術の共犯者に成り下がってしまう。▲


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    <高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
    1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にインターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
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