11日投開票の佐賀県知事選で、自公両党が推した樋渡啓祐前武雄市長が大差で敗れ、自民党県議の過半数はじめ県内市町村長、それに農協が担ぎ出した元総務官僚の山口祥義が勝利した。マスコミはこぞって「農協改革難しくなる」(朝日)「農協改革慎重論も、自民火消し図る」(毎日)などと、「自民対農協」の構図でこの結果を解説しているが、旧知の地元記者に聞くとちょっと違う。「確かに、JA佐賀は全農会長も出している大拠点で、それが山口に付いたのは大きいが、選挙戦では別に農協改革が争点になったわけではないし、それが多くの県民の関心事であるわけでもない。むしろ、菅義偉官房長官が地元の意見を聞かずに上から命令して候補者を決めたやり方、それで候補者になった樋渡がまた、やり手の“改革派”ではあるけれども、上から目線もはなはだしい強引な行政手法や暴言癖で有名な人物だったので、とくに市町村長たちは県政が大混乱に陥るんじゃないかと心配した。結局、中央直結で、国の意向を県民にどんどん押し付けるような“上から知事”がいいか、県民の意見をよく聞いて政策を決める“下から知事”がいいか、という選択だったんでしょう」。



同記者によると、県民の多くが関心があったのは農協改革ではなくてむしろ玄海原発の再稼働と佐賀空港へのオスプレイ配備。それらについても活発な論戦が交わされたとは言えないけれども、古川康前知事は両方とも容認派で、扉を半開きにしたまま先の総選挙で佐賀2区から国政に転じ、後始末を樋渡に委ねようとした。そうすると、官邸〜古川衆議院議員〜新知事のタテ一直線で再稼働もオスプレイ配備も押し通してくるのではないかと多くの人は不安を抱いた。それが大差の最大の要因ではないか、と言う。だとすると、沖縄とは事情は異なり切迫性の度合いも差があるけれども、ある意味で佐賀県民もまた「自分たちのことは自分たちで決める」という「自己決定権」を重視したと言えるのだろう。



それにしても、昨年の滋賀、福島(不戦敗回避の押しかけ相乗り)、沖縄に続いてまたもや自民党は知事選で勝てなかった。マスコミは、中央政治では安倍が一強なのに地方にこういう例外が出てくるのは奇妙だといった視点で、それこそ上から目線で論じているけれども、実は日本政治の健全でノーマルな姿を示しているのは地方の特に知事の直接選挙のほうであって、小選挙区制マジックに助けられた安倍一強現象がむしろ病的でアブノーマルなのではないか。▲


日刊ゲンダイ1月15日付から転載

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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944 年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレ ター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェ ブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にイ ンターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
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