東京電力の広瀬直己社長が23日、福島第1原発構内の地上タンクに保管している高濃度の放射能汚染水の浄化について、14年度内に全量を処理するという目標達成を断念すると表明した。安倍晋三首相が13年9月、東京五輪招致のためのプレゼンテーションで世界に向かって「福島第1原発事故はアンダー・コントロール」と宣言したが、実際にはその当時、汚染水は何らコントロールされておらず、「嘘つき!」という批判が内外で噴出した。そのため、後追いで安倍が東電に「早く何とかしろ」と強く指示したものの、トラブルが相次いで作業が遅れていた。広瀬社長は「約束が果たせずに申し訳ない。何とか5月末までに」と言ったが、実際にはそれも何の目途も立っておらず、希望的観測にすぎない。このままでは「安倍は世界を欺いて五輪を東京に持ってきた」と言われかねない大ピンチに陥りつつある。

 この日、広瀬社長が言及したのは、地上タンクにこれまで汲み上げた高濃度汚染水27万トンが溜められていて、これを「多核種除去装置(ALPS)」を通してストロンチウムはじめ核物質を除去し、処理済みの水を海に流そうとしてきたが、このALPSが不調続きで、想定の6割程度の稼働に留まっている、という問題である。ところが汚染水をめぐる問題は他にもいろいろあって、第1に、その作業が遅れると、地上タンクが満杯になってしまうが、その地上タンクの増設の余地は限られている上、これはあくまで仮設なので、初期に設置したタンクの劣化による汚染水漏れなどの事故の可能性が高まる。第2に、しかも、この敷地には毎日、1000トンの地下水が流入し、そのうち400トンが破損した原子炉建屋にぶつかって、一部は建屋周辺の汚染水と混じり合うので、汚染水が増え続ける。

 第3に、その汚染水増大を抑えるために、建屋の手前に井戸を掘って地下水を汲み上げて海に捨てるという作業を続けているが、その井戸のさらに手前に地上貯水タンクがあってそこから汚染水が漏れて地下水と混じってしまうので、井戸で汲み上げてもそのまま海に捨てられるのか、疑問視されている。第4に、そこで、その井戸と建屋の間に巨大な地中遮水壁を新設して建屋への地下水を食い止めることが計画され、凍土式という工法で工事が始まったが、これがうまく進んでいない。仮にうまく行っても、井戸の場合と同じく、地上タンクから漏れた汚染水が地下水に混じっている可能性が濃厚なので、遮蔽した水をそのまま海に流せるかどうか分からない。福島第1はアウト・オブ・コントロールの“汚染水地獄”に陥りつつある。▲

日刊ゲンダイ1月29日付から転載

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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944 年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレ ター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェ ブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にイ ンターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
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