この日、広瀬社長が言及したのは、地上タンクにこれまで汲み上げた高濃度汚染水27万トンが溜められていて、これを「多核種除去装置(ALPS)」を通してストロンチウムはじめ核物質を除去し、処理済みの水を海に流そうとしてきたが、このALPSが不調続きで、想定の6割程度の稼働に留まっている、という問題である。ところが汚染水をめぐる問題は他にもいろいろあって、第1に、その作業が遅れると、地上タンクが満杯になってしまうが、その地上タンクの増設の余地は限られている上、これはあくまで仮設なので、初期に設置したタンクの劣化による汚染水漏れなどの事故の可能性が高まる。第2に、しかも、この敷地には毎日、1000トンの地下水が流入し、そのうち400トンが破損した原子炉建屋にぶつかって、一部は建屋周辺の汚染水と混じり合うので、汚染水が増え続ける。
第3に、その汚染水増大を抑えるために、建屋の手前に井戸を掘って地下水を汲み上げて海に捨てるという作業を続けているが、その井戸のさらに手前に地上貯水タンクがあってそこから汚染水が漏れて地下水と混じってしまうので、井戸で汲み上げてもそのまま海に捨てられるのか、疑問視されている。第4に、そこで、その井戸と建屋の間に巨大な地中遮水壁を新設して建屋への地下水を食い止めることが計画され、凍土式という工法で工事が始まったが、これがうまく進んでいない。仮にうまく行っても、井戸の場合と同じく、地上タンクから漏れた汚染水が地下水に混じっている可能性が濃厚なので、遮蔽した水をそのまま海に流せるかどうか分からない。福島第1はアウト・オブ・コントロールの“汚染水地獄”に陥りつつある。▲
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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944 年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレ ター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェ ブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にイ ンターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。