彼らは日本人を人質にとって、死刑囚との身柄交換などを要求、脅迫をしていた。そして非常に残念なことに、結果はたいへん厳しいものとなった。
この事件が日本の外交姿勢につきつけた問題は、非常に大きい。昨年から自国民が人質になっていることを知りながら、なぜ安倍首相は中東を訪問したのか。なぜイスラエルであのような演説をしたのか。政府の足をひっぱらないように、野党も追及しなかったが、これらの疑問点は、いずれしっかりと検証されるべきだろう。
いうまでもなく国際政治は、実に複雑でデリケートである。今回の人質事件に関していえば、たとえ難民への人道的な支援のために資金を出すのだとしても、それらの国と戦闘状態にあるISILにとっては、日本は「敵に味方する」国なのだ。
自国民が囚われ、命を奪われそうになったとき、どうすべきか。人命第一で身代金を出すのか。だが、相手の要求に応じることは、テロリストたちに力を与えることになってしまう。では、見殺しにしてもいいのか。そんなことが、いいはずはない。
番組でアンケートをとった。1月30日の生放送だったので、後藤さんの安否はわからない段階だ。今回の安倍政権の対応をどう思うか、その対応の是非について聞いたのだが、まったく同率の46%だった。問題の難しさが、この数字に表れているのだろう。
「正解」の対応は、正直、僕にもわからない。ただ、ひとつ、何度でも言いたいことがある。人質となった後藤健二さんに対して、「危険な国に勝手に行ったのだから、自己責任だ」という意見がある。確かに自分の意思で行くのだから、自分の責任だろう。だが、ジャーナリストというのは、危険なところであっても行くものだ。現地に行かなければわからないことが、たくさんあるからだ。
今回の現場はシリアだった。紛争地域である。だが、たとえ国内であっても災害や事故が起こった危険な現場へジャーナリストは行くのだ。僕も、そうした場数はたくさん踏んできた。
そしてジャーナリストが、こうして危険と隣り合わせで取材した情報によって、視聴者や読者は真実を知る。みんなが、現実について考えるためのきっかけや材料を提示するのだ。僕たちは、こうやって民主主義の根幹を支えていると思っているのである。
番組にはジャーナリストの坂本卓さんも出演していた。坂本さんは、中東とクルド問題について数多くの取材をおこなっている。昨年12月にシリアに行くなど、ISILにも詳しい。
坂本卓さんは番組でこう述べた。
「危険だとわかった上で行くのだから、自己責任はあります。だからと言って、『国に迷惑をかけやがって』と言う、この風潮は危険だと思います。このモノサシで見ると、例えば、ニートや高齢者などまで『迷惑なものでしかない』ということにもなりかねない。これが自己責任論の先にあると思う」
この坂本さんの言葉は、僕の心に強く残ったのだ。
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