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鳩山由紀夫:クリミア訪問の真相─日露関係の改善のための民間外交を
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鳩山由紀夫:クリミア訪問の真相─日露関係の改善のための民間外交を

2015-03-20 18:40
    3月9日、鳩山由紀夫元首相はクリミア半島を訪問した。インターネット上では「国賊」とののしられ、日本政府はもとより、古巣の民主党からも「あってはならないことだ」(岡田克也代表)と批判の声が上がった。訪問の狙いは何か。鳩山元首相に直接インタビューした。 (THE JOURNAL編集部)

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    鳩山由紀夫(第93代内閣総理大臣):日露関係の改善のための民間外交を
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    (撮影:THE JOURNAL編集部)

    ─クリミア半島へ訪問した理由は

     クリミアの住民投票から一年が経とうとしています。この間のクリミアに関する報道といえば、「ロシアがウクライナのクリミア半島を一方的に併合して1年…」という表現にあらわれているように、強引に併合した【ロシア=悪】で、【ウクライナや欧米=善】という単純な図式で語られています。
     また、軍事力を背景にしたロシアのクリミア併合は不法だ、住民投票自体が正当ではなかったという理由で、日本政府や米国、欧州連合(EU)がロシアに対して経済制裁を加える決定しました。
     本当にクリミアはロシアによって強引に併合されたのか、それとも平和な選挙によって独立したのか、市民はどのように暮らしているのか、自分の目で見ていきたいという思いで訪問を決めました。

    ─住民投票など、現地の人と意見を交わしてわかったことは

     現地の市民をはじめ、クリミアの代表であるベレヴェンツェフ・クリミア連邦管区大統領全権代表など多くのリーダーとも、住民投票について意見を交わしました。そこでわかったのは、ロシアへの編入を目指した住民投票は決してロシアの圧力ではなく、クリミアの住民の自発的な行動の中から行われたものであり、ウクライナ憲法の規定に従って民主的に行われたものだということです。
     クリミア半島の先住民族であるクリミア・タタール人の意見も傾聴に値するものでした。クリミア半島には26の民族が住んでおり、ロシア人、ウクライナ人に次いで、もっとも人口割合の多いのがこのクリミア・タタール人です。クリミア・タタール人の副首相はこの一年を振り返り、「宙ぶらりんだった人権が、この一年で大きく変わった」とロシアが人権を守ってきたと述べていました。
     クリミアはウクライナに帰属しましたが、その後の暮らしは厳しく、彼らににとっては不満のある23年間だったといいます。現在は、9割以上はロシアのパスポートを持っていると聞いています。

    【領土問題はプーチン大統領の時代に解決を】

    ─今回の訪問について、日本の国会議員からは「国益を害している」という意見がある

     それはどうでしょうか。現在の日本とロシアの関係は薄らいでいます。昨年10月にロシアのナルイシキン下院議長に会ったときに、日本が経済制裁を加えたことに大変遺憾だと、いつも柔和な氏がカメラの前で厳しく発言しました。
     プーチン大統領は昨秋予定していた訪日を中止し、現在も訪日の予定は立っていないと聞きます。岸田外務大臣は、カウンターパートであるラブロフ外相と会えていません。
     今年5月にモスクワで開催される対ドイツ戦勝70周年式典では、ロシア側は安倍首相に招待状を送ったにも関わらず、いまだに返事をしていないようです。習近平中国国家主席や金正恩北朝鮮第一書記も参加予定で、各国の首脳と会うチャンスですが、オバマ大統領が参加しない限り、日本から返事は出せないのでしょうか。ロシア外務省高官からは、「日露関係に関心がある日本の国会議員がいなくなった」と聞きました。
     ロシアとの間には、領土問題を始め未解決事項が山積しています。にも関わらず、両国のパイプは薄くなる一方です。私は民間人として日露関係を友好な状態にしたいと活動しており、それは国益に沿っていると思っています。

    ─未解決の領土問題をどう考えているか

     今が大事な時期です。領土問題の解決には、プーチン大統領が最後の交渉相手ではないかと思っています。保守的といわれますが親日的です。柔道家でもあるプーチン大統領は、領土問題において一度は「引き分け」と柔道用語をつかった表現したこともあります。お互いに答えを導き出そうという人であることは間違ありません。それに対して、前の大統領であるメドベージェフ現首相は強硬路線でした。今後誕生する大統領は強硬路線になってくる可能性が高いです。
     私は安倍総理の時に、大きな展開をする期待を寄せていました。しかし、プーチン大統領が訪日できないような状況では望み薄です。経済制裁が今の状態を招いているとすれば、ますます解決が遠くなるでしょう。

    【マスコミに足りない多角的な視点】
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    (撮影:THE JOURNAL編集部)

    ─マスコミについて

     クリミアの報道を見ていると、米国からの情報に偏っていると思わざるをえません。ロシアは敵ではないといって困るのはだれか。冷戦構造のまま引きずっているNATO(北大西洋条約機構)の価値もなくなれば、米軍の価値もなくなります。そういう想像も必要でしょう。
     すぐに善悪を決めるのでなく、どちらが正しいのかを多角的な視点で考えなければ、日本の行く末は危ういと思います。さまざまな意見や考えを認めるべきではないでしょうか。

    ─改めて、実際にクリミアの地を歩いた率直な感想は

     百聞は一見にしかずといいますが、訪問した先々では平和な町並みが広がっていました。銃を持った兵隊が立っていることもなく、講演した大学の学生達も明るく、未来に対して自信をみなぎらせていました。
     ただ、ウクライナに帰属してからクリミアが冷遇されてきた姿の一端も垣間見ました。風光明媚な地域ですが、道路も汚れて崩れているところもあり、電気などの生活インフラも不十分と感じました。

    ─今後の活動は

     今回の訪問で、一人の女性に出合いました。その方は宮殿の管理人の妻で、クリミア在住の数少ない日本人でした。経済制裁のおかげで郵便物は日本に送れないし、当然荷物も受け取れない。日本と行き来するのもままならないと言われていました。クリミアと日本でこのような意見を結ぶような協会をつくるなどして、声を集められないかとも思います。
     また、クリミアの今後の課題は産業づくりです。欧米から観光客も来なくなりました。日本には技術力と勤勉さに関心を持っているようで、民間の交流は協力できないものかと思います。
     どこの国でも生きる権利はすべての人が持っています。日米、日中、日露、各国との関係が発展するよう活動していきたいです。(取材:THE JOURNAL編集部/2015年3月16日)

    【関連書籍】
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    ウクライナ危機の実相と日露関係 (友愛ブックレット)

    〈プロフィール〉
    鳩山由紀夫(はとやま・ゆきお) 1947年(昭和22年)2月11日生まれ。東アジア共同体研究所理事長。スタンフォード大学卒業。政治家、旧民主党代表を経て、第93代内閣総理大臣。
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