ここ数年、日本に大型のクルーズ客船がたくさん運航されるようになったおかげで旅費が3割程安くなり、これまで高根の花と言われた船旅がぐっと身近になりました。

クルーズ客船は動くホテルと言われるくらいで大きなスーツケースを運ぶめんどうがなく、高齢者に優しい旅と言われています。乗船客の平均年齢が70歳を越えることもめずらしくなく、飛行機の移動がきつくなったという旅行者は、船旅に切り替えるという人が少なくありません。ただ、たとえ町を離れ海外まで出かけた人でも、旅が終われば再びもとの町へと戻ります。

住み慣れた地域の移動をサポートする外出支援サービスは、介護保険の適用がないために体制が整備されず、多くの要介護者やその家族が我慢を強いられていると言われます。

以前、松本市が行った調査では、引きこもりがちで外出機会がほとんどない要介護者も、本当は「誰かと一緒に外食したい」という強い欲求があることがわかりました。また、配食サービスを利用した会食会や、在宅高齢者を対象とした外食ツアーを望む声もあがりました。ところが、出先までの移動に援助が必要なことや、食券の買い方や会計方法など、お店の利用システムがわからないことに不安を覚え、外出をためらったままでいます。本当は「買い物をしたい」、「実際に商品を見て選びたい」という願望がありながら、叶わる夢とあきらめているのです。

高齢な人に外出機会や積極的な社会参加の場があることは、ADLやQOLの向上につながり、健康増進や介護予防になることが解ってきました。

しかし、実際には意欲の低下などが理由で、引きこもる人が特に男性に多いためにその方の役割や目的をうまくつくり、プライドが保てるようにすることで、積極的な外出やそれに伴う消費も期待できるという報告があります。

外出サービスを利用する側にとっては、状況に応じて様々な移動手段を選ぶことができれば大変便利ですが、そうした情報を提供してくれるサービスがあることを知らない人が少なくありません。

杉並区が2007年に開設した「移動サービス情報センター(愛称:もび~る)」は、どんなに高齢になっても、どんな障害があっても自由に出かけることを支援するという組織です。

移動困難者の助けとなるために地域のタクシー、NPOの移動サービス、福祉輸送事業限定タクシー、福祉ハイヤー、介護保険事業者のタクシーなど、豊富な地域支援のネットワークを作り上げており、区の発行する利用券や補助券の交付、タクシーの運賃割引(障がい者割引)制度など、様々なお出かけ相談にも応じてくれます。年一回、利用の手引き「おでかけガイド」を発行し、最新の地域資源を紹介するなど、常設の相談窓口を設けて、配車センターの紹介や事業者選びに困っている人に代わって、空き状況の確認から予約をとるなどの取り次ぎサービスも行っています。

身体の状況に応じて必要な介助や福祉レンタカーの紹介、車いすやストレッチャーのまま利用したい人への車種選び、乗車地、降車地の確認をするなど、市民活動ならではの大変手厚いサービスだと思います。

高齢化が進む地域住民の快適な暮らしを支えるには、日常生活の中で個人的に提供される医療や介護保険サービスとあわせて、制度外でも生活支援サービスや介護予防に役立つサービスなど、周辺サービスの充実が求められています。

住み慣れた町が、旅から帰るといつもほっとできる日常のある地域であって欲しいと思います。


【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。