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大学に眠るガイガーカウンター──直売所コミュニティが
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大学に眠るガイガーカウンター──直売所コミュニティが

2011-06-27 13:04

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     3月11日の地震と津波、発生から3ヶ月たった今もなお大きな脅威がある。それが東京電力福島第一原子力発電所から飛散した放射性物質だ。DAYSJAPANの広河隆一さんがいち早く現地に行き、携帯していたのが大気中の放射線量を測定する放射線測定器、ガイガーカウンターである。種類は様々で、安いものは5万円から、量販店や通信販売でも売り出している。
     震災後まもない3月下旬、茨城大学の高妻孝光(こうづま・たかみつ)教授は、大学が保有する放射線測定器をある場所へ持ち出し、無償で計測していた。その場所とは研究都市で有名なつくば市にある直売所「みずほの村市場」(以下、みずほ)である。みずほは高妻教授の協力を得て、直売所に出す野菜の放射線量を自主検査している。

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    会場は直売所に隣接する加工所。茨城大の学生が助っ人に入って測定する

     みずほは国よりも厳しい基準を設けて一検体当たり10分程度かけて測定し、超えたものは店頭に並べない。文科省は今から9年も前の時点で「緊急時における放射性ヨウ素測定法」(pdf資料は→コチラ←)を取り決めており、みずほではそれに従い測定している。
     国内の大学にはほこりをかぶった放射線測定器がたくさんある。茨城大学でもガイガーカウンターと同部類のGM計数管を3台、シンチレーションサーベイメータを2台保有している。大学が研究用に持っているもので、今まで決して外部に持ち出すことはなかった。

    ★ 消費者に隠れた生産者の不安感 ★

     3月19日枝野官房長官が茨城県内のホウレンソウから食品衛生法の暫定基準値(2000ベクレル/kg)を超える1万5,020ベクレルの放射性ヨウ素が検出されたことを発表し、茨城県は各市町村と農協に「出荷制限」の要請を出した。

    「消費者よりも不安なのは生産者だ」

    「出荷制限」以降の出荷者の顔は青ざめていたとみずほの長谷川社長は言う。ホウレンソウはダメで横に植えられているキャベツやコマツナは大丈夫なのか、土壌の放射線量は危なくないのか、一方的な国からの出荷制限はいつ解除されるかもわからなかった。
    「出荷制限」は一度出ると、たとえ線量がゼロであっても出荷制限解除されるまでに最低でも約1ヶ月の時間を費やす。さらに出荷できたとしても卸売市場で値段はつかない。出荷制限発表後の東京の大田市場では、ホウレンソウ以外の野菜ですら山積みにされ、卸値は下落した。(「ホウレンソウ取扱量、東京で半減 4県産出荷停止受け」朝日新聞2011.3.22)

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    「政府は出荷制限すれば消費者は安心すると思ったのだろうが、それは大間違い」と長谷川社長

     自分自身で測定することが必要だと思った長谷川社長だが、JGAPな ど外部機関での測定を依頼すれば、一検体当たり4時間程度の時間と約2万円の費用がかかり、コストが上がる。そんな時に高妻教授と偶然出会い、自主測定が 実現できた。大学から測定器を持ち出すことは教授自身の気持ち次第だ。高妻教授はいまでは直売所での測定を研究の一環と位置づけ、学生が手伝いやすい環境 にしている。
     みずほの自主測定の結果、みずほの基準値を超えた作物もあった。2.5ヘクタールで野菜を育てる女性農家はチヂミホウレンソウが基準値を超え、約30万 円の損失が出た。「30万円の損失はきびしい。でもみずほの検査に出してなければ今後の作付け計画もたてられず不安だったでしょう」現在はサツマイモや落 花生など次のシーズンの作物に取りかかっている。次の作付けができることは農家にとって安心して暮らせる大きな要素だ。

    ★ 疑問を共有するコミュニティを ★

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    次第に落ち着きを取り戻していったみずほの店内

     政府が断片的な情報を出し、不安感は一気に広がり、みずほの売上は一時通常の半分になった。事故以来、政府は「市場に出回っているのは基準を超え ていないものです」と野菜を食べながら話す光景は何度も放映された。しかし消費者の不安は解消されておらず、北関東、東北産の農水産物を避ける人はいまだ に少なくない。
     みずほの公開測定会に参加した消費者の一人は「野菜は洗えば放射線量の数値が下がる、大根の葉には放射性物質が残りやすいなど、自分の目で数値を確認してようやく納得できた」"見えない不安"が取り除かれていった経緯を語った。

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    店内には子どもがたくさん

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    カゴに入ったニワトリ。店内には動物まで

     "見えない不安"をどうやって解消するか。食を通じたコミュニティに注目するのは阪神淡路大震災などの被災状況を調査してきた中村幸安(な かむら・こうあん)氏だ。「『どうしてこのホウレンソウだけ残留線量があるんだろう』『あ、生産者が違う、地域が違う』と共同で放射線量を測定すれば、疑 問を共有してそこからまた新しい問題意識が芽生えます。都会のコミュニティに共通してるのは消費すること。小さなグループでもいいから共同で食べ物を消費し、問題意識を共有することに価値があります」と一人で問題を抱えるよりも共有することの価値を訴える。(了)

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    みずほの動物たち

    (文:上垣喜寛(《THE JOURNAL》編集部) 写真:高木あつ子 取材日:4月29日)

    ★ ★ ★ ★ ★

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     この記事は農文協の許可を得たダイジェスト記事です。「みずほの村市場」のくわしい取り組みのほか、菅野飯舘村長のインタビュー、この震災で活躍した各地域については最新号「季刊地域」(農文協)掲載されています。全国の書店で発売中です。
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