甲斐良治さんが編集長をつとめる『季刊地域』が、東北の被災地を独自の視点から編集した『大震災・原発災害 東北(ふるさと)はあきらめない!』を刊行した。いまある「東北の姿」とは何か。また、「大規模化」や「集約化」が声高に叫ばれる現状をどう見ているのか。甲斐良治編集長に話を聞いた。
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甲斐良治氏(『季刊地域』編集長)
「人間はあきらめれば無力だけど、あきらめなければ無力ではない」
──「東北(ふるさと)はあきらめない!」というタイトルに込めた思いは
なぜ「東北はあきらめない!」というタイトルにしたのかというと、人間はあきらめれば無力だけど、あきらめなければ無力ではないということを、現地の取材を通じて実感したからです。
たとえば特集では、宮城県塩竈市出身の編集部員の、津波の被害を受けた実家のレポートを掲載しています。鉄工所を経営している彼の父親は、30年続 く洋菓子店の生地こね機や製粉機が津波にあい、「修理には業者の見積もりで400万円以上かかる」となかばあきらめて話していた店主に対し、「モーターを 真水で洗えば動くかもしれない。あきらめるには早いよ」とアドバイスしたそうです。そのとおりにしたら機械が動くようになった。店主は「もう1回がんばってみるよ」と喜んで知らせに来たそうです。
実家の鉄工所は笹かまぼこなど魚の練り製品の1次加工用機械を製造していて、得意先 の水産加工会社の8割を津波で失った。でも、工場の旋盤を真水で洗ったら動き出した。いまでは、単発で単価の高い機械の受注製造は厳しくても、修理や整備 などの小さな仕事を「複業」でやっていけるのではないかと考えているそうです。東北の人たちは、こうやって小さな希望をを見つけて、その地域で生きていく ことを「あきらめない」。復興には時間がかかるかもしれないけど、私は、こういった小さな希望をひとつひとつ実現していくことが、地域の復興に一番つなが るのではないかと思っています。
── 編集作業を通じてどんなことを感じましたか
「がんばれニッポン!」ではなく、どうすれば「あきらめない」でその地域に暮らしていけるか。このことは最初からそう考えていたわけではなく、特集の取材活動過程を通して感じたことで、特集全体にそれがにじみ出ていると思います。
もちろん、あきらめないのは塩竈市だけではありません。
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