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岡田斗司夫のニコ生では言えない話
 岡田斗司夫の解決!ズバっと 2016/06/04
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おはようございます。

今日は『解決!ズバッと』はお休み。
岡田斗司夫が、1995年から2001年に「テレビブロス」誌で連載していた『オタクの迷い道』から、セレクトしてお届けします。

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連載第35回「久しぶりに模型界の伝承芸能を踊った」 

 
 先日、東京郊外にあるヴィンテージ・プラモデル専門店に行って、久しぶりに「買うた・やめた音頭」を2時間も踊らされてしまった。

 「買うた・やめた音頭」とは、プラモデル界に古くから伝わる踊りだ。
 模型屋でプラモの箱を半分引き出してはながめ、また戻し、別の棚の別の箱を半分引き出してはながめ、また戻す。
 この手や顔の動きと、その都度発せられる「これや!」とか「いや、でも」とか「やっぱり」とかいう言葉が、まわりから冷静に見ると、盆踊りでも踊っているようにみえることから命名されたものだ。

 模型好きなら名前は知らなくても、誰しも一度ならず踊った経験があると断言できる。
 いや、「買うた・やめた音頭」を踊らずして模型ファンを名乗ることなど出来ない。

 僕が踊ったこのお店は、品揃えの豊富さと値段の高さで定評がある。
 僕はこの店で初めて、「2001年のムーンバス」(二十万円)の現物を見た。
 「てなもんや三度笠」が八千円、というのは案外安かった。

 そこで僕は、見たことすら自分でも信じられない「ジョーズ」のプラモデルを発見した。
 鮫が波から体半分乗り出して、口を開いているディオラマだ。

 後ろには、沈みかけた船のマストにしがみついているロイ・シャイダーの背景がオマケに付いている。
 描き割りなのだ。
 こんなプラモの存在、誰も信じてくれない気がした。
 どうしても買わねば。
 でも、値段は2万円もした。

 これを買うくらいなら、ムーンバスの方が・・・いや、でも、やっぱり・・。
 僕は、天国と地獄をいったりきたりしているような気分で、「買うた・やめた音頭」を踊り続けるしかなかった。


以上、『オタクの迷い道』よりお届けしました。