この回の主人公の真田信繁は、謹慎させられているんです。
徳川家康に逆らった罪で、自宅に謹慎させられているんですね。
そこには、監視のために家康の家来がいるんです。
家康の家来なので、本来は信繁よりも位が下なんですよ。
だけど信繁は位を奪われているから、家来が偉そうにしているわけですね。
信繁「○○をさせてくれませぬか?」
家康の家来「ならぬ!」
みたいな事が、あったんです。
そこに加藤清正が、この間の関ヶ原の戦いで負けた石田光成 治部少輔の奥さんを連れてくるんですね。
そして「コイツ(信繁)と話があるから、お前(家康の家来)は出て行け!」って言うんですね。
すると家康の家来は「それはなりません!私は家康様から監視役を命じられました!」って言うんです。
そしたら加藤清正は、怒って「俺を誰だと思ってるんだ!加藤清正だぞ!」って言うんです。
そうすると、家康の家来は板ばさみになるんですね。
だって、家康からは「絶対にコイツを誰とも会わせるな!ずっと見張っていろ!」って言われてる。
加藤清正は加藤清正で「俺は豊臣家の直臣で、家康と同格だったかもしれない人間だぞ!」って言ってきている。
家康の家来は、にっちもさっちも行かなくなっちゃった。
そのシュチエーションで、信繁は監視役に頭を下げるんですね。
すると監視役は“ふっ”と心が軽くなって、「じゃあ」という事でその場を去るんですよ。
本来は、この監視役は席を外しちゃいけないんです。
加藤清正から怒鳴られて席を外しちゃったら、武士にとって大事なプライド・面子が傷つけられた状態で行くしかないんです。
あの監視役が席を外せなかったのは、もちろん責任問題という事もあるんです。
だけど「加藤清正にこんな事を言われたら、俺は席を外すわけにはいかない!」という面子もあったんですね。
でも、その瞬間に信繁が頭を下げてあげた事で、「じゃあ俺の裁量範囲で許してやるか」と席を外すことが出来たんですね。
すごく小さな演技なんですよ。
見えないぐらい小さい演技なんですけど、こういう事で信繁の持っている思いやりや、弱者へのいたわりが出来ているんですね。
さっきまで信繁に威張り倒していた監視役に対して、ちょっと頭を下げてやる。
ここで加藤清正が怒鳴り散らしているんだから、さっきまでの怒りをぶつける事も出来るんです。
だけど、それをせずに頭を下げて相手を外に出やすくしてあげた。
こういう小さい演技を、ちゃんと積み重ねるところが『真田丸』の上手いところだと思いますね。
信繁がちょっと頭を下げる。
そうすると、家康の家来が“ほっ”としたような顔で席を外す。
このシーンは、なかなかいい観察ポイントだったと思います。