『攻殻機動隊』は、読んだ人があまりに少ないのが僕の怒りポイントですね。
みんな、アニメは見てるんですよ。
おそらく今度のスカーレット・ヨハンソンの映画も見るんだけども、原作をちゃんと読んでるのか!? (笑)
という事で今回は、その昔『BSマンガ夜話』というので僕がやった紹介を、もう一回やってみるね。
『攻殻機動隊』第三話の『JUNK JUNGLE(ジャンク・ジャングル)』という回からです。
攻殻機動隊の中で、始めて光学迷彩が戦略として扱われた話。
テロリストを追いかける為に主人公たちが来るんだけども、それとは関係ないテロリストの知り合いが忠告する為に来ちゃう。
それでテロリストは「あっ」って言って、「俺は追いかけられているんだ」と分かって、瞬間に警戒態勢に入る。
その瞬間に、空中にチカッと光る物が見えた。
これは光学迷彩で透明になってるフチコマが、遠くから降りてくる時に反射した光なんだよ。
これは『マンガ夜話』で漫画家のみなさんに説明するなんて面白い事をやったんだ。
夏目さんに「それは、どこかに書いてるの?」って聞かれたんだけど、書いてないんだよ。
なので「士郎正宗を読む人間は、全員それぐらい分かる」って言ったんだ(笑)。
チカッと光る物が見えて、その瞬間にテロリストは「俺を売りやがったな!!」と言って、腰に手を当てて「チキ」という作動音がする。
これがテロリストがこれから透明になる為のデバイスのスイッチなんだ。
それでテロリストの知り合いが「おい!たいへんだー」って言ってる最中に、もうテロリストは銃を撃ちながら「ブゥン」って音がしてる。
おそらくこれは腰のところに付けている透明化装置のデバイスが、テロリストの体を扇状に覆い隠しつつあるわけだよね。
それで銃を撃って、知り合いの自動車に当たったんだけど、この瞬間の構図が変なんだ。
自動車に弾が当たったなら自動車を中心に描くはず。
なのに自動車を右側に寄せて左半分を空けてある。
それは何故かというと、その部分に透明なフチコマがいて、フチコマを避けるように煙が広がっているのを描きたかった。
なので、フチコマの中で振り回されるヤツとかも描いてしまう。
ここら辺が読み取れるかどうかが、士郎正宗を面白がれるかどうかにかかって来るんだよね。
この攻撃でフチコマの透明化が解除されてしまったので、煙の中からドンと出て来て電信柱にぶつかって、車の人は「何がなんだか分からない」って顔をしている。
それで一瞬グニャッと歪んで見えるシーンは、もうすでに透明になってしまったテロリストが逃げる横顔だけが見えているというシーン。
何があったのかというと、「17式光学迷彩!」という事で、逃げるテロリストの後姿だけが見えると。
ここから先は光学迷彩をしている者の追いかけ合いだから、マンガとしてはほとんど何も映っていない状態なんだ(笑)。
空中でマズルフラッシュが見える。
マズルフラッシュとは銃の先から見える、撃つ弾の光。
それが消火栓に当たると、水が出てきて「ジジジジジッ」という音がして「あっ」という声がする。
「あっ」という声がしたってことは、テロリストは予想もしていなかったって事なんだよね。
それで「くそッ」って言ってる事で、水にかかると光学迷彩の効力が切れてしまうという事が分かる。
士郎正宗のマンガの作り方というのは、こういう事をセリフでは説明しない。
「それは、どこに書いてあるの?」というのを書かずに、見せたいんだよね。
だから、分かる人には「コイツのセンスやアイデアや見せ方、何もかも凄いな!」って思われるんだ。
けども、ここが分からない人は、なんとなくアクションもののマンガみたいな感じで読み飛ばしてしまうんだよね。
士郎正宗は、ものすごく高度な事を、分かる人には分かるように描いてしまう。
なので、売れてはいるんだけどもアニメほど有名になれない珍しい人だよね。
僕は『攻殻機動隊』のアニメは好きなんだ。
だけど、マンガと比べると、見せ方もアイデアもキャラクターの魅力も、何段階も士郎正宗の方が上だなと思うんだよね。
士郎正宗のマンガの中には、こんな話を描いておきながら“笑い”と“ギャグ”と“優しさ”があるんだ。
だけど、押井守のアニメの中には、それが何一つ入ってない(笑)。
神山さんのアニメにも“笑い”は入ってないんだ。
入れられないんだよな。
凄いんだけど、それを誰でも分かるようにしたアニメの方が評価が高いっていうのが、SFマンガが好きな者としては、ちょっと悔しい所であります。