映画『エイリアン』の撮影当時、スタジオがあった近くに、飲み屋が二軒あったんですよ。
で、二軒あった飲み屋で、一軒は俳優さん用。
俳優とか映画監督とかが集まる、ちょっといい感じの飲み屋。
もう一軒は、もうちょっと安い感じの大衆飲み屋で。
そこは撮影スタッフとか技術さんとか、あとH・R・ギーガーの150人の美術スタッフとかが集まるような安い飲み屋と、二軒あったんですね。
で、その二軒があって、完全に分かれていると言うよりは、俳優さんも時々は安いほうに行くし。
スタッフも、時々はノリで俳優さんがいる、ちょっと高い飲み屋に来るという。
こんな環境だったんですね。
それで、俳優さんがそこで話す話題というのは、「おい、見たか?」「いや、よく見えなかった」って、モンスターの話ばっかりなんですよ。
監督が来て、リドリー・スコットが来て聞いても、ギーガーが来て聞いても、ダン・オバノンが来ても、とりあえず、みんなは「いや、見せれない」としか言わないと。
それで、いいかげん みんなが欲求不満になってる時に、ある日、ギーガーが150人の美術スタッフの中で、現地で雇った美術大学の学生の黒人を連れてきたんですね。
それでコイツが、ものすごく背が高いんですよ。
身長が2,2mある黒人を連れてきて、みんな「なんだ、アイツ!?」って。
「あんな美術スタッフ、なんだよ!?」とか言ってて。
「なんでギーガーは、こっちの俳優のほうの飲み屋に連れてきてるんだ?」とか、変に思ってたんですね。
で、実はコイツが“エイリアンの中の人”なんですよ(笑)。
名前がボラジ・バデジョというナイジェリア人です。
俳優さんは「え、なんでアイツが俳優の飲み屋に来るんだ?」と。
「アイツは美術スタッフだろ?」「めちゃくちゃ背が高くて細いヤツだな」って思ってたんですけども。
でも、いざ、それぞれの俳優さんがエイリアンと会う場面になって、本当に初めてエイリアンのデザインを見るから「ウワーッ!?」って恐怖すると同時に、終わった後で「アイツかぁ」っていうのが分かってですね。
「そりゃ、俳優の飲み屋に来るわ」と思って、それを言いたかったんですけども、ところがエイリアンに出会う俳優さんは、例外なくその日で撮影が終わりなんですよ(笑)。
だってエイリアンに会う俳優さんは、全員、エイリアンに殺されちゃうわけだから。
だから、バディジョの正体が全然バレない。
だって、その場で殺されて、俳優は出番が終わりになって、「はい、ヴェロニカ・カートライトさん。今日でオールアップでーす!」って言われて、花束を渡されて、そのまま飛行機のチケットを持たされて、車でロンドンのヒースロー空港まで送られて、アメリカに帰るというのばっかりだったから。
シガニー・ウィーバーなんて、実はラストシーンを撮るまで、エイリアンを見た事が無かったそうなんですね。
もう、凄いよね(笑)。
リプリー役のシガニー・ウィーバーが初めてエイリアンをちゃんと見たのは、ラストのナルキッソス号っていう、ノストロモ号の脱出艇の中のシーンなんですよ。
もうシガニー・ウィーバーも、いい加減、これで何か出てくるのが分かってたんですね。
「でも、スタッフの中で私だけが何が出るのか分からなかった」って言ってたんです。
で、そのシーンになって、ハイって言ってリハーサルでも見せてくれなくて。
本番になってリプリーが、恐怖のあまり振り返る。
振り返ったら、ナルキッソス号のパイプの間から、てっきりパイプだと思っていた一部がガタガタガタッと動いて、長い手足がヌゥッと伸びて、モンスターが立ち上がるというシーンがあったんです。
で、もう取り敢えず、リプリーのシガニー・ウィーバーは、あまりのデザインの怖さ、悪魔みたいな怖さ、それと同時に「ものすごくキレイだった」と。
「とにかく、あんなキレイなものは見た事が無いし、キレイで怖くてビックリした」と。
それと同時に、「ちょっと待って!」と。
「あれ、飲み屋の“あの子”じゃないの!?」と思って、後で可笑しかったそうなんです(笑)。
で、まぁまぁ、こうやって撮影が順調に終わりました。