ここまでのお話
SFショーというイベントの失敗で傷ついた僕は、心を癒やすため、アメリカはボストンの世界SF大会に行くことにしました。
着いたら、そこはもうSFファンの天国みたいな場所でした。
有名SF作家もいるし、新しいSF映画の上映はしてるし、本物の鎧とか本物の剣とかも、売ってるんです。
なんちゅう国だと思いました。
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子供の頃にすげえなと憧れていたアメリカは、「科学」の国というイメージでした。
それが、アメリカの世界SF大会に行ったら、世界中からボストンにファンが集まって、ものすごいイベントが開催されてるんです。
自分たちはイベントで700人のお客さんを集めようとして130何人しか客が集まらなかった。
そんなSFショーが終わった直後だから、もう圧倒されっぱなしでした。
夜になるとホテルでは、スウィートルームとか、普通の部屋とかが開放されていて、あちこちでパーティーが開かれているんですよ。
僕ら日本人がのぞきに行くと、言葉がわからなくても、入れ入れと言われて、どんどん飲み物とか食べ物を出されて歓迎されるんです。
「お前は何が好き作品はなんだ? 俺も、それが好きだ」とか、「このビデオ観るか?」とかガンガン話しかけられる。
毎晩毎晩、ホテル中の部屋でバーッとパーティーをやってるわけです。
そんな雰囲気にのみこまれて、「うわぁ、すげえなあ! 俺この世界で一生、生きていけたらな」と強く思ったんですよね。
子供の頃に見ていた科学の国に来てみたら、こんな天国を見つけちゃったという気分です。
「こういうものを扱って、一生 生きていけたらな」というのが、僕の今の人生に至る大きな流れになりました。
そんなすごいイベントのディーラーズルームでは、膨大なTシャツも売ってたんですよ。
やっとTシャツの話になります(笑)。
“Star Wars”とか、“Star Trek“ と書かれたTシャツもいっぱいあります。
でも、そのスターウォーズとかスタートレックって書いてあるTシャツの中にも、「スターウォーズはもう古い」とか、「スターウォーズで俺は人生が変わった」とか、「スターウォーズ死んじまえ」とか、「今こそスタートレックを見よう」とか、そんなTシャツもいっぱい売ってるんですよ。
「おおー!」っと思って見て回っていたら『それ行けスマート』とか、『珍犬ハックル』とか、誰も覚えていないようなマイナーなテレビドラマとかマイナーなアニメとかのTシャツも売ってるんですよ。
とにかく元ネタにする作品が幅広くてすごいんです。
そんなたくさんのTシャツの中から見つけたのが、この『ハロークトゥルフ』です。
クトゥルフ神話というもの自体が、かなりマニアックです。
日本では、ライトノベル『這いよれ!ニャル子さん』のおかげで、そこそこメジャーになってきましたね。
クトゥルフ神話には、地球をかつて支配していた古代の神で、このタコみたいなバケモノがいます。
それにハローキティをあわせてる。
キティは、当時のアメリカでは、もう本当に最先端の最先端の流行だったんですよ。
だって、当時アメリカには、サンリオショップとか全くなかったから。
今だったら世界中にあるから、誰でもハローキティを知ってるけどね。
ただ一部、すごいアンテナ感度の高い奴が、日本にはハローキティというのがあって、ちょっとあれ面白いぞって思ってた。
日本人でもようやっと男性の大人の人が、サンリオキャラクターって面白いかもしれないなと気づき始めた頃です。
アメリカでもやっぱりそれ気づいた奴がいて、そいつがクトゥルフとサンリオキャラクターのなんていうの? 勝手なタイアップというのを、やっちゃったTシャツです(笑)。
これを見た時に、もう俺はこの文化というのかな、「このノリに一生ついて行こう!」と思いました。
それで後に『トップガン』と『エースをねらえ!』を足して『トップをねらえ!』というアニメを作ることになるんですけども(笑)
そういうものを作るようになったのが、このハロークトゥルフというTシャツを買ったからですね。
この黒いTシャツでこの状態から分かる通り、勢い込んで買ったものの、どこに着ていっていいかわからない。
いまだ新品のままです。
当時の体型と今の俺の体型は変わらないので、今でもバッチリ着れます。
でも、未だにこれを着る場所はですね、僕には与えられていないということです。