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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「“レプリカント”にリドリー・スコットが込めた意味」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「“レプリカント”にリドリー・スコットが込めた意味」

2017-10-31 06:00
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    岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2017/10/31
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    今回の記事はニコ生ゼミ10/22(#201)よりハイライトでお送りします。


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    「“レプリカント”にリドリー・スコットが込めた意味」


     『ブレードランナー』の原作小説、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を書いたフィリップ・K・ディックは、1982年の3月2日に死んだんだ。

     なので、結局、劇場公開されたブレードランナーを見ないまま死んじゃったんだよ。


     フィリップ・K・ディックは、さっきも言った通り、死ぬ直前まで、『ブレードランナー』という映画を憎んでいた。

     嫌ってたんだよね。

     その理由は、「アンドロイドという言葉を使うな!」とか、あとは「原作者面するな!」とまで言われたからなんだけど。

     まあ、なぜかリドリー・スコットは、“アンドロイド”という言葉を出すのを極端に嫌がってたんだ。

     これがなぜかという話に、もうちょっとしたら繋がってくるんだけど。

    ・・・

     82年の3月に死んだフィリップ・K・ディックは、その前年の81年のクリスマスに、リドリー・スコットからカリフォルニアに招待されたんだよ。

     もちろん、仲直りという意味もあったんだろうけども、特撮シーンの20分くらいの完成版がようやっと出来たから、それを見せるために呼んだんだ。


     フィリップ・K・ディックは、「リドリー・スコットに会ったら、『エイリアン』の悪口を言ってやろう!」と思って、頭の中でずーっと悪口を考えていたんだって。

     そんなもんだから、呼ばれた先で撮影に使ったミニチュアなんかを見せてもらった時も、「ふん」と、あんまり感心しなかった。

     ところが、完成したその20分の特撮のラッシュを見た後で、フィリップ・K・ディックが最初に言った言葉は「もう一度、見せてくれ」だったんだ。

     そして、もう一度 見た後で、フィリップ・K・ディックの態度は丸っきり変わってしまった。

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     俺が思っていたフィルムとは全く違った。

     でも、『アンドロイドは電気羊の夢を見るのか?』を書く時に俺が感じていた風景とすごく似ている。
     
     もちろん、小説の舞台は、砂漠みたいな土地であって、画面としては、ずっと薄暗くて雨が降っていたりとか、人がいっぱいとか、全く逆なんだけども。

     でも、風景のイメージとか、ニオイとかは、あれを書いていた時のことを思い出すくらい全く同じだった。

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     そう言って、そこで一気に和解したんだよね。

    ・・・

     ただ、和解した時点でもなお、唯一、意見が違ったのが「デッカードが追っているのはレプリカントか? アンドロイドか?」という話なんだよ。

     フィリップ・K・ディックは、原作の中で、アンドロイドを、残酷で、冷酷で、非人間的なものとして描いたんだ。

     「だからこそ、それを狩る専門の職業がある」というふうに、はっきりと「人間とは違う」と描いている。

     でも、リドリー・スコットは、自分で描いた“レプリカント”について、いつの間にか、人間よりも哀れで、優れていて、純粋な生き物として捉えていたんだ。

     「相変わらず、そこだけは話が合わなかったけど、それ以外の部分ではリドリー・スコットとはすごく仲良くなったよ」っていうふうに、死の直前に、フィリップ・K・ディックは語ってるんだけど。

    ・・・

     フィリップ・K・ディックが、なぜアンドロイドを非人間的な存在として描いたのかというと、「この原作が書かれたのは68年だから」なんだよね。

     1968年っていうのは、ベトナム戦争の時代なんだ。

     で、保守主義のリドリー・スコットと違って、フィリップ・K・ディックは完全に自由主義、いわゆる左翼の人なんだよ。

     つまり、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』っていうのは、ベトナム戦争に対する問題意識から生まれてきた小説なんだ。


     フィリップ・K・ディックがこの小説を書き始めたきっかけというのは、どこかの大学の図書館で見た本に書いてあった、ナチス親衛隊の話なんだ。

     第2次大戦中、ドイツ軍のナチス親衛隊がポーランドに侵攻した時に、そいつらが書いた日記というのが残っていた。

     その日記を読んでみたら、「子供達の泣き声がうるさくて寝れない。困ったものだ」というふうに、親衛隊たちが書いていた事が分かったんだ。

     でも、なんで夜中に子供達が泣いているのかというと、ポーランドにナチスが攻撃を仕掛けたおかげで、子供達が全員、飢え死にしそうだからなんだよ。

     その飢え死にしそうな子供達がいる施設の隣にある豪華なホテルに、ナチス親衛隊は宿泊しているわけだよ。

     お腹が空いて寝れない、死にかけている子供達が、みんなでピーピー泣いてる声に対して、ナチス達は「子供が泣いてるなあ。迷惑だよな」って言っている。

     そんな日記を読んで、フィリップ・K・ディックは、「なんて非人間的なんだ! なんて残酷なんだ!」って思ったんだ。

    ・・・

     だからといって、これは「ナチスドイツが残酷だ」という話ではないんだ。

     「人間というのは、非人間的なことを繰り返せば人間性を失ってしまうものだし、人間性を失えばいくらでも残酷になる」ということなんだ。

     この『アンドロイドは電気羊の夢を見るのか?』という作品のどこが怖いのかって、「アンドロイドを殺すという行為を通じて失われていく人間性」というのが怖いんだ。


     アンドロイドというのは、感情があるように見えても人間じゃない。
     魂がない。

     残酷だし冷酷だ。
     だから、殺しても構わない。

     ただし、人間そっくりのものを殺してしまうと、殺した者は人間性を失ってしまう。

     つまり、「いくら戦争の大義や理由があるとはいえ、それが敵の兵隊とはいえ、そこで“同じ人間を殺す”という非人間的なことをしてしまえば、殺した者の人間性というのは損なわれてしまう。 崩れてしまう」と。

     これが、フィリップ・K・ディックの主張なんだよね。


     実は、「なんでペットを虐待したらいけないのか?」についての回答も、ここにあるんだ。

     ペットは人間じゃないんだけど、でも、ペットを虐待したら“魂が汚れちゃう”んだよね。
     
     虐待するヤツの魂が汚れるからダメなんだ。


     他にも、たとえば、嫌いなヤツの顔写真の目のとこに針をグザグサ刺しても、誰の迷惑にもならないわけだよ。

     言ってしまえば、それは「単に紙に針を刺しているだけ」だから。

     ただ、そんなことを続けると、そいつの魂は汚れるよね。
     人間性が損なわれる。

     これが、「アンドロイドを殺すことは悪いことじゃないんだけども、しかし、その行為を通じて、殺す者はある種の呪いにかかってしまう」というストーリーを通じて発せられた、フィリップ・K・ディックの主張なんだ。

    ・・・

     だから、フィリップ・K・ディックは、最初に『ブレードランナー』の脚本を見た時に怒ったんだよね。

     というのも、レプリカント(アンドロイド)を人間として描いちゃってるからなんだよ。

     「レプリカントのレイチェルと一緒に駆け落ちする」というラストに至っては、ロイ・バッティ役を演じたルトガー・ハウアーも呆れたんだって。

     ルトガー・ハウアーは、出演する前に原作をちゃんと読んでいて、すごくいいなと思っていた。

     だから、「ちょっと待て。これは違うだろ? 俺は今、人間に見えるような演技をしてるんだけども、あくまでアンドロイドなんだよ。それと最後に駆け落ちしちゃったら、これはただの“人間が人間を殺す話”になってしまって、深みも何もない。非人間的な行為が人間をダメにするという主張が生きてこない」って、彼も怒ったんだって。


     でも、リドリー・スコットは、フィリップ・K・ディックから「そこだけは賛成できない」と言われた時に、こう答えた。「いや、俺はね、難解な映画は撮りたくないんだ。痛快な西部劇を撮りたいんだ」って。

     そうやって、頑張って説得した結果、フィリップ・K・ディックも渋々納得して、以後、『ブレードランナー』の悪口を言わなくなった。

     それどころか、この映画を誉めるようにまでなって、公開をずっと楽しみにしてたんだけども。

     彼は、劇場でそれを見る前に、心臓発作で倒れて死んでしまった。

    ・・・

     この、リドリー・スコットが言った、「私は難解な映画は撮りたくない。痛快な西部劇を撮りたい」という言葉が真実だったのかっていうと、俺、違うと思うんだよね。

     本当は、さっきも言ったように、「リドリー・スコットにとってのテーマが、映画を作っている中で変わってきちゃったから」だと思うんだ。


     フィリップ・K・ディックは、左翼の作家だから「人間性を失う」っていうことをテーマにするんだけども。

     リドリー・スコットは保守主義だから、共産主義が嫌いでエリートを支持するんだよ。

     だから、「権力が人間性を奪う」なんて考えないんだよね。


     じゃあ、『ブレードランナー』でリドリー・スコットがいつの間にか描いちゃったテーマっていうのは何かというと。

     はっきりと言葉にして言っちゃうと、「神の子イエスが、全ての罪を背負って十字架に掛かることで、全ての人類は許される」っていうものなんだよ。


     だからこそ、タイレル社長に会ったロイ・バッティは、彼を「ファーザー」って言うし、タイレル社長も「息子」って言う。

     さらに、息子と呼ばれたロイ・バッティは、死にかけて朦朧とした意識を正すために、手の平に釘を打つんだけど。

     これはもう、“スティグマータ”(聖痕)という、イエス・キリストが釘で手の平を打たれたということの暗示だよね。


     西洋の映像主義の作家が、「手の平に釘を打つ」なんてシーンを見せた場合、それは全てスティグマータのメタファーであると考えるのが正しいんだ。

     これについては、前に『ブレイキング・バッド』の話をした時にも、「脇腹から血を流している男の周りに十字架があったら、それはわかりやすい暗示だ」って話をしたよね。


     こうやって、神に創られた息子の話だと考えると、なんかね、リドリー・スコットが何を作りたかったのかということが、スーッと降りてくるんだよね。

    ・・・

     つまり、リドリー・スコットにとって、この神の見えない現実の世界で人間が許されるためには、「人間が自分の息子を創って、その息子に4年間の寿命という理不尽な死を与えて、その上で、息子が自分たち人類を許してくれて、代わりに死んでくれる」という儀式が必要なんだ。

     実は、この倒置したキリスト教の考え方が、リドリー・スコットの中に強くある。


     だから、『エイリアン:コヴェナント』も『プロメテウス』も『ブレードランナー』も、全部この話になっていくんだよな。


     これ、ちゃんと繋がってるだろ?(笑)

     この間、「あいつはすべての作品を1つに繋げようとしている」って言ったのは、このことなんだけどもね。


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