映画『ブレードランナー』あるあるの一つに、いわゆる「主人公のデッカードは、レプリカントだったのか?」というのがある。
これは、いまだに映画雑誌なんかにも載ってるんだけども。
これに関しては、今も映画館でやってる所もあるファイナルカット版ではハッキリと「デッカードはレプリカント」という事になってる。
レプリカントの特徴として、光を受けたときに、目の中がちょっと赤く反射するのがある。
この反射が、ちゃんとデッカードにも入ってるんだよ。
タイレル社長の所にいた時に、大きめのフクロウがいて、それがワッサワッサワッサと飛んでくるシーンがあるんだ。
それで「これは作り物なのか?」と聞いたら、「もちろんよ」とレイチェルが応えるんだけども、初期の案では違ってたんだ。
だって、タイレル社長って大金持ちなんだから、レプリカントのフクロウを持ってても、何の自慢にもならないんだよ。
タイレル社長の部屋には生きてるフクロウがいて、「それぐらい金持ちなんだ」というシーンなんだ。
ところがフクロウを撮影している時に、間違って光がフクロウの目に入っちゃったんだよね。
それでフクロウの目の真ん中が光っちゃったから、しょうがないから、このフクロウはレプリカントって事にして。
それでレイチェルのセリフを、わざわざ後でボイスオーバーでアフレコで入れ直した。
だから「あのフクロウもレプリカントか?」ってデッカードが聞いたら、「いいえ、違うわ」ってセリフを「もちろん、そうよ」って言ってるから、あそこのシーンは口と絵が合ってないんだよね(笑)。
実は、それぐらいちゃんと“目の光”というのは、気をつけて使ってるんだ。
それで、デッカードが殴り合いした後で、台所でちょっとお酒を飲む。
チンタオか何かを飲むときに、口の中の血が透明のお酒の中にちょっと戻るという、スゲェ、カッコイイ シーンがあるじゃん。
あのシーンの後で、台所から戻ってくる時に、ちゃんと目が光ってるんだ。
ここまで画面管理っていうのをちゃんとする監督だから、コレが出るって事はデッカードはレプリカント。
後で、もうダメ押しみたいにリドリー・スコットが、全員が反対しているのに無理やり入れたシーンっていうのがあってさ。
それが何かって言うと、デッカードがピアノを弾いた後でグーッて、ちょっと寝ちゃうシーンなんだ。
その寝ちゃうシーンの中に、馬の頭に角がついているユニコーン(一角獣)の夢を見るというシーンを入れたんだ。
みんな「それは入れない方がいい」って反対してるのに。
それは何でかと言うと、ラストで自分の後輩のガフに追いかけられている時に、ガフがユニコーンの折り紙を置いていくと。
つまり、「俺はここに来た」「俺はお前の夢の中身を知っている」=「実はお前もレプリカンとなんだ」というシーンなんだけども。
もう映画のスタッフにしたら、「あんなにカッコイイ、ロイ・バッティのセリフを撮れたんだから、“デッカードもレプリカントかもしれないね”ぐらいで、いいじゃん!」って思ってた。
なのに、そのユニコーンのシーンを無理やり差し込むからさ(笑)。
「デッカードはレプリカントだ!」と、強い意味を持っちゃった。
これは原作にも無いんだけども、リドリー・スコットがどうしても入れたかったメッセージなんだよ。
なので、「デッカードは実はレプリカントなのか?」っていうのは、「違います。 デッカードは人間です。」という人間派と、レプリカント派に分かれてる。
レプリカント派は、リドリー・スコットただ一人。
人間派は、ルトガー・ハウアー、原作者のフィリップ・K・ディック、ハリソン・フォード、その他 全員という(笑)。
リドリー・スコットだけが、「デッカードはレプリカントだ」という事にしたかった。
実は、これがリドリー・スコット自身も撮影当時は気が付いてなかった、自分の中のテーマ性なんだよね。
「本当は、そんな映画を撮りたかった」というのを撮影中は気が付いてなかったから、「いやぁ、ネクサス6型は反射で助けたんだ」とか答えてたんだ。
だけど、段々と自分の中で自分のテーマ性が分かってきたんだよ。