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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「SFとしての『ラピュタ』・後編」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「SFとしての『ラピュタ』・後編」

2018-01-24 06:00
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    岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/01/24
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    今回は、ニコ生ゼミ1月14日(#213)から、ハイライトをお届けいたします。

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     SFとしての『ラピュタ』・後編


     「『ふしぎの海のナディア』に出て来る“ブルーウォーター”は、『天空の城ラピュタ』の飛行石の設定と似ている」と、放送当時からよく言われてたんですけども。

     もう、『ラピュタ』に関する話は今回を決定版にしたいので、ここからは、ちょっと、『ナディア』との関連の話もしておきますね。


     ガイナックスが『ふしぎの海のナディア』を作った時、このブルーウォーターを含めて、一番 最初の設定は、全て僕が担当しました。

     だけど、実際にアニメを作って行く中で、段々と最初の設定というのが使いにくくなってくるんですね。

     なので、その後は、庵野くんが好きなように変えていくという形でやっていたんです。

     ただ、それでも庵野くんの方のアイデアが尽きてくると、「岡田さん、あの設定って、どうなってたんでしたっけ?」と聞きに来る。

     「いや、あれは実はこうで~」と説明すると、庵野くんが、また、その中から使いやすい部分だけを拾っていく。

     そういうやり方で、『ナディア』の設定は作られています。

     なので、僕が説明できるのは、一番最初に僕が作った原案だけです。

     今日は、その中から、ブルーウォーターの説明をします。

    ・・・

     もちろん、『ふしぎの海のナディア』は『ラピュタ』の後の作品なので、“宮崎駿のパクリ企画”です…
     
     …というのもナンですけど(笑)。

     
     どういうことかというと、宮崎駿が昔に書いた『海底世界一周』という企画書があったんですけど、それをNHKから渡されて、「これを作れ」と言われたんですよ。

     「これ、完全に『ラピュタ』じゃん!」って思ったんですけども。しかし、作れと言われたからには考えなきゃいけないんで、まあ、なんとか設定をでっち上げたわけなんです。


     そんな中で、古代アトランティスの遺産としてブルーウォーターというアイテムを作りました。

     これは、『ナディア』に出てくる“バベルの塔”などの、全ての遺跡の起動装置であり、エネルギー源です。


     では、その正体は何かというと、実は物質ではなく、プログラムなんですよ。
     つまり、“情報”なんですね。

     ただ、その情報量があまりに膨大なために、体積とか手触りとか、見かけ上の質量すらもってしまっているんです。

     どれくらい莫大な情報なのかというと、地球が生まれてから現代までの、地球付近の空間にある全ての原子の位置情報までが全てが入ってるんですね。

     なので、ブルーウォーターが1つあれば、地球全体や、動植物はもとより、そこに生まれた人間1人1人の人生から、それが作った文明まで、全て再現可能なんです。


     オープニングでブルーウォーターがアップになると、無限に細かい模様が刻まれているのが見えますよね?

     あれは「あそこまでアップにすると内部構造の1段目が見える」ということなんです。

     本当は、その奥にはさらに10数段くらいの構造が隠れているんだけど、現実世界ではその1段目くらいまでしか見えません。

     要するに、あれは単なる“記録装置”なんですね。


     で、ここからがポイントなんですけども。

     実は、敵役である、ネオアトランティスの親玉のガーゴイルは、最後に死ぬまで、ブルーウォーターが何であるのかを理解できなかったんですね。

     それどころか、ネモ艦長も理解していない。


     そして、おそらくは、監督である庵野くんも、こういった設定について完全に理解してくれていないんですね。

     僕も一生懸命、説明したんですけど(笑)。

     なので、ブルーウォーターを奪い合うんですよ。

     でも、奪い合っても無意味なんですよ。

     あれは、ただ単にレコーダーだから、誰にも使えないんです。

    ・・・

     さて、『ラピュタ』のオマージュとして作られた『ふしぎの海のナディア』には、もちろん、天空の城的なオブジェクトも登場します。

     それが“バベルの塔”という光線兵器と、遺跡として出てきた“巨大宇宙船レッドノア”や“ニュー・ノーチラス”です。

     しかし、最終回付近に出てくる、レッドノアと呼ばれる宇宙船って不思議なんですよね。

     あの船、宇宙船と言いながら、実は惑星間飛行能力を持っていないんですよ。
     そればかりか、宇宙に出ていくこともできない。

     復活してから地球の上空を飛んでるんですけども、そこから上に行きませんよね? あれは、そこから上に行けないからなんですよ。

     なぜかというと、あれは“地上と軌道衛星までの往復シャトル”に過ぎないからなんですね。


     では、バベルの塔というのは何かというと。

     周りに反射衛星みたいなものがあるから、一見すると攻撃兵器みたいに見えますね?
     違うんですよ。

     あれはただ単に“連絡用のレーザー通信機”なんですね。


     その出力があまりにデカいから、地上に向かって使えば攻撃兵器にもなってしまうだけで、あれは数百光年、数千光年先まで届く巨大なレーザー通信機なんですね。

     「軌道上の反射衛星を使って、地球上のどこにでもエネルギーが送れる」というすごく便利な仕掛けがついているだけの通信機なんです。

     アニメの中には出てきませんでしたけど、古代アトランティス文明と言うからには、はるか昔に宇宙からやってきて人類に科学技術を伝えた“アトランティス人”という人達がいたわけです。

     つまり、そのアトランティス人の本星との通信用の機械なんですよ。


     僕らの世界でも“電子レンジ”という機械がありますよね。

     この電子レンジの概念というのは、アメリカで軍事用のレーダーの実験中に偶然 発見されました。

     第2次大戦後すぐだったと思うんですけれど、レーダーの装置の前にパーシーなんとかというオッサンが立ってたら、ポケットに入れていたチョコレートバーが溶けていた。

     で、「なんだこれは?」ということで発見されたんです。


     つまり、「本当はレーダーなんだけど、調理器具としても使えるよ」というのが電子レンジなんです。

     まあ、最初にポップコーンを作ったそうなんですけども。


     ガーゴイルやネモ艦長というのは、大本にある機能が理解できなかったので、レーダーを電子レンジとして使っちゃった人達なんですね。

     なので、バベルの塔を起動した時も、通信機器としてではなく、破壊兵器みたいに使っちゃったんですね。


     これについて、実は、「彼らが破壊兵器としてバベルの塔を使ったおかげで、百光年くらい離れたアトランティス本星に連絡が行ってしまい、ついに、物語の舞台からはるか未来である1991年の現代に、私たちを作った神様であるアトランティス人がやって来る」という、最終回のアイデアがあったんです。

     これは、パターンA、パターンB、パターンCと、僕がいろいろ出したラストのアイデアの内の1つなんですけど。

     もちろん、それらは全てボツになってしまいました(笑)。

     まあ、要するに、「当時の人類がまだ開拓していない海という世界への憧れという19世紀当時の人々の感覚を前提とした話を、現代を生きる僕らがストレートに見ることはできないだろうから、最後には、未知なる存在との接触といった話まで繋げていこう」というのが、僕の初期設定だったんですけども。

    ・・・

     何が言いたかったかというと、これと同じことが『ラピュタ』でも起きているんじゃないか、と。

     つまり、ムスカが「ソドムとゴモラを滅ぼした破壊兵器だ」と思っている“インドラの矢”なんかも、実は、電子レンジと似たようなものじゃないかと僕は考えているんですね。

     ということで、『天空の城ラピュタ』に出てくるテクノロジーの5番目“ラピュタ本体”の話に行きます。

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     これは、最初のオープニングの中に出て来るラピュタの絵です。下に巨大なプロペラが付いている、空飛ぶ城ですね。

     これがオープニングに映されるラピュタなんですけども。

     僕ね、このオープニングを最初に見た時に、ここでちょっとガッカリしたんですよ。

     「宮崎さん、また、プロペラで飛ぶようなレトロメカを描いてる。これが最後に出てくるのかな?」って。

     だけど、実際にアニメの中で描かれたラピュタは、全然 違っていたんです。

     ここら辺の肩透かしの上手さが『ラピュタ』の面白いところなんですけど。


     この絵は、実際のラピュタを描いたものではなく、当時の人々によるラピュタの想像図。

     つまり、ラピュタの科学力というのは、本当は、もっと進んでいるんだけど、その時代に生きている人は、自分たちなりの解釈をしてしまうから、ついついプロペラを思い浮かべちゃうということなんです。


     これと同じように、ムスカも、ラピュタにどういう機能があるかはわかるけど、それが何のためにあるのかという所まではわからないから「これは攻撃兵器だ! これで世界を支配してたに違いない!」というふうに発想しちゃうんですね。

    ・・・

     ここで描かれているラピュタのイメージは、もちろん、みなさんもご存知の通り、ブリューゲルの描いた『バベルの塔』です。

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     まあ、他にも、「木が生い茂っているアンコール・ワットの遺跡」というのもイメージになっているそうなんですけども。

     なぜ、『バベルの塔』がイメージ元だと言い切れるのかというと、宮崎さん自身が描いたイメージボードが残っているからですね。


     これが実際に使われたイメージボードです。

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     (パネルを見せる。ブリューゲルの絵にそっくりな、原案段階でのラピュタイメージイラスト)

     このボードの端っこの方に、ラピュタの階層に関する説明書きが書いてあります。

     一番上の部分が「神殿」となっていて、その下の第1層が「天帝の界」。
     いわゆる天皇陛下みたいなものがいる階ですね。

     第2層は「騎士の界」である、十二神将の塔。
     第3層は「エデンの園」、第4層は「人民」。

     そして、「下界」と。

     こういう構造になっています。

     第4層の下には、まだラピュタが浮いていなかった頃にあった地面というのがついてます。

     つまり、これは、地上にあったものを空中に浮かべたものなんですね。


     僕の考えでは、完全に忘れ去られて記録も残っていない“前期ラピュタ文明”の人々というのは、神に会うために、神に近づこうとして、空中に城を浮かべたんです。

     このイメージボードにははっきりと「神殿」と書いてあります。

     つまり、ラピュタとは、バベルの塔の代わりなんですね。

     神に近づこうとして、神に会うために空に住んだ。

     ところが、その後の“後期ラピュタ文明”に移ってくると、神に会えないことがわかったので、地上を恐怖で支配するようになった。

     これが、ムスカが知っているラピュタです。

     つまり、「ラピュタというのは、おとぎの島なんかじゃない。空の上に住んで、恐怖の力、実際には核の力で世界を支配していたんだ」というムスカの言葉は、2つの時代の話を混ぜて言っているだけだ、というのが僕の考えなんです。


     この神殿というのは、前期のラピュタ人にとって、宗教的な祭壇というよりは、“神様を迎える場所”なんですよ。

     神に会うために、ラピュタというのは空を飛んで、それでも届かないからお迎えする場所まで造った。

     では、神とは何か?

     おそらく、ラピュタ人にテクノロジーを授けた人々なんでしょう。

     そういう存在というのが、かつてこの星を訪れたんです。

     たぶん、彼らは宇宙に住んでいるような存在なんだろうと思います。


     ラピュタ人達は、彼らからテクノロジーは教わったんだけど、その中心理論までは理解できなかった。

     なので、ラピュタの中には、飛行石のような明らかに再現不可能なオーバーテクノロジーと、ロボット兵のようなラピュタ文明での教育があれば人間にもギリギリ理解可能な2つの科学が共存していたんですね。

    ・・・

     ……さて、今、みなさんは、「岡田斗司夫よ、それはお前の妄想じゃないのか?」というふうに考えているでしょう。

     なので、これから、その論拠というのを見せたいと思います。

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    (先程のパネルの端を指して)

     これは、宮崎駿が「自分で書いたメモを後から消している」という部分です。ここが重要なんですよ。

     今回は、この部分を拡大してみました。

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     このメモには「天より現人神降臨し給いし時、神の秘跡として、宙に浮かび上がりた古き町。今、世界を統べる聖都として空に君臨している」と書いてあるんです。

     つまり、「昔々、空から神様みたいな現実の人物が降りてきて、その時に、神様である証拠として、空に町を浮かべてくれた。でも、その町は今、世界を統べる聖都として空に君臨している」と。

     こういった設定を、一度は書いたものの、上からペンで塗りつぶして消しているということが、はっきりとわかります。


     もちろん、これはあくまでも、ラピュタに関する初期の設定です。
     だからといって、“捨てた設定”というわけではないんです。

     あくまでも“映画の中で説明するのをやめた設定”というだけなんですね。

     なので、ラピュタと一口に言っても、その中には、2つの文明というのが存在しているんです。

    ・・・

     宮崎駿の「考えたけど見せるのをやめた」というのは、もう本当に、よくある話なんです。

     たとえば『ジブリ汗まみれ』というラジオ番組の中で、鈴木敏夫さんがこんなふうに愚痴ってるんです。

     「宮崎駿は、パズーの視点しか描きたがらない。 パズーにとって、どう見えたかだけを描く」と。

     実は、宮﨑駿は、ラピュタというのが本当はどんな姿をしているのかという設定画を描いてなかったそうなんですね。

     「あの雲の中に浮かんでいるラピュタの全景を描いてくださいよ」と言っても、宮崎駿は「パズーにとっては、雷を抜けたら、もう急にラピュタに着いていた。

     パズーはそれを見ていない。だから、描くのは嫌だ」って言い張るんです。

     そんな宮﨑駿を、もう、今度は鈴木敏夫と高畑勲が2人掛かりで「でも、みんな見たいから!」って必死で説得したんですけど。その結果、宮崎駿がイヤイヤ描いてくれたのが、“雲に半分隠れたラピュタの絵”なんですよ(笑)。


     やっぱり、いろいろと調べたり、実際に見た上での人物像から考えても、宮崎駿というのは、「千個のアイデアを思いついたら、そのうちの百個をとりあえず描いてみて、結局、使うのは3つだけ」という人なんですね。

     つまり、“千三”なんですよ。

     千個 思いついたら、百個 絵に描くか文字にする。

     今みたいに「現人神が~」っていうふうに書くだけは書くんですけども、実際にアニメの中で見せるのは、そういう膨大なアイデアの中から、たったの3つだけなんですね。


     宮﨑駿は、『ラピュタ』のオープニングで映る飛行機械の設定画も、ものすごい量を描いたんですけど、「これは使わない、使わない」と捨てるんですよ。

     それを見た鈴木敏夫が「なんで使わないんですか?」と聞くと、宮崎駿は「沢山、沢山考えて、そのほとんどを捨てるのが映画です」と言ったというんですけども。
     
     
     というわけで、宮崎駿自身が『ラピュタ』の中で使わなかった設定として、「空から降りてきた現人神たちがラピュタという文明を与えた。 しかし、その神さま達はもういなくなってしまったので、ラピュタ文明の後継者である人間たちはこの世界を支配することにした」と解釈するのが妥当だと思います。

     
     以上、「決して、俺の妄想というわけじゃないぞ!」という説明でした(笑)。

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