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「『へうげもの』 に描かれる“侘び数寄”の世界・後編」
さらにその後、逆賊として秀吉にまで追われた明智光秀は、京都の山奥の方で農民たちに討たれて死んでしまいます。
そんな時に、縄だけがあったんです。
縄というのが芋のツルでできてるから、これを細かく切れば食えないこともない。
でも、本当にただの縄なんですよ。
それを味噌で溶いて、「この味噌汁だけでも今晩食べますか?」と配下が言うと、光秀は「ちょっと待ちなさい」と言って、庭に出て桔梗の花を摘んでくるんですね。
次に、庭に落ちていた小さな白い石を拾ってきて、丁寧に丁寧に洗う。そして、味噌汁の上にポンと桔梗の花を乗せ、箸の横に白い石を置いて箸置きにした。
こうやって、ちょっとした見た目の工夫を凝らしただけで、「甘うござります!」「たかが荒縄の味噌汁が! 私の脳が甘みを感じています!」と、みんな感動するんですよ。
「ああ、美というのは、武よりも強いものかもしれないな」ということで、ここにきて、ようやく、華やかな宮廷教育を受けた明智光秀も、千利休の“侘び”というのが、わかってくるようになったんですね。
これは、実際に「奥さんと仲が良く、最後の最後まで、奥さんのことを心配して死んでいった」っていうふうに伝えられているんですけども、明智光秀というのは、ものすごい愛妻家だったんですよ。
そして、最後、死の間際に、戦国の武将としては珍しく、奥さんの髪の毛を見て、奥さんの事を懐かしみながら、「月さびよ 明智が妻の 咄せむ」という辞世の句を詠むんです。
なので、光秀が「月さびよ 明智が妻の 咄せむ」と歌った時、お付きの者が、「気を確かにしてください! 下の句を! ちゃんと下の句を言わないと辞世の句になりません!」と言うんです。
しかし、明智光秀はここで、「下の句など蛇足だ」って言うんですよ。
あらゆる無駄を削ぎ取っていった先の美しさを目指す侘び数寄の原則からすると、実は和歌の五七五七七の、七七もいらないんじゃないかという、ものすごいことを言って、ガクッと死に絶えるんですね。
俺、本当の歴史よりも、絶対にこっちの方が面白いと思うんですけどもですね。
邪魔な織田信長を殺し、派手な世界というのを終わらせて、千利休の提唱する黒の世界というのが好まれるようになります。
漫画の中では、4巻あたりで、京都中の町の商店が、どんどん軒先を黒く塗るようになるんですね。
この間まで、みんな、派手な色とか、綺麗な布で飾っていたのに、店の前を黒く塗って、ちょっと錆びたものとか朽ちたものを置くだけで、ちょっと高い値段をつけても物が飛ぶように売れるようになった。
「これからはこういう世の中になるんだな」と、流行が徐々に黒の世界へ移り変わる。
千利休の思惑が当たっていく様子が描かれるんです。
それに対して、まあ、今は大雑把に秀吉側と言っちゃいますけど、秀吉側に付く者にとっては、「信長公が死んだ! 悲しい! 弔い合戦だ!」という理屈になるわけです。
その胸のあたりに描いてある記号を指して「これは、なんですか?」と古田織部が聞くと、「この形は心を表しているのではないか?」って話すんですね。
それを聞いて、「ほお、この変な形が人の心というのを表しているんですね!」と納得した古田織部が作った旗というのが、これなんですね。
この「I Love 信長」っていう旗、かわいいでしょ?
それを見た他の武将たちは、もう、みんな「なんだ、この変なマークは!」とか「こんな気持ち悪い旗を掲げたくない!」って言うんですけど。
しかし、そんな中からも、数寄とか古田織部のセンスがわかる者が「これ、超カッコいいじゃん!」って言って、段々と周りに集まってくるんです。
これが後に、古田織部の弟子になるヤツらだという、こういう流れになっています。
俺も、「信長love」っていう旗、カッコいいなって思うんですけども(笑)。
「え?!それってどういうこと?」「そこのところ、もっと詳しく知りたい!」という人は、どんどん、質問してみて下さい。
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