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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/02/21
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今回は、ニコ生ゼミ2月11日(#217)から、ハイライトをお届けいたします。

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 『へうげもの』 に描かれる“侘び数寄”の世界・後編


 さて、千利休の言葉を真に受けてしまって、いろいろ乗せられた明智光秀は信長を殺してしまいます。

 さらにその後、逆賊として秀吉にまで追われた明智光秀は、京都の山奥の方で農民たちに討たれて死んでしまいます。


 この漫画の中では、光秀は、すごくいい人なんですけどね(笑)。

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 逃げて逃げて、武器も食料も何もなくなった明智光秀。
 そんな時に、縄だけがあったんです。

 縄というのが芋のツルでできてるから、これを細かく切れば食えないこともない。
 でも、本当にただの縄なんですよ。

 それを味噌で溶いて、「この味噌汁だけでも今晩食べますか?」と配下が言うと、光秀は「ちょっと待ちなさい」と言って、庭に出て桔梗の花を摘んでくるんですね。

 桔梗の花というのは明智家の家紋なんです。この桔梗の花の綺麗なものだけを摘んできた。

 次に、庭に落ちていた小さな白い石を拾ってきて、丁寧に丁寧に洗う。そして、味噌汁の上にポンと桔梗の花を乗せ、箸の横に白い石を置いて箸置きにした。

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 こうやって、ちょっとした見た目の工夫を凝らしただけで、「甘うござります!」「たかが荒縄の味噌汁が! 私の脳が甘みを感じています!」と、みんな感動するんですよ。

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 「ああ、美というのは、武よりも強いものかもしれないな」ということで、ここにきて、ようやく、華やかな宮廷教育を受けた明智光秀も、千利休の“侘び”というのが、わかってくるようになったんですね。

 この辺りの明智光秀の解釈の仕方もすごく面白いんですよ。

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 明智光秀が、いよいよ最後、百姓に討たれて死ぬ時に、妻のことを思い出すんです。

 これは、実際に「奥さんと仲が良く、最後の最後まで、奥さんのことを心配して死んでいった」っていうふうに伝えられているんですけども、明智光秀というのは、ものすごい愛妻家だったんですよ。

 そして、最後、死の間際に、戦国の武将としては珍しく、奥さんの髪の毛を見て、奥さんの事を懐かしみながら、「月さびよ 明智が妻の 咄せむ」という辞世の句を詠むんです。


 この辞世の句、実は江戸時代の松尾芭蕉が読んだ俳句なんですけども、ここでは、それを明智光秀の辞世の句として詠ませているんです。

 ところが、この時代には、まだ俳句というものが存在していないので、辞世の句も、五七五七七という和歌の形でないと辞世の句として成立しないんです。

 なので、光秀が「月さびよ 明智が妻の 咄せむ」と歌った時、お付きの者が、「気を確かにしてください! 下の句を! ちゃんと下の句を言わないと辞世の句になりません!」と言うんです。

 しかし、明智光秀はここで、「下の句など蛇足だ」って言うんですよ。

 あらゆる無駄を削ぎ取っていった先の美しさを目指す侘び数寄の原則からすると、実は和歌の五七五七七の、七七もいらないんじゃないかという、ものすごいことを言って、ガクッと死に絶えるんですね。


 後に、この話を知った千利休が「確かに、言われてみれば五七五七七ではなく、五七五だけでも世界は作れる! そんな人を謀略に掛けるなんて、私はなんという間違いを犯してしまったんだ!」って、大後悔するシーンがあるんですけども。

 こういうふうに、戦国の歴史というストーリーラインに、侘びのコンセプトや考え方というのを上手く乗せて、ザーッと語っていくんです。

 俺、本当の歴史よりも、絶対にこっちの方が面白いと思うんですけどもですね。

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 まあ、これで一応、千利休の野望は叶ったわけですね。

 邪魔な織田信長を殺し、派手な世界というのを終わらせて、千利休の提唱する黒の世界というのが好まれるようになります。


 漫画の中では、4巻あたりで、京都中の町の商店が、どんどん軒先を黒く塗るようになるんですね。

 この間まで、みんな、派手な色とか、綺麗な布で飾っていたのに、店の前を黒く塗って、ちょっと錆びたものとか朽ちたものを置くだけで、ちょっと高い値段をつけても物が飛ぶように売れるようになった。

 「これからはこういう世の中になるんだな」と、流行が徐々に黒の世界へ移り変わる。

 千利休の思惑が当たっていく様子が描かれるんです。

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 まあ、こういう描写だけを紹介すると、そうだったかもしれない歴史モノ漫画みたいに見えるんですけども、『へうげもの』ですから、当然、“悪ふざけ”も多く入っています。

 劇中にある悪ふざけとして僕が好きなのが、信長公が殺された時に、その死を悼む部隊をまとめることになった古田織部が作った旗なんですね。

 信長が殺された後、「光秀側に付くか、秀吉側に付くか?」で、織田の部下たちが割れるわけです。


 光秀側についたヤツにとっては、「織田信長っていうのは天下の大悪党なんだから、これを殺したのは良いことなんだ!」という理由で戦いに望みます。

 それに対して、まあ、今は大雑把に秀吉側と言っちゃいますけど、秀吉側に付く者にとっては、「信長公が死んだ! 悲しい! 弔い合戦だ!」という理屈になるわけです。


 そんな中で、古田織部は「“弔い合戦”ということが誰から見てもすぐにわかるような旗を作れ」というふうに言われたんですね。

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 さて、古田織部は、この旗を作る時に、高山右近に「バテレンの方では、“心”っていうのを表す図案というのはありますか?」と聞きに行きました。
 すると、高山右近は「これは私が持っているバーデレ宣教師の肖像画なんですけど、こんな感じの絵です」と、フランシスコ・ザビエルの肖像を見せるんです。

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 その胸のあたりに描いてある記号を指して「これは、なんですか?」と古田織部が聞くと、「この形は心を表しているのではないか?」って話すんですね。

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 それを聞いて、「ほお、この変な形が人の心というのを表しているんですね!」と納得した古田織部が作った旗というのが、これなんですね。

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 ハートマークの真ん中に「信」って書いてある旗なんですね(笑)。

 この「I Love 信長」っていう旗、かわいいでしょ? 


 それを見た他の武将たちは、もう、みんな「なんだ、この変なマークは!」とか「こんな気持ち悪い旗を掲げたくない!」って言うんですけど。

 しかし、そんな中からも、数寄とか古田織部のセンスがわかる者が「これ、超カッコいいじゃん!」って言って、段々と周りに集まってくるんです。

 これが後に、古田織部の弟子になるヤツらだという、こういう流れになっています。

 俺も、「信長love」っていう旗、カッコいいなって思うんですけども(笑)。


 まあ、こういうエピソードも含めて、無駄というものを嫌って「どうすれば新しいカッコよさを作れるのか?」という話を、延々とやってるんですけど、その合間に合間に、1巻の頃から、こういった遊びというのを入れてます。

 ぜひとも読んでみてください。

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