テレコム・アニメーションフィルムが『ルパン三世 カリオストロの城』で、どれぐらい凄くなったかというのを話するね。
あのね、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』を作ったとき、作画監督が貞本義行だったんだ。
貞本義行というのは、当時、作画監督とキャラクターデザインをやっていたけど、アニメ界では無名も無名だったんだ。
原画ですらない、動画だった。
ただ、その動画がテレコムだった。
貞本義行って、元々はテレコムに就職してたんだ。
それは何でかっていうと、宮崎駿と一緒にアニメを作りたかったからなんだけども、ところが貞元がテレコムに入ったときは、もうすでに宮崎駿はいないし、大塚康生さんも週に一回しか来なくなってしまっていたんだ。
そのテレコムがカリオストロの城とかで、どれぐらい凄くなったか。
俺ね、「そんなに凄い会社なの?」って聞いた事があるんだよ。
そしたら貞本が「テレコム、凄いですよ」って。
だから「テレコムに入った俺は凄いんですよ」って、ハッキリと自慢してたね(笑)。
で、「どんなふうに凄いの?」って聞いたの。
そしたら「テレコムの社員だったら全員できる事がある」って。
それが何かっていうと、「アニメーターが線を描くときは、まずは鉛筆の先をピンピンに尖らせます」と。
「それで線をスッと描きます」と。
で、 “この線を、三つに割る” っていうのが、テレコムのメンバーは全員できますと。
それで 「どういうことなの?」 って聞いてみたの。
まず、この一本の線を描いて拡大したら、太さがあるわけだよね。
で、この線のいちばん上と、いちばん下と、真ん中を、三つに描き分けれると。
この技術、何のために必要なのかっていうと、「作画用紙の上で髪の毛が微妙に動いているか動いていないのかっていう動きをする為には、一本の線を上、真ん中、下というふうに、三本に描き分ける事が必要です」って。
「これ、テレコムのアニメーターは全員できます」って言われたんですね(笑)。
で、「すげぇ! そのテレコムのアニメーターって、今はどこにいるの?」って言ったら、「岡田さん、あそこに田中敦子さんがいます」って言われてさ。
そんな凄いアニメーターが、ウチのオネアミスの翼の製作に参加してくれてたんだけども、当時はただ単に普通の お姉さんだと思ってた。
そしたら後に、田中敦子の凄い所っていうのを聞いてさ。
ルパン三世でスパゲティをガーッと取り合うシーンもそうなんだけど。
ルパンがクラリスの部屋に忍び込むために、すごい屋根の上に立って、花火を飛ばそうとするんだけど失敗するじゃん。
それでガーッと塔の上から走って、ジャンプ、ジャンプしてクラリスのいる塔の壁にガッとくらいつくシーンがあるよね。
あのシーンも田中敦子さんなんだよ。
それを聞いて「伝説じゃん!」って思ったんだ。
だけど、その伝説のテレコムアニメーターが、オネアミスの翼の製作スタッフにそこら中にいてですね。
「なんかウチ、気が狂ってるよな」とか言ってたんだけども、貞本が言うには、「それもこれも『リトル・ニモ』の おかげです」と。
「リトル・ニモが、あんなに金をかけて準備して、凄いアニメーターをいっぱい作ってくれて、そのあとポシャッてくれたおかげで、僕たちは今、撮り放題なんです」って言ってたよ(笑)。