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「『エヴァ』独特の激しいカット割りに隠された意味とは?」
『エヴァンゲリオン』の映像スタイルの特徴として “激しいカット割り” というのがあります。
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偉い人達が会議をしています。
これは、後に “人類補完機構” の人達の会議だということが分かるんですけども、この時点では分かりません。
碇司令と偉い人達との会議です。
ここから、1人が台詞を喋る度に、カットが切り替わります。
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すると、次に「そいつはまだわからんよ」と、ロシア代表が喋りだす。
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人間が横並びに2人配置されているだけなんですけど、奥から手前にかけて、斜めにパースが掛かってるんですよ。
「そいつはまだわからんよ。役に立たなければ無駄と同じだ」と、手前のロシア代表が憎々しげに言います。
そしたら、また次の台詞に続くんですけど。
次の台詞を言うのは、このカットでロシア代表の隣に描かれている中国代表なんですよ。
だから、普通は、このカットのまま喋ればいいんですよ。
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すると、次には碇ゲンドウさんが返事をするんですけど。
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ここでもまた、喋り手であるゲンドウを、思い切り隅っこに配置した構図で、「その件に関してはすでに対処済みです。ご安心を」と言わせるんです。
1人がひとこと言う度に、別カット、別カットとカットを割っていくという構造になっています。
普通は、こんな無駄な事はしないんですよ。
隣りにいたロシア代表が喋った次に中国代表が喋るんだから、同じカットで喋らせればレイアウトも少なくて済むのに、なぜかここでは1カット割って、それも、すごく不自然なアングルから喋らせているんですよね。
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その後ろには、巨大な手みたいなものが見えます。
これは、凍結中の“エヴァ零号機”というヤツなんですけど。
その前を通りながら、リツコさんとミサトさんの会話を聞いているというシーンです。
「初号機はどうなの?」
――というふうに、2人でずーっと話してるんですね。
なのに時々、1つの台詞ごとにパンパンとカットが切り替わることがある。
――って、ここまで「碇ゲンドウが吊し上げにされている」という以外の内容が、何一つないんですよ。
具体的に「こうしろ」「ああしろ」と言うんじゃなく、ちょっと難しそうな言葉を使いながら、よってたかって嫌味っぽく吊し上げにしているだけ。
しかも、当のゲンドウが「その件に関してはすでに対処済みです」と具体性のない弁解をひとこと言っただけで、全員そこで追求をやめちゃうんですよね(笑)。
ほら、なんか、ヤンキーが「夜露死苦」とか書いたりするじゃないですか。
ヤンキーほど難しい言葉を使いたがるのと同じなんですよ。
はっきり言っちゃうと、そんなにレベルの高いシーンではないんですね。
そして、僕はこういった「シナリオや台詞内容の弱さを、画面の強さで補う」ということこそが “エヴァ・スタイル” だと思ってるんですね。
もしくはストーリーに関係している時は、もうカットを固定したままパーンと見せちゃうわけですね。
リツコとミサトの会話のシーンで表示されるのは、真っ暗な場所にシンジくんの黒いシルエットがあるだけという単純なカット1枚なんですけど、そこで交わされる台詞にきちんと中身があれば、これだけでも見ていられるんですよ。
ところが、台詞に中身がない場合、もしくは薄い場合は、思い切ってカットを細かく細かく割ることで、ちょっとでも内容があるように見せる。
こういうのが、『エヴァンゲリオン』のスタイル “だった” んです。
今、「『エヴァンゲリオン』のスタイル “だった” 」というふうに、わざわざ過去形で言ったのは、庵野秀明監督の最新作である『シン・ゴジラ』では、これがさらに進化しているからなんですけどね。
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