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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/11/10
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今日は【岡田斗司夫アーカイブ】から選りすぐり 2016/08/21放送の『ニコ生ゼミ』
のハイライトをお届けします。


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 アメコミ映画『ウォッチメン』が描いた、グロテスクな正義


 『ウォッチメン』っていうのは、1900年代のifの世界、もしもの世界の70年代から80年代の話なんだけども、スーパーヒーローが現実にいる世界なんだよね。

 そのなかに「コメディアン」と「ロールシャッハ」っていうヒーローが出てくんだけど、二人とも、そのマンガの中では全然共感できるような正義の味方じゃないんだよね。


 コメディアンっていうのは「アメリカを愛してる」と言いながらも、ベトナム戦争に行ったら、ベトナムの女の子妊娠させちゃって、文句を言ったら銃で撃って殺してしまうし。

 あと映画版の冒頭ではケネディ大統領を暗殺したのはコメディアンってことになっていたりで、決して正義の味方としては描かれてないんだよ。


 もう一人のロールシャッハも、そうなんだよね。

 ロールシャッハっていうのは顔の模様がしょっちゅう変わるマスクを被ってる正義の味方なんだけども、あらゆる悪に対して厳しすぎる。


 もう反省して罪を償った悪者でも、徹底的に殺すまで追求することをやめない。
 
 「もし全ての人類がほんのちょっとずつでも悪いんなら、人類全員を殺しちゃおう」という考え方をする。

 「それくらい、悪というのは見逃してはいけない」っていう強迫観念を持った異常者として描かれてるんだ。


 なんで作者のアラン・ムーアっていう作家はこんなキャラクターを書いたのかっていうと、象徴であることの難しさを描くため。

 たとえばコメディアンっていうヒーローは、アメリカを象徴してるんだ。

 自分自身が。

 つまり、「アメリカっていうの何なのか?」っていうのを象徴しようとしてて、正しいアメリカを守るためだったら、今の大統領を殺してしまうことすらいとわないんだよな。


 ところが、それをやっているコメディアンっていうのは、同時に一人の人間でもある。

 なので当然、自分の中の矛盾がすごいわけだよ。


 「“アメリカ” というものを愛して、アメリカの正しさのためにずっと行動してる」っていうのは、自分としては明らかに間違った事もやらなきゃいけないわけだよね。

 たとえば公民権運動。

 「黒人を平等に扱え!」みたいなデモが起きると、それを取り締まるためにスーパーヒーローとして派遣され、ガス銃とか麻酔銃を水平撃ちして人々を傷つけ始めるんだよね、コメディアンは。


 「笑うしかねえだろ? 面白えよな。一番の愛国者であるはずの俺が、政府から頼まれて、一般大衆に銃を向けるなんて。笑うしかねえ」って言いながら、まわりをバンバン撃って。

 それで「さあみんな、俺を笑ってくれよ! さあみんな、アメリカを笑ってくれよ!」って言いながら、彼は毎晩毎晩、浴びるように酒を飲んで、そして、だんだんと自分自身が崩れていくんだ。


 今、コメントで、「正義なんて時代が変われば変わるもの」って流れたんだけど、それは僕らが象徴としての生き方なんていうことを求められてないからなんだよ。

 そうじゃなくて、「お前がアメリカの正義の代表だ!」って言われたら、どういう行動するのかっていうと、たぶん、ある信念を持って行動して、そのあとやっぱり浴びるように酒を飲む。

 というか、そんな事しか本当に選択肢としてないんだなあというのが、映画を見たりマンガを読んだりするとよく分かるよ。


 ロールシャッハのように、誰一人許せなくなってきて、そして「自分は、誰にも理解されなくてもいい!」という人になってしまうか。

 コメディアンのように「誰か俺を理解して欲しい」と言って浴びるように酒を飲んで、崩れていくか。

 結局、コメディアンは、スーパーヒーロー仲間であるシルクスペクターっていう女スーパーヒロインをレイプして、子供を産ませてしまうという事をするんだけどさ。


 「正義」とか、さっき言ったSMAPの「カッコよさ」とか、あと天皇陛下でも同じなんだけど「日本という国の在り方」みたいなものを一人の人間に “象徴” として背負わせたら、絶対にその人達には想像も出来ないくらいのプレッシャーが掛かる。

 そして、そんなことを何年も続けていたら、どっかに無理が来ると思うんだ。


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