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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2018/12/22
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今回は、ニコ生ゼミ12月9日(#260)から、ハイライトをお届けいたします。

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  “義経” 化して行ったゴジラと、当時の特撮ファンたちへの最適解である『シン・ゴジラ』

 そんな海賊版のビデオで『ゴジラ』をやっと見れたという時代は過ぎ。

 まあ、うちの家には比較的デカいテレビとか…

 …こういうことを言うのもいちいちナンなんですけど、1970年代の末には、すでに “ホームプロジェクター” があって「『水戸黄門』をホームプロジェクターで見る」という、なかなか贅沢なことをしておりました。


 そんなふうに、毎晩のように上映会をやってると、そこに、当時の庵野秀明であるとか赤井孝美が『ゴジラ』を見に来るわけですね。

 彼らにしてみても、あの『ゴジラ』という幻の映画が、まさかビデオで見れる時代が来るとは思ってなかったんですよ。

 だから、「岡田さん、その『ゴジラ』をどうやって手に入れたんですか?」というところから始まって、「岡田さん、その『ゴジラ』を、なんとかしてダビン……」というような話とかがありがながら(笑)。

 まあまあ、ウチの家でですね、みんなで見ることになるわけですよ。


 もう、それを見た時の2人の反応が面白くて。

 たとえば赤井孝美は「この『ゴジラ』という映画は、どうやったら撮影できるのか?」ということを、もう見た後で延々と語るわけですね。

 それに対して、庵野秀明は「本当のゴジラはどう動くのか?」と、もう、ただただ、劇中でのゴジラの動きというのを自分で真似て動いてるんですね。


 当時は「あの庵野ってやつは、幼稚なのかな?」って思ってたんですけど、今考えると、あいつは “動きで考える男” なんですね。

 どんな小さな動きも残らず全部拾った上で、自分の中に取り込もうとするんですよ。


 赤井孝美が「どうやって作るのか?」という方法を理解することで自分の中に入れるのと同じように、庵野秀明の理解の仕方というのは「お経を写経する」のと同じなんですね。

 そして、画面に写ったゴジラと全く同じ動きを自分自身が完璧に出来たと思ったら、彼にとって「ゴジラがわかった」ということになる。

 なんか、そういうアプローチだったんです。


 そんなことをしている中で「やっぱり、俺たちも怪獣映画を作りたいよな。『ウルトラマン』とか作りたいよな」ということで、そうやって一緒にビデオを見ていた何年か後に『帰ってきたウルトラマン』という自主映画を作ったわけなんですけど。

・・・

 さて、ちょうどその頃「ゴジラが復活する」というニュースが出てきました。

 ゴジラシリーズというのは “ダメなゴジラ作品” ばっかりになって、10年くらいお休みがあったんですけど、1984年に復活したんですね。

 だけど、当時、このニュースを聞いた時は、別にあんまり期待はしていませんでした。


 なぜかというと、「復活する」ということは「それまでに一度、中断した」というわけですよ。

 そして、中断する前のゴジラがどんなんだったかといったら、たとえば、1973年『ゴジラ対メガロ』です。

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 もうね、この映画、パッケージにゴジラが映ってないんですよね(笑)。

 なんか “メガロ” という怪獣と、“ジェットジャガー” というやつが映ってて。


 ゴジラもちゃんと出てくるんですよ。

 出てくるんですけど、なんかね、ストーリーに関係してはいるものの、後期の『男はつらいよ』の寅さん的なポジションなんです。

 後期のフーテンの寅さんって、段々と寅さんが世話をする若者たちの話になって、寅さん自身は狂言回しになることが多いんですけど、ここでのゴジラの立ち位置もそうなんですよ。


 『ゴジラ対メガロ』って、すごいですよ。

 みなさんにも是非見てもらいたいので、今、僕が言うのもなんですけど、最後の決戦で、メガロとジェットジャガーが戦う場所が富士山の麓の巨大な野っ原なんですよ。


 そこまで、ゴジラはどうやって来ると思いますか?

 なんと、ゴジラはテクテク歩いて来るんですよね。

 無限の彼方からゴジラが歩いて来て「ゴジラだ!」って言ってたら、ちょっと駆け足気味になる。

 「お前はオールスター運動会にギリギリ間に合ったタレントか!」って感じですね(笑)。


 その後、ゴジラは戦って勝つんですよ。

 で、映画のラストシーンでも、まさかと思って見ていたら、ゴジラはやっぱりテクテク歩いて帰るんですよ。

 富士山の麓から(笑)。


 もうね、このシーンを見るだけでも、この映画を見る価値はあります。

 まあ、それくらいしか見るところがないんですけど、まあまあ『ゴジラ対メガロ』というのは、そんな作品です。


 その次に「いや、こんなお笑いではいかん!」ということで、74年には『ゴジラ対メカゴジラ』というのが作られました。

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 パッケージを見てください。

 またもやゴジラが映っておりません(笑)。

 もう、あの、本当に、なんでしょうね “メカゴジラ” はカッコいいんですよ。

 映画はダメなんですけど、メカゴジラはカッコよかった。


 ということで、74年にメカゴジラが作られて、その後には『メカゴジラの逆襲』です。

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 これが昭和ゴジラの最後の作品になります。

 この後、1984年のゴジラ復活までゴジラ映画は撮られなかったんですけど。


 『メカゴジラの逆襲』では、一応、パッケージにゴジラが写ってるんですけど、もう、悪役の “メカゴジラⅡ” と “チタノザウルス” にやられてガックリしているゴジラという、かなり情けない状態になっている。


 こういった、一応、主役として登場はするけど、さしたり用もなかりせば、これにて御免、みたいな話なんですね。

・・・

 今言った「さしたり用もなかりせば、これにて御免」という言い回しも通用しないと思うので、脱線ついでに話しておきます。


 これは、團伊玖磨という『題名のない音楽会』で、ずっと指揮をしていたおじさんがエッセイで書いていた話なんですけど、「東北地方のある県に行くと、あらゆる芝居に “源義経” が出る」そうなんです。

 源義経というのは、それくらいすごい人気なんですよ。


 どんな芝居であろうとも、必ず源義経が出てくる。

 もし出てこなかったら、観客が「くろうどの!」とか「よしつね公!」と呼んだりするんです。


 すると、三味線の音がジャンジャンと変わり、源義経が出てくるんですね。

 ところが、出てきたところで、舞台でやっているのは義経とは全く関係ない劇なんですよ。

 なので、出てきた義経はどうするかというと、いきなり隣に置いてあった椅子にちょこんと座って、客のみんなと一緒に劇を見るんですね。

 で、それが何分か続いて、ほどよい頃に、登場人物の1人がこう言うんです。「さしたり用事もなかりせば、奥の一間へお下がりください」と。

 すると、源義経が舞台の奥に消えて行く。

 これで観客は拍手喝采、と。


 このことから、人気がなくなった時にカンフル剤のように投入されるキャラクターのことを “義経” と呼んだり、そういった状況を「さしたる用もなかりせば~」と言うようになった、と。

 これを、昔、手塚治虫が漫画に書いて、その漫画で笑ったみなもと太郎も自分の漫画の中で結構しょっちゅう使っています。

 『風雲児たち』にも、わりと「さしたり用もなかりせば、これにて御免」というキャラクターが出てくるんですけど、たぶん、もう、なんのことか全然わからなくなっています。


 「もともとは團伊玖磨のエッセイ → それを読んだ手塚治虫の漫画 → それを喜んだみなもと太郎」という構造になっているんですけど。

 話が流れましたが、もうこの時のゴジラは源義経状態なんですね。

 「さしたり用もなかりせば、これにて御免」と言って、歩いて帰るような状態ですから(笑)。


 まあ、テレビのトーク番組とかにも、別に話もないし用事もないんだけど、前の方にいる大御所の芸能人とかスポーツ選手とか俳優さんとかがいるじゃないですか。

 ほぼ、そのポジションになっているのが、昭和後期のゴジラだったんですね。


 そんなことをしている内に、流石のゴジラも人気がなくなって、興行収益も下がってきて、この1975年の『メカゴジラの逆襲』で、一旦、終わりました。

 それが10年ぶりに復活するというのが、1984年のゴジラだったわけですね。

・・・

 時々、「『シン・ゴジラ』は面白かったんですけど、他のお薦めのゴジラ映画ないですか?」と聞かれるんですけど、困るんですよね。

 「どのゴジラが面白いですか?」と言われたら、そりゃ最初の『ゴジラ』が面白いんですけど。

 でも、この面白さというのは、さっき言った「ゴジラが山の向こうから現れたヌッと現れた時のあの感じは、当時はどんなふうに受け止められていたのか?」とかを知っていないといけないんです。


 あとは、山根博士という人物が国会で証言する時に「今から“100万年前”のジュラ紀に~」というセリフがあるんですけど。

 最初の『ゴジラ』のシナリオを書いたのは香山滋という人は、古生物学にすごく詳しいはずだから、7千万年前のジュラ紀を「100万年」と間違えるわけがないんですね。

 では、この「100万年前ジュラ紀と呼ばれる時代に生まれたゴジラ」という台詞は何を意味しているのかというと。

 100万年前というのは、ちょうど当時の類人猿学や人類学とかで “人類が生まれた年” というふうに言われていたんですね。


 つまり、この映画の中で描こうとしているゴジラというのは、太古の恐竜ではなく、人間そのものなんです。

 「人間が怨念を背負って怪物化して海から帰ってきたもの。それがゴジラだ」という製作者の意図があるので、「100万年前のジュラ紀」というセリフになるんです。


 この辺の流れがわかっていると、かなり面白いんですけど。

 そこら辺をすっ飛ばして見ると、もちろん、映像的にはメチャクチャカッコいいんですけど、ストーリー的にはちょっとタルい感じになっちゃうわけですね。


 なので、こんな感じで、最初の『ゴジラ』というのを、ジブリ作品でやってるようにフリップを出しながらガンガン説明したら、かなり面白く見てもらえるようになると思うんですけど。

 そんなことをやってるわけにも、なかなかいかない。

 やらなきゃいけない映画もあるので。


 まあ、そんな時代に復活しようとしていた『84ゴジラ』というのも、僕らはあんまり期待してなかったんですね。

 そして、1984年のゴジラが復活した時に、やっぱりみんな、正直、ガッカリしたんですよ。

 「なんでガッカリしたのか?」とか、「その後、ゴジラシリーズはどうなったのか?」については、いずれ話しますけど。

 『シン・ゴジラ』というのは、この時代にガッカリしていた特撮ファンが、わりと望んでいた「今、『ゴジラ』を作るんだったら、これしかないだろう」という、よく出来た解答だと思います。

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