───────────────────────────────────
今回は、ニコ生ゼミ01月06日(#263)から、ハイライトをお届けいたします。
─────────────────────────────
「【『ナウシカ』の世界を歩いてみよう 1 】 “蟲除けの塔” から読み取れる時代背景」
……ここら辺は、もう皆さんも本編を見たと思うので、それぞれの脳内で再生してください。
メーヴェに乗ったナウシカから「あっちの砂丘の上で集合!」と合図されたユパは、ナウシカの成長に驚きます。
「あれはナウシカだったのか」と最初は分からなかったわけですね。
驚きながらも砂丘の上に登ります。
すると、そこには奇妙な塔がたくさん立っています。
これが、ブラナウシカ第1のポイント “蟲除けの塔” ですね。
この羽が回転することによって、穴の中を空気が通って、ナウシカが持っている “蟲笛” みたいに、低周波の音が出る。
これが蟲が嫌がる音らしいんですよ。
なんか、乾電池1本で超音波を出して虫を寄せ付けないようにするモスキートガードという商品があるんですけど、あんな感じのものだと思ってください。
僕が思うに、この塔の役割はもう1つあって「風の強さや方向を示す」というのもあるんじゃないかな、と。
つまり、風というのが全てなんですよ。
その風が止まったり、もしくは逆に吹いたら、すぐに村は滅びてしまうわけですね。
これについて、宮崎駿自身も「もちろん、風は時々違う方向から吹くことはあるので、それなりに生き残る術も仕掛けも彼らは考えてます」と書いているんですけど、それが具体的にどういうことなのかは説明してくれてないんですね。
その1つが、この蟲除けの塔なんですけど。
いくつか立っている蟲除けの塔には、ギアボックスみたいなものが付いているやつがあるんですね。
つまり、風車の回転数が変わったら、すぐにわかる仕掛けになっているんですよ。
おそらく、風向きとか風速とが変わったりすると、蟲除けの音ではなくて、別の音を発する。
もしくは、蟲除けの音を発しながらも別のカチカチいう音とか、もっと高い音とかを出して、風の谷にいる耳がいい人に知らせるような機能もあったんじゃないかというふうに、僕は考えています。
これは、あくまでも僕の想像なんですけども、こういう想像をまじえつつ、「宮崎駿が何を描こうとしてたのか?」というふうに風の谷の世界を読み解いていくというのが “ブラナウシカ” なんですね。
「その他にも、風の方向がわかるような仕掛けがあったんじゃないか?」というのは、僕の想像です。
次に、ここからは画面からの読み取りです。
この世界には、すでに鉄なんてものは存在しないんです。
すると、高畑勲はすごく面白がって、「ああ、そういう世界で生きている人の話なんだ! それ、すごいよ! ちゃんと描いた方がいいよ! その方がちゃんとSFになるし、そういう中で生き抜いている人達の力強さを描くというのは、意味があることだと思う!」って、大喜びで言ったんですよ。
そのためには、見た目の面白さがなくなってしまうのも致し方なし、と高畑勲は考えるんですけど。
鉄とかそういう素材は既に堀り尽くされていて、全てセラミックに焼き替えられているんです。
本当に、着てるものから何から全てがセラミックで作られるようになってしまったんです。
ただ、セラミックだけがいっぱいあるだけで。
もちろん、その破片から、もう一度セラミックを作る技術があれば、それでも構わないんですけど。
一旦、セラミックを再生する技術が崩壊してしまった後なので、“リサイクル不可能なセラミックしかない世界” というのが生まれてしまったんですね。
その砂漠が延々と広がっているという、もう、全く引き返しがつかない世界が来てしまっているわけです。
『ナウシカ』の世界では、新たに作ったものというのが、すごい無骨な形をしてるんです。
それはなぜかというと、鉄とか真鍮のような扱いやすい金属というのが、もう全くなくなってしまっているからなんですね。
そうではなくて、掘り出したもの、たとえば風の谷の “ガンシップ” とか、後に出てくるペジテやトルメキアの大型の船をそのまま使うことはあるんですけど。
そういうものでも、一度 修理することになったら、そのための部品は、もう一からセラミックの塊を似たような形に削り出すしかない。
それ以外に、素材なんてないからですね。
当時は蟲もいなかったので。
もう、小石を積み上げて、この塔を作っているんですよ。
たしかに、風車の部品とかそういうものは、なんとか残っていたものとか、もしくは風の谷に生えている木とかで、ある程度は作れたりするし、あとはセラミックの破片を削ったり出来るんですけど。
土台の部分は全て、砕け散ったセラミックの小石を積み上げて、石器時代に戻って塔を作っているわけですね。
風の谷の建物が、レンガや土とか石で出来ているのはそのためなんですね。
一度、石器時代に戻ってしまったから。
すみません、ちょっと面倒くさい話になっちゃうんですけど。
ローマ水道とか大理石の建物で有名なローマ文明というのが、かつてヨーロッパにあったんです。
しかし、このローマ文明の維持には膨大な森林資源が必要だったんですね。
そして、このローマ帝国は、ヨーロッパ中の森林、森の木を500年あまりで切り尽くしてしまいました。
もちろん、ローマ帝国というのは異民族の侵入で滅んだんですけども、一旦、文明が滅んでしまうと、その後、誰も水道とか大理石の建物を修理することが出来なくなったんですよ。
もう、どうやってやって作ったのかわからないし、基礎となる森林もなければ材木もなくなっちゃったので。
こうなると、木で建物を作っていた時代にすら戻れないんですね。
だから、ローマ文明が崩壊した後、およそ千年近く、ヨーロッパ全体はほとんど石器時代に近い段階まで戻されたところもあれば、なんとか騙し騙しながら、かつての水準を保とうとしているところもあったんですけども。
再び森が復活して、ルネッサンスが始まるまで “暗黒の中世” と呼ばれるような時代が続きました。
同じように、セラミック技術とか遺伝子工学で作られた生物の助けなしには、もう、今から800年後の人間は生きていけなくなったわけですね。
その文明崩壊から千年経って、ようやっと風の谷の人達は、ポスト・セラミック時代を終えて、石器時代よりはちょっとマシな時代に移行している。
『風の谷のナウシカ』というのは、そういう時代を描いているんです。
それが、この蟲除けの塔の石造りの構造からわかるわけですね。
───────────────────────────────────
「え?!それってどういうこと?」「そこのところ、もっと詳しく知りたい!」という人は、どんどん、質問してみて下さい。
番組内で取り扱う質問はコチラまで!