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今回は、ニコ生ゼミ01月06日(#263)から、ハイライトをお届けいたします。
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「【『ナウシカ』の世界を歩いてみよう 2 】 先人たちの血と汗で積み上げられた “砂退け棚” の列」
ずーっと砂漠の砂の上で話してるだけだったところから、「タッタラターター♪」みたいな感じで、急にメーヴェを担いで、崖から大ジャンプするというシーンになるんですけども。
メーヴェに乗ったナウシカが崖から大ジャンプする場面で、崖の下の方にかすかに道が見えています。
つまり、この渓谷というのは、ゆっくりと右の方へカーブしているわけです。
崖下にある道というのは、後でユパが通ることでわかるんですけど、崖の横に刻まれた、細い細い、本当に人間1人通るのがやっとくらいの道です。
その横をナウシカが先に飛んで行って、遥か彼方に消えて行くんですね。
風の谷というのは、海抜1000mの台地の上にある酸の海とか腐海のある場所から、かなり下がった崖の底、海の近く、海抜0mのところに存在しているんです。
この高低差というのが、実は風の谷の存在そのものなんだ、と。
まあ、「安全な海」と言っても、ナウシカ達はそこで漁業とかは一切やっていないから、実はこの海も死んでいるわけですけど。
それとは逆に、ナウシカたちからすれば、谷をどんどん上がっていって、1000m近く登った末にある砂漠の中の酸の海。
その向こうに腐海があるという、2つの海に挟まれているわけですね。
そういう狭い狭いところで暮らしているという、風の谷の全体構造というのを軽く掴んでおいてください。
ナウシカみたいにメーヴェに乗ってないので、ユパは歩いて降りるしかない。
なので “トリウマ” と呼ばれる馬のような生物に乗って、谷の側道を下って行きます。
すると、足元から砂塵が崖の上の方に流れて行きます。
これは、酸の海や腐海からの胞子を吹き飛ばすための砂なんです。
ただの風ではなくて、酸の海や、山の上の方から降りてくる瘴気、毒とか胞子とかを吹き飛ばすために、風の中に砂を含ませて、それで吹き飛ばしているわけですね。
「砂を退けるための棚」という意味なんですけど、これが風の谷までの道の途中に何箇所かあります。
この砂は腐海の方から降りてくる砂もありますし、海から飛んでくる砂もあるんですけど、それを1回、このクルクル回転する羽みたいなもので叩き落として、下に貯めるんですね。
これが、風の谷が長年かけて作ったシステムなんです。
この羽の部分というのは木と布で出来ているんですけど、土台は石積みです。
役割は、さっきも話したように「酸の海の方から侵入する砂塵を防ぎ、同時に海からの風に乗せて、上に吹き上げること」なんですよ。
宮崎駿の初期案では、このすぐ下に村があるんだけど、その案では「村人は全員は村の中に暮らさずに城の中に住んでいる」という設定なんですね。
何かちょっとマズいことがあると、すぐに城の中に全員で逃げ込むために、風の谷の城っていうのは、あんだけデカいんだ、ということなんですね。
風の谷には村人の数が500人しかいないのに、明らかにオーバーサイズな城が建っているんですけど、それは当たり前で、とりあえず風の向きがもう一度変わるまで、村の全員が逃げ込むことを前提にした大型の宿泊施設を兼ねているからなんです。
仮宿舎を兼ねているから、あの城というのは、あんなにデカいんですね。
しかしそれも、この砂退けの棚が出来て、常に砂を吹き戻すことが出来るようになったということで、皆が城の中に住まなくて済んだ。
ということで、この初期の案の設定は使われなくなりました。
ユパは下からそれを見上げながら通っているんですけども。
この仕組みを思いついてから、完成させるまで、一体何年かかったか分からないんですけど、その頃の風の谷のことを考えると、本当にゾッとするんですよね。
偶然、風が止んだり、風向きが変わるだけで、村が全滅しちゃうくらいですから。
つまり、蟲よけの塔みたいなところに風車を設置して、カラカラカラとか、カチカチカチって聞こえた瞬間に、皆が城に向かって何もかも放り出して走って行って、隠れなきゃいけない。
そういう状況の中で、何世代も何世代も暮らしていたわけですね。
そんな中で、石を少しずつ積み上げながら造ったんです。
みんな善良で働き者で、なんかいい人っぽくて、「宮崎アニメに出てくる村人ってつまんない」って思っちゃうんですけど、とんでもない。
なぜ、みんな働き者なのかというと、この風の谷というのは、怠け者というのが生きていけない、存在することが許されないほどに、貧しくて過酷な生活なんです。
この棚を作る時も…
…だって、考えてみてくださいよ?
この巨大な石の塔が完成したら、これによって村は安全になるんです。
でも、この石の塔も棚田も、何十もあるんですよ?
それを一番外側からか作って行く時というのは、実は一番危険なわけじゃないですか。
だって、そこに行けば自分の死が早まってしまうんだから。
族長のジルですら、安全な風の谷の中にいたのに、わずか1年半で急激に病気が進行して死んじゃうんですよ?
そんな環境の中、砂塵にまみれて、つまり、腐海から飛んでくる最も危険な物質の中で働くんです。
いわゆる「放射能まみれの原子力発電所の事故現場で、ずーっと働く」というようなことを、何世代も何世代も続けないと、これは完成しないわけですね。
「自分の父親も死んじゃったし、自分も他人より早く死ぬだろうし、今、自分と一緒に手伝いに来ている小さい息子も同じように早く死ぬことだろう」と。
こういう覚悟を持って働くことを何世代も続けなければ、こんな巨大な構造物を何重にも何重にも作れるはずがないんですね。
「でも、これをちゃんと作らないと、自分達の孫やその子供たちもずっと、自分と同じ様に寿命が短いままだ」と、そう思った祖先たちの犠牲の上に、この砂退け棚というのは出来ているんです。
ここでのユパは「今まで通って来た滅びた村々に対して、風の谷の人達というのは、自分達が死ぬことをわかりながら、何世代も何世代も頑張ってきた結果、こんなものを作った。だから、今もこの村は守られているんだ」という、かつての人達に対しての尊敬の目線で見上げながら通ってる。
そう思うと、盛り上がる音楽と共に、このユパ様が砂退け棚の前を通るだけのシーンが、すごい感動的で、僕、いつもこのシーンでメチャクチャ胸にグッと来ちゃうんですね。
「そこまで考えているんだったら、それをわかるように描けよ!」と(笑)。
だけど、宮崎駿は「いや、それを描くとストーリーが進まなくなる! ここは、棚板がクルクル回っている様子をユパが見上げてるだけで、十分カッコいいじゃん!」と。
ここら辺で “民衆を描きたい高畑勲” と、“事件を描きたい宮崎駿” というのが分かっちゃうんですよ。
かつて、これを成し遂げた祖先の人達…
…祖先といっても、つい数世代前の人達の働きのおかげで、こういうものが出来ている、と。
だから、僕はこのシーンがかなり好きなんです。
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