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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/02/27
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今回は、ニコ生ゼミ02月17日(#269)から、ハイライトをお届けいたします。

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 【『ファーストマン』番外編 2 】 2歳の愛娘・カレンの死
 
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 実は、映画の中では順番が入れ替わっていて、X-15の事故の10ヶ月前の出来事なんですけど、1961年の6月、ニールの2歳の娘であるカレンが、シアトルの公園で転びました。

 これは まあ本当に 偶然 転んじゃっただけなんですけど、その時、すごい大きいコブが出来たんですね。


 当時 ニール・アームストロングは、シアトルのボーイング工場で、X-15の次の機体の開発に関わっていました。

 空軍は、もうX-15の次の機体の開発を始めていたんですよ。

 “X-20ダイナソア” と言われる機体です。

 後に、ミサイルの先に付けることになる、もう本当に折り紙みたいな飛行機なんですけど。

 そんな折り紙みたいなダイナソアという飛行機で地球に帰って来ようと考えたわけですね。


 ニールが働いていたボーイング社のエメレット工場というのは、僕も昔行ったことがあるんですけど、「ジャンボジェットが6機同時に建設できる」という、世界最大のワンフロアの工場だったんです。

 工場内にハンバーガーショップが14件もあるという、あまりにデカすぎる工場なんですね。

 ニールは、週末以外はここに毎日毎日詰め込まれて、X-20の開発をさせられていたんです。

 週末だけ、家族と一緒にカリフォルニアに帰るということをやっていたんですけども。


 公園で転んだその日、2歳の娘のカレンは目が見えなくなっちゃったんですね。

 これは大変だということで、最初はカリフォルニアの病院で検査を受けさせたんですけど、「これは専門病院に行った方がいい」と言われて、カレンはシアトルの専門病院で、脳の中に空気を送り込んで膨らませてX線写真を撮るという、当時にしてもわりと最新であり、なおかつ子供にとってはすごくツラい検査を受けます。

 その結果、カレンは “脳幹腫瘍” と診断されました。

 脳幹腫瘍に掛かっちゃった子供は、平均寿命があと1年半しかありません。

 ただちに「脳にX線を直に当てる」という治療がスタートしました。

・・・

 この時、ニールは何をやっていたかというと、シアトルでX-20の開発をしながら、カリフォルニアに戻ってはX-15とかF-104のテスト飛行というのをやっていたんですね。

 当時のニール達がやっていた、ジェット機とかロケット機のテストパイロットの死亡率というのは24%と言われています。

 つまり「1回のテスト飛行ごとに、4分の1近い確率で死ぬ」ということですね。

 そんなフライトを、ニールは毎週のように、もう何年も続けているわけです。


 ニールは、毎週のように「死に限りなく近いところからギリギリ舞い戻る」というテスト飛行の合間にシアトルに帰っては、「娘の治療がなかなか進まない。娘は、もう、あと1年くらいで死んでしまうかもしれない」と思いながら、あやしたり抱っこしたりしていたわけです。

 その間にも、娘はまず歩けなくなって、喋られなくなってと、段々と症状が重くなってくるんですね。


 カレンには、2歳上の4歳のリッキーというお兄ちゃんがいたんです。

 この4歳のリッキーは、妹に何が起きたか全然わからなくて、もう両親は急に塞ぎ込んじゃうし、妹は寝たきりになってしまってイライラして、家庭内でわりと暴れ回り始めたんですね。

 これは映画の中でもちゃんと描かれています。


 夫は、週末だけはとりあえず帰ってきて娘をあやしてくれるんだけど、カリフォルニアに行ったりシアトルのボーイング工場に行ったりして、家にいない。

 娘はどんどん死に掛けていて、良くなる様子はない。

 息子は粗暴になっていく。

 これらのストレスで、ニールの妻のジャネットは、段々と夫に不信感を抱くようになってきます。

 この辺りがもう映画の冒頭5分とか10分あたりなんですよ。


 もう先週も話しましたけど、ニールというのは自分自身を語らない男なんですね。

 自分を語らない男ですから、実はモハーベ砂漠のテスト飛行場で、毎週のように自分が死に掛けているということを、妻のジャネットに言ったことがないんです。

 おそらく、もしそれを話していたら、ジャネットは更にストレスが掛かったはずですから。

 「もうあと何ヶ月と持つかわからない娘より先に、夫が週に2回くらい、4分の1の確率で死ぬようなテスト飛行を続けている」ということを知ったら、ジャネットは耐えられないだろう。

 そう思って、ニールは妻にそれを一度も話してなかったんですね。

・・・

 娘のカレンの容態は、一時的にちょっと良くなったんですけど、すぐにまた悪化します。

 その結果、ニールとジャネットは、ついに“コバルト線治療”というのを決心します。


 コバルト線治療というのは、脳の一番奥の部分にガンマ線を直に当てるという方法で、これは延命処置にはなるんですけども、永遠に身体の障害が残ることになるんです。

 つまり、ここから先、身体の障害はどんどん増えていって、悪くなる。その代り、命だけはちょっと伸ばせるかもしれない。それがコバルト線治療です。


 そうまでして、1961年の6月から年末まで、なんとか延ばした命だったんですけども、クリスマス前に医者たちは「これ以上は治療をせずに、家族と一緒に過ごした方が、本人にとって幸せでしょう」と言いました。

 ニール達は、丸太小屋みたいなのをカリフォルニアに建てたんですよ。

 そこでクリスマスを一緒に過ごし、もはや歩けないし話すことも出来なかったんですけど、何回かカレンは笑うことが出来た。

 そういうわけで、ちょっといいクリスマスを過ごせたんですけども。

 年が明けたら、どんどん病状は悪化して、1962年の1月28日、公園で転んでからわずか6ヶ月後にカレンは死んでしまいます。

・・・

 カレンの葬式の日、ニールの友人だったウォーカー一家の奥さん、グレース・ウォーカーという人が、こんな証言を残しています。

 「ニールの奥さんのジャネットはすごく取り乱していて、悲しんでいた。でも、ニールはちっとも悲しんでいるように見えなかった。ニールはどこまでもクールで、私達の世話をして、カクテルがもうなくなっていないかとか、ご飯とかの世話をして、暇があったらちょっと外を見ているんだけれど、悲しんでいるようには見えなかった」と。


 映画の中では、この “悲しんでいるようには見えないニール” を描いているんですけども。

 娘を埋葬するために、墓地の中に穴を掘るわけですね。

 その深い穴に娘の棺を下ろす際、穴の底をずーっと見つめているニールだけを映すんです。

 以後、この映画の中では常に、この “穴” というのが、死のメタファーになって行きます。

 「何か穴があったら、ニールはそこを見てしまう」というような、「穴を見ると、そこは人を埋める穴だと思ってしまう」という、死のメタファーになっていくんですね。


 カレンが死んでから、たった1週間後にニールは仕事に復帰しました。

 奥さんのジャネットは「仕事に行かないで!」と言ったんですけど。

 これについては、奥さんのジャネット自身も、後に語っています。「はっきりとそう言ったのに、ニールは逃げるように仕事に復帰した」と。


 仕事に復帰してから、もう次の日に、上層部に「テスト飛行させてください」と申し出たんですね。

 上層部としては「いや、お前、娘が死んだばかりなのに……」と言ったんですけど、ニールは「いや、飛びたいんです」と答えて、4分の1の確率で死ぬようなテスト飛行をまた繰り返す日々に戻ったんですね。

 その後、ニールは1ヶ月、またシアトルに出張に行き、X-20の開発をしてしまって、ずっとジャネットに会わないままだったんです。

・・・

 ようやっとアームストロング家が平和を取り戻すようになったのは、カレンが死んでから2ヶ月後、もう4月になってからです。

 ニールは、オハイオ州にある、ワカ、ワカポ……ワパコネタ牧場という場所で、休暇を取ることになります。

 この、ちょっと言いにくいワパコネタというのは、現地のインディアンの言葉なんですけど。

 このワパコネタ牧場で休暇を取った時というのが、実は、映画の冒頭で出てきたX-15の事故の直後だったんですよ。


 X-15の事故というのは、ニールが宇宙空間に弾き飛ばされて「もう帰れないかも」という時に、ギリギリなんとかエドワーズに帰ってきて、胴体着陸みたいにねじ伏せるようにして着陸させた事故です。

 ニールはそのまま休暇を取って、久しぶりに家族と一緒の時間を過ごすことになるんですけど。

 やっぱり「俺、死に掛けたんだ」という事は誰にも話さずに休暇していたんですね。


 この時、そのワパコネタ牧場で、偶然、羊が死んだんですよ。

 子羊が死んだ。伝染病か何かだったんですけど。


 ニールの妹ジェーンも、同じ牧場で一緒に休暇を取ってました。

 家族全員で休暇を取っていたんですけど。

 彼女が言うには「この時に、すごく異常に思えたのが、ニールは羊たちがいる厩舎に、決して近づかなかったことだ」と。


 それまでにはそんなことなかったのに、ニールはまるで何か怖がるかのように、羊たちに近づかなくなったんです。

 まるで「自分が “死” というものを伝染させている」と思い込んだように、「自分の近くにいると、誰もが死んでしまう」と思っていたかのように、ニールは家族が何度呼んでも、絶対に羊の小屋に近づかなくなったそうです。

・・・

 ニールは、自分が死ぬことは全く恐れないんですよ。

 テストパイロットですから。

 4分の1の確率で死ぬようなことを何度も何度も繰り返しているような人だから。

 だけど、他人の死に関して、誰かが死ぬということに関して、極端に過敏になっていったんですね。


 「自分が死から逃れる度に、その代りに誰かが死ぬんじゃないか?」と、「逆に、誰かが犠牲になって代わりに死んでくれたおかげで、自分は生き残っているのではないか?」と。

 「娘のカレンが死んでしまった2ヶ月後くらいにX-15の事故を生き残ったニールは、徐々にそんなふうに考えるようになった」というふうに、妹のジェーン達は考えていたそうなんですけど。


 それも、妻のジャネットにはやっぱりわからないんですね。

 後になって、段々と辻褄が合うようになってきて、わかったことです。

 だから、映画の中でも、それは断言せずに、徐々に徐々に匂わすようにして進行していきます。

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