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岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/05/02
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今回は、ニコ生ゼミ04月21日(#278)から、ハイライトをお届けいたします。

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 【『風立ちぬ』完全解説 4 】 『キカイダー』と『風立ちぬ』


 前回、関東大震災まで話しました。

 その後、主人公の堀越二郎が東京大学に行くようになると出てくるのが、友達の本庄という男です。


 この本庄という男はですね、わりと最初からラスト近くまで登場する、主人公・堀越二郎の親友でありライバルであるという大事な役回りで、いわゆる『ルパン』における次元大介みたいなポジションだと思います。


 本庄のモデルになったのは “一式陸攻” という爆撃機を設計し、「堀越二郎とたった2人で戦前の日本航空業界を世界レベルに引き上げた天才」と呼ばれる実在の人物、本庄季郎という人です。

 ちょっと珍しい名前ですね。


 この本庄くんは、実は宮崎駿の初期案では、もっと活躍するはずだったんです。

 宮崎アニメで初の “バディモノ” になるはずだったんですね。

 「2人で力を合わせて」というか、「2人でこの世の中をいろいろ見ていく」という話になるはずだったんですよ。


 なぜ、バディモノになるくらい大事な登場人物だったのかというと「実は本庄の役割というのは “ジミニー・クリケット” だったから」なんですね。

・・・

 ジミニー・クリケットとは何か?

 これは石ノ森章太郎の『人造人間キカイダー』の第1話です。

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 ここに「良心回路、悪い命令には絶対従わないロボットの心を作るのだ!」というセリフがあるように、博士はキカイダーのために “良心回路” というのを作ります。

 そして、その良心回路を「ジェミニ(双子星)」と名付けると言います。


 では、なぜ、自分のロボットの良心、悪いことはしないというものにジェミニと名付けたのかというと「この『人造人間キカイダー』の原作は『ピノキオ』だから」なんですね。

 これはもう、『キカイダー』の最終回のラストのコマで「ピノキオは人間になれて、果たして幸せだったのか?」というセリフがあるくらいなんですけども。

 「人間になりたくて、人間の心を手に入れようとした木で作られた人形が、一生懸命戦っていく」というお話なんですね。


 この『人造人間キカイダー』はでディズニー版の『ピノキオ』が原作です。

 ディズニー版の『ピノキオ』では、女神様によって動く力、生きていく力を与えられたんですけども、ピノキオには善悪がわからないと。

 なので、コオロギのジミニー・クリケットがお目付け役としてつくんですね。

 ジミニー・クリケットは、まだ生まれたばかりで、まだ善悪がよくわからないピノキオに「それはしてはダメだよ」とか、「それはしてもいいよ」というのを教えてあげるという存在です。


 『風立ちぬ』の堀越二郎も、天才ゆえに複雑な善悪がわからないんですね。

 「下級生をいじめるヤツは悪い」という、単純な善悪の世界に生きている。

 そして、二郎というのは、もともと設定されていたキャラクターとしては「あまり自分の内面を語らず、そもそも口数自体が少ない」というものでした。

 なので、本庄がジミニー・クリケットとして、「これでいいと思うのか?」とか、「お前はこれを矛盾だと思うか?」と問いかけることで、作品の中の社会性とか、戦争の問題というのを描く予定だった、と。

 堀越自体は、あまり内面がわからない男として描かれるんですね。

 なので、本庄の方から問いかけるような形、もしくは喧嘩を吹っかける、問答するような形で語りかける。
 
 それに対して、二郎が「何も考えていないようだけど、何かあるのかな?」というふうに答えることで、観客に問いかけていくようなお話として作っていくはずだったんですよ。


 つまり、言っちゃえば、堀越二郎はナウシカみたいなもので、本庄はクシャナみたいなものだったんですね。

 ナウシカというのは、単純な正義感で動くんですけど、クシャナというのは「そんなことで王道楽土が築けるのか?」とか、「それで他人がついてくると思うのか?」とか、「結局それでは生き残れないではないのか?」というふうに、ナウシカに関してちょっと難しいことを言うんですね。

 本庄というのも、当初はそういう役割だったんです。

 こういったバディムービー的な相棒映画みたいなキャラ配置というのを、初期では予定していたんですね。

・・・

 これは、そんな本庄の初登場シーンなんですけど。

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 東京大学が、関東大震災の火事で燃えた時、東大の図書館の本も燃えてしまった、と。

 この本庄は、さっきから図書館から本を運び出すことに必死になって、すげえ働いてたんですけども。

 休憩の時には、座り込んでタバコを吸い始めるという無神経さを見せてます。

 そんな、わりと豪快な男なんですけど。

 
 これはその2年後、卒業間近です。

 東京大学の学食で、ご飯を食べてますね。

 サバの味噌煮ばっかり食べてる二郎に、本庄は怒りながら、「今や世界はジュラルミンの時代に来ているんだぞ! お前も肉豆腐を食え!」と言うんですね。


 ここ「肉を食え!」ではないんですよ。

 やっぱり当時は貧しいから、「肉豆腐を食え!」くらいしか言えないんですけども。

 このシーンは、後に出てくる「機体全部がジュラルミンで作られた “ユンカースG-38” という機体を見せられてビビってしまう」というシーンの伏線にもなっているんですね。


 まあ、こういうふうな形で、二郎に対していつもいつも何かを問いかけていって、現状を確認する。

 社会性を確認する役割だったんですけど。

 しかし、主人公の二郎くんは、お箸でサバの骨をつまみ上げて、その骨の曲線の美しさにうっとりしているんですね。

 それだけではなく、早速、教室に帰ってサバの骨の曲線を写し取ります。

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 サバの骨を紙に置いて、その上を鉛筆でなぞって、この曲線を綺麗に写し取って行くんですね。


 このシーンで堀越二郎は嬉しそうに、「本庄、我発見せりだ。サバの骨と同じ曲線が “ナカ” の規格にあるぞ」と言うんですけど。

 映画館でこれを聞いた時は、この「ナカの規格」って、何のことかわからなかったんですけども。

 とりあえず、絵コンテを見て、ようやっと分かりました。


 「ナカ」というのはアメリカ航空諮問委員会、NACA(National Advisory Committee for Aeronautics)っていうやつです。

 これ、何かというとNASAの前身なんですよ。

 1958年にNASAになるんですけども、その前は飛行機技術を開発するところだったんですね。

 このNACAにあった一番有名な施設が “ラングレー研究所” というやつで。

 ラングレー研究所には、当時、世界最先端の風洞がありました。

 それも音速に近い速度が出せる風洞です。そこで理想的な翼の断面とか、飛行機の形というのを研究していたわけです。


 二郎がサバの骨の曲線というのを自分で計算していって、曲率とか、どこに頂点があるのかってやったら「ああ、NACAが出してた風洞実験によって得られた理想的な翼の断面にすごい近い。同じ規格があるじゃないか」というふうに発見して喜んだわけですね。


 というわけで、このNACAはですね、後にNASAに組織改編されて、ラングレー研究所の風洞は超音速風洞になってですね、マーキュリー宇宙船の実験にも使われました。

 『ライトスタッフ』とか『ドリーム』に出てきた宇宙カプセルとかを試験する風洞というのは、全てこのラングレー研究所の風洞でもあります。

 意外なところで世界は繋がっている、と。

 ちなみに、ここで「本庄、我発見せりだ」と言われた本庄くんは、偶然にも、後に日本初の高速風洞を開発することになるんですね(笑)。


 堀越二郎がこの後に作る “九試単座戦闘機(略称は九試単戦)”  という、すごいカッコいい飛行機があるんですよ。

 本庄くんが、その模型を自分が作った風洞の中に入れて最高速度を測って「最高時速240ノット出る」と計算したんですね。

 しかし、堀越二郎はその数字を信じずに「そんなに出るはずねえだろう? 220ノットだよ」と、自分の計算の方を信じて海軍の方にデータを提出したんです。

 そしたら、実際にこいつを飛ばしてみたところ、本当に240ノット出ちゃったんですよ。

 「ああ、本庄が作った風洞って正しかったんだ」ということで、後で本庄くんに「ごめん」って謝ったそうです(笑)。

 そのテスト飛行のシーンは『風立ちぬ』の中でも描かれています。

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 もう本当にラストに近いところなんですけど、九試単戦というやつが240ノットを叩き出し、黒川さんが「速すぎる……」って言うシーンがあるんですけども。

 というわけで、世界は意外なところで繋がっている。

 世の中には無駄な知識など何もないということで、岡田斗司夫ゼミをお楽しみ頂ければと思います(笑)。

・・・

 このサバ事件の後……まあ「事件」というほどの出来事でもないんですけど。

 堀越二郎は東京大学を主席で卒業して “三菱内燃機” に入社します。

 「内燃機」というのはエンジンのことですね。

 そして、飛行機を作るために名古屋に行きます。


 名古屋に行く途中で、人が線路を歩いているのを目撃します。

 本当に線路の上をいっぱい歩いているんですよ。で、汽車が来たら、みんな「うわー!」って逃げていく。

 迎えに来てくれた本庄くんに聞いたら「あいつら、仕事が欲しくて野宿しながら歩いて都会に押し寄せて来るんだ」と教えてくれるんですけど。

 それくらい二郎は何も知らないんですよ。

 この世の中のことを何も知らない。

 本庄の方が詳しいんですよね。

 「あれはなんだ? 何をやってるんだ?」と二郎が言ったら、「あれは仕事がない人がこうしてるんだ」とか、「あれは銀行に押しかけてるんだ」というようなことを、全部本庄が教えてくれる。

 まあ、ジミニー・クリケットの役割ですから。


 庶民は汽車に乗れずに、みんな歩いて名古屋まで何日もかけて来ているのに、しかし、二郎達は贅沢にも会社の金でタクシーで三菱に向かいます。

 すると、途中でお金を下ろそうとして大勢が銀行に押しかけている “取り付け騒動” というのを目にします。

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 この取り付け騒動の様子を、二郎はタクシーの中から「うわー」って眺めているんですけど。

 銀行の前に集まっている人、オバサンがすごい必死になって銀行からお金を下ろそうとしている様子を、ガラスのような目で見ている。

 本当に、庶民がなんで騒いでいるのかが、主人公の二郎にはよくわからないんですよね。


 これ、何かというと、関東大震災の2年後なんですよ。

 いろんな会社が、関東大震災によって壊れた工場とかを建て直すために「大丈夫だろう。なんとかなるだろう」と思って発行した手形の期限がちょうど2年で、この頃に一斉に切れたんですね。

 関東大震災の直後は「2年あればなんとかなるだろう」と思ったのが、結局ダメで、なんともならなくて、手形が不渡りになって起きた、昭和の初期の恐慌。

 これを “昭和大恐慌” と呼びます。


 連鎖倒産が次々に起きて、お金を引き出そうとしてる人が銀行に突入して、銀行が閉鎖するという取り付け騒ぎが起こったので、それによる不安によって、ますます不況が深刻になったような時代なんですけど。

 この銀行に押しかける人達に比べて、本庄くん達が乗っているこのタクシーの中の豪華さと、二郎くんの「ああ、そうなんだ。大変だなあ」という、ガラスの目みたいなものが、このシーンの見どころだと思います。


 もし、関東大震災の後、経済や雇用対策というのをしていれば、不況なんか起きなかったかもしれないんですよ。

 しかし、この日本という国は、その時に「軍備を拡大して他所の国に進出して景気を良くする」という方針を選んでしまった。

 そのツケが、目の前の昭和大恐慌なわけですね。

 こういうふうに「何が起きているのか?」というのを解説する本庄くんには、自分の立ち位置が分かっているんですね。

 つまり「俺達の国は、世界の二流国から一流国に行こうとしているんだ。ジャンプしようとして膝を屈しているから、今ツラいんだ。だけど、俺達が作る飛行機で、世界の一流国の仲間入りをして、国を豊かにしてやろう」という、いわゆる “富国強兵政策” というのを、本庄くんは信じているんですね。

 でも、二郎は別にそんなことを考えているわけでもない。

 この辺りの会話はジミニー・クリケット的なんですけども。

 自分の飛行機にしか興味のないサイコパスっぽい主人公をわかりやすく表現するために、本庄というキャラクターが必要だったわけです。

・・・

 次は、ちょっと見えにくい絵コンテの説明になるんですけども。

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 これは、三菱内燃機にやってきた堀越二郎が上司の黒川さんと共に廊下を歩くシーンの絵コンテです。

 「女ばっかり見ている」というやつなんですけども。

 1コマ目の注釈には「意に介せず悪びれない二郎」と書いてあります。

 これ、どういう意味かというと「会社に来るのが遅くて、この黒川さんに怒られるんですけど、二郎は全く意に介せず、悪びれない」ということですね。

 2コマ目には「ここで二郎の目が左側に」と書いてあり、3コマ目には「娘たちがよぎって行く」って書いてあります。

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 5コマ目では「娘たちを前にして二郎、頭を下げて、左を通る娘にも会釈を返す」というふうに書いているんですけど。


 この黒川さんというキャラクターは、宮崎駿のお気に入りのキャラクターなんですね。

 本編でも、やっぱりすごい人格者なところを見せるんですけども。

 この「そんな黒川さんの話を聞き流して、女の子ばっかり見ている二郎」というのは、明らかに宮崎駿は、この段階では主人公に感情移入させないようにしてるんですね。

 観客にあまり主人公に感情移入させないように、主人公の欠点を見せるという形で「ちょっとダメなやつなんですよ。批判的に見てください」というふうに作ってます。

 その後のコンテでも、「庭に飛行機があったら、黒川さんが話しかけている中でも、その飛行機を見えなくなるまで目で追ってしまう」ということが描かれています。

 一緒に働いている同僚とか仕事場よりも、女の子や飛行機にばっかり興味を持ってしまう。

 しかし、天才で抜群に仕事は出来る。

 そういう “ちょっと困ったキャラ” として堀越二郎というのを描いてました。


 こういうところを指して、さっきから僕は「サイコパス」と言ってるんですけども。

 このサイコパスな部分を、宮崎駿は決して良いこととは思ってないんですね。

 ここまでの描き方でもわかる通り、決して「天才だからしょうがないんだ」とは描いてない。


 なぜかというと、同じ天才の本庄を、そういうヤツとして描いてないからです。

 「2人の天才」というふうに、宮崎駿は飛行機に関して書いたエッセイの中でも、本庄と堀越二郎のことを書いているんですけど。

 だから「天才だから仕方がないんだ」という描き方じゃないんです。

 でも、宮崎駿が描きたかったのは、やっぱり、こういう人格的に問題のある堀越二郎だったんですよ。

 では、なぜそれを描きたかったのか?

 その理由は、まあ今日の後半で話そうと思うんですけども。

・・・

 次は、予告編でもお話ししたこのシーンですね。

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 「二郎の差し出すシベリアを拒否する女の子」です。

 思いがけず拒否されて、堀越二郎はボンヤリと立ち尽くしてしまう。

 ここで、女の子は、二郎から「ほら、シベリアだよ。食べなさい。美味しいよ」と言われて、一瞬だけそのシベリアをジッと見るんですけども、グッと我慢して、二郎を見上げるように見返すんですね。


 この時の視線は、女の子も、その弟らしき男の子も、2人ともシベリアをちょっと見ているんですけど。その後では、男の子の方が「お姉ちゃん?」と目線を送るのに対して、お姉ちゃんの方は二郎をグッと正面から見返す。

 二郎には、自分が拒否された事は分かるんだけど、その理由が理解できないんですね。


 別に、お腹が空いていようが貧乏だろうが、弱者は弱者なりのプライドがあり「何かを恵んであげるよ」と言われたからといって決していい気持ちはしないんですけども。

 エリートの二郎には、そこら辺が全然わからないんですよ。

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 この事件があった後、本庄は「入るぞ」と言って、いきなり二郎の部屋に入ってきます。

 後に分かるんですけども、本庄が二郎の部屋に来た理由は「俺もドイツ留学が決まったぞ!」ということを報告をするためなんですね。

 「自分でもライバルだと思っている二郎が、先にドイツ行きが決まってしまった。でも、俺もその後、ドイツ行きが決まった。どうだ二郎!」ということで意気揚々と自慢しに行ったんです。

 なのに、肝心の二郎は、なんか落ち込んでお茶を淹れている。

 「どうしたんだ?」と聞くと、このシベリアと娘の一件を話したんですね。

 それに対して本庄が言ったのが、もういきなり「それは偽善だ。その娘がニッコリして礼でも言ってくれると思ったのか?」という決めつけです。

 これに対して、二郎は「違う! そんなこと考えてない」と即答するんですけども。

 その後、顔を下げてる演技を見せた後で、「いや、そうかもしれない」と、小さい声で言います。

 自分の内面を恥ずかしく思ったんですね。

 なので「違う」と反射的に答えたんだけど、「でも、確かにかわいい女の子に礼を言われることを期待していた自分がいたかもしれない」ということに気付いて、恥ずかしく思うんですよ。

 それに対して、さらに本庄は「お前が開発した “隼” の取付金具、あれ1個の金があれば、この近所の子はみんなシベリアを食えるんだ」と言います。

 つまり「俺達がやっていることは、ああいう子供が食えなくなる原因を作っているのと同じことなんだぞ?」というふうに、本庄は言うわけですね。

 すると二郎は「この国はどうしてこんなに貧乏なんだろう?」というふうに言います。


 噛み合わないんですよ、この本庄と二郎の会話。

 本庄が言ってるのは「わかっているのか? 俺達は加害者なんだぞ? お前は施しをしてやっていい気持ちになるのかもわからないんだけど、そもそもなんで、その女の子やこの国の子供達が貧しいのかというのを考えたら、俺達が飛行機を作って、それが金を食うからに決まってるんじゃないか」と。

 「俺達が国の金で飛行機を作ってるから、その女の子の親も家に帰れないんだ。だから、夜中まで外で親が帰ってくるのをずっと立ちつくして待っていることになる。俺達は加害者側の人間なんだよ? それわかってるのか?」というふうに、本庄が言うわけですね。

 ジミニー・クリケットですから。


 しかし、二郎には「自分は加害者だ」という自覚が全く無いと。

 貧乏というのは状態であって、自分とか軍部が原因だとは思ってないんですよね。

 「二郎、今回の技術導入でユンカースにどれだけ日本が金を払うか知ってるか? 日本中の子供に天丼とシベリアを毎日食わせてもお釣りが来るような金額だ」というふうに、本庄は二郎に問いかけます。

 でも、二郎はそれをぼんやり聞いているんですね。

 何の反応もしない。

 「そうなのか」という感じなんですよ。

 本庄は「それでも俺は与えられたチャンスを無駄にしないつもりだ!」と言います。

 すると、ここで二郎は「本庄も行けるのか!」というふうに嬉しそうに答えてしまう。


 つまり、基本的に二郎はサイコパスだけど、ヤなヤツではないんですよ。

 良いヤツなんですよ。

 友達にチャンスが与えられたら、自分のことのように喜ぶような、すごい良いヤツなんですけど。

 でも、本庄が根本的に抱えている悩みというのに、全く共感できなくて困っているんですね。


 本庄はさらに「貧乏国が飛行機を持ちたがる。それで俺達は飛行機が作れる。矛盾だ」というふうに言って帰ってしまいます。

 本庄にそんな難しいことを言われた二郎は、部屋で1人、悩むんですけど。

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 この時の演出として、悩んでいる二郎の顔を見せないんですね。

 見ている人に対して、ひたすら「二郎はこの時、何を考えているんだろう?」とか、「二郎は今の本庄の話をどう受け取ったんだろう?」、「今、映画を見ている自分は、どちら側のポジションに立っているんだろう?」ということを考えさせるようになっている。

 そんな、いわゆる “高畑勲型の客観主義” というのを、この映画の最初の30分くらいの段階では、かなりバンバン出してくるんですね。

 だから、ここまで見てる感じでは、映画として、これまでの宮崎アニメとは全然違う、かなり難しめの話になっているんですよ。

 この2人がドイツに留学に行って何があったのかという話は、後半にしようと思います。


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