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今回は、ニコ生ゼミ6月16日分(#286)から、ハイライトをお届けいたします。
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「【『攻殻機動隊』第2話解説 3 】 世界で初めて “ハッキング” を絵として表現したシーン」
アクションシーンですから、もう全てが流れるように進んでいます。
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ドジ踏んで、みんなをピンチに落とし入れた後に、排水口の出口でやられちゃって、まあ気絶してますぜ、と報告します。
サイトー:外へ?
草薙素子:バカッ、侵入すんのに決まってるだろ!
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サイトー:たく、人使い荒いぜ。うちの姫様はよ。
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サイト―:あれはイシカワのフチコマじゃねえか、どうなってんだ!?
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イシカワのフチコマを操りながら、例のやり手のガードマンは「何てあいまいな照準装置を使ってやがんだ」と怒ってます。
サイトーは、「イシカワ、イシカワ! 何、寝ボケてやがるッ!!」というふうに呼びかけるんですけども。
このハッキングの様子を視覚的に表現したフラッシュみたいなものは、右から左に流れています。
日本語の漫画というのは、基本的に「右から左に読む」んですよ。
なので、主に右に原因があって、左にその結果がある。
上に原因があって、下に結果があるという流れに、だいたいなっています。
次のシーンでもそうですね。
この「警備員 → サイトー → 草薙素子」の順にハッキングが流れるシーンでも、右上に原因である警備員の顔があって、その左下には結果である草薙素子の顔が来る、という流れになる。
反対に、右側を向いている時は「何かの力を止めようとしてる」という時だというふうに覚えておいてくれれば、まあ歌舞伎の上手・下手みたいに、お話が受け取りやすくなると思います。
この、侵入しようとしている流れを表すフラッシュの中にも、英語みたいなものでなく、バーコードみたいなものだけを書きこんで、「これはデジタル通信だ」ということを表現しようとしています。
ということで、フラッシュが、すでに脳を支配されているイシカワを通り過ぎて、それを発見したサイトーまで達し、彼も操作されることになります。
サイトーを操作した上で、草薙素子の脳の中にまで入ろうとしている。
それに気が付いた草薙素子は、「フチコマ、回線を切れ! 閉鎖モードに――」ということで、回線を切ろうとしてるんだけど、すでに彼女の中にも、このガードマンが入って来ています。
いわゆる、自分の中に入られないために築いているはずの壁が、同時に、入ってくる相手を攻撃する武器にもなっているという仕掛けです。
これは、もうすでに彼女も操作されているからですね。
ただ、草薙素子は、なんとか警備員からの侵入を攻性防壁によってはねのけます。
そして、その隙に……これ、「ザザザザ」と地面に倒れ込む時に、左手に何かを持ってるんですけど。
「フチコマの中で、何かのスイッチを入れる」んじゃなくて、「フチコマのユニット全体から、たぶん、そういう装置を引き抜いちゃってる」んでしょうね。
イシカワやサイトーというのは、フチコマの中にいながらハッキングに対応しようとしたんだけど、草薙素子は、フチコマから飛び出すことによって、強制敵に接続を切って、潜入されるのを防ぎました。
これも、さっきと同じです。
フチコマが原因で、このガードマンが結果。「日本の漫画においては、必ず時系列、因果関係というのは右が原因で、左が結果になる」という流れになっているわけですね。
たぶん、これは「無理やり侵入された時のヒューズ」みたいなものでしょうね。
家庭で電気を使い過ぎるとヒューズが飛ぶみたいなもので、こういう装置を肩につけてたから、こいつはフチコマに逆侵入されなくて済んだんですね。
その瞬間、サイトーとイシカワへの操作が消えて、「野郎ォ、よくも!!」ということで、イシカワはガードマンがいる場所へ向かってバンバンと弾を撃つことになります。
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何かをやった後には、必ずこうやって理由を説明してくれます。
後に2巻になってくると、これを全く言ってくれなくなるんですよね。
よく『攻殻機動隊』について「1巻はまだわかるんだけど、2巻がわかりにくい」と言われるのは、こういうフォローをもう一切しなくなってしまったからなんですよ。
一般読者を割りと置いてけぼりにしちゃったんです。
ただ、こういう説明は、ダサいはダサいんですね。
この描写だけで本来わかりそうなものを、「身代わり装置をつけておいてよかった」というセリフを入れることによって、ちょっとダサくなっちゃうんです。
一番最初にも言いました通り、あの第1話というのは、全てを描き終えた後、単行本に収録する際に描き下ろされたものであって、実は光学迷彩というアイデアがこの作品の中で初めて出てくるのは、このシーンなんです。
顔にも、こんなフードを付けています。
光学迷彩というのは、あくまでも、柔らかいモニターで出来た生地と言うんですかね?
よく僕らは「次の時代には折り曲げることが出来る液晶モニターが現れる」みたいなことを言うんですけど、これはもう “布状になった液晶モニター” なんですね。
この時点での光学迷彩というのは、そういうすごく原始的なものです。
「あの女隊長をなんとかしなければ」ということで、彼女を追い詰めたつもりが、そこにあるのは「DUMMY」って書いてある囮なんですね。
この「隠れ蓑」というのが光学迷彩のことですね。
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警備員(やり手):わかった降参する! 脳は傷つけないでくれ!! お互いプロだろ。仕事でやってるだけだぜ。
草薙素子:洗脳装置とゴースト侵入 “鍵” (プログラム)素子。
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「洗脳装置とゴースト侵入鍵素子を渡せ」というふうに、名詞だけで要求します。
それに対して、「わかった、渡す。別に大事なものじゃない」と、こいつはすでに降参態勢に入っている。
彼も優秀ですね。
プロというのは、実力差とか装備差があれば、簡単に「じゃあ、もう、お互いプロだから、戦うのをやめよう」と言って、交渉を始めるんですね。
警備員(やり手):それは知らん。もし焼いたとしても通常の対応なんだよ。あんたら一体何なんだ!?
草薙素子:洗脳なんてのが大っ嫌いなゴーストさ。電脳倫理侵害現行犯で逮捕する。
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ここで降参しているところが、まあ流れとして面白いところです。
一応、「※全天候型熱光学迷彩の商品名。“京レ” はメーカー名」と、こういうふうに脚注とかを入れてくれるところが、この頃の士郎正宗の親切なところですね。
「え?!それってどういうこと?」「そこのところ、もっと詳しく知りたい!」という人は、どんどん、質問してみて下さい。
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