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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『崖の上のポニョ』解説:ちょっとエロくてかなり怖いグランマンマーレの正体」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『崖の上のポニョ』解説:ちょっとエロくてかなり怖いグランマンマーレの正体」

2019-09-12 07:00

    岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/09/12

     今日は、2019/08/25配信の岡田斗司夫ゼミ「『崖の上のポニョ』を精神分析する〜宮崎駿という病」からハイライトをお届けします。


     このように、グランマンマーレは自由に自分のサイズを変えられるように見えるんですけども。それだけでは説明できない、ちょっと不思議なシーンがあります。
     それが、グランマンマーレと宗介の母親のリサが、2人で相談するシーンです。
    (パネルを見せる)

    nico_190825_02603.jpg
    【画像】グランマンマーレとリサ ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     もう本当に、映画の最後の方のシーンですね。グランマンマーレとリサが立ち話をしているところを、養老院のおばあさんたちが遠くから「あの2人、ずっと話してるけど、何を話してるのかしら?」と見ている場面です。
     この時、2人が何を話しているのか、観客には全然わからないんですよね。
     グランマンマーレのサイズも、微妙にちょっと怖い大きさなんですけど。まあ、別に、リサと全く同じサイズじゃなくてもいいと思うんですけど。なんか、この時のグランマンマーレって、ちょっと威圧的な大きさで、怖くて良いんですよ。
     この後、ケアハウスのおばあさんたちが「リサさーん!」って声を掛けたら、リサが「はーい」って手を振るんですね。グランマンマーレは視線だけをチラッとよこすだけなんですけど。
    (パネルを見せる)

    nico_190825_02621.jpg
    【画像】手を振るリサ ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     で、リサがカメラの方に歩いて来るんですけど。手前にある花壇を避けて歩いて来るんですね。
    (パネルを見せる)

    nico_190825_02624.jpg
    【画像】歩いてくるリサ ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     わざわざ手前に花壇があって、それを避ける作画をしているんです。
     このシーンの絵コンテを確認しても、やはり「この位置に花壇があって、リサは花壇を避けて斜めに歩く」って指定してあるんですね。
     こんな面倒臭いことをしているのには、やっぱり理由があるんです。
     では、なぜ、宮崎駿は、この位置に花壇を配置したのか? これね、実はこのカットだけじゃないんですよ。
    (パネルを見せる)

    nico_190825_02700.jpg
    【画像】足元の花壇 ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     これは、ついにケアハウスに到着した宗介とポニョが、グランマンマーレと会うシーンなんですけど。ここにも、マンマーレの手前の足元に花壇があるんですね。
     グランマンマーレは、上手側から歩いて来るんですけど。この花壇が途切れる手前でピタリと止まって、その位置で宗介達とお話をするんです。
     このように、グランマンマーレは、絶対に観客に足元を見せないんですよ。

    ・・・

     なぜ、グランマンマーレは足元を見せないのか?
     なぜ、自由自在に身体を大きくしたり小さくしたりできるのか?
     なぜ、海の中でこの女の人は光っているのか?

     実は、このグランマンマーレの正体というのは、宮崎駿のインタビュー集『続・風の帰る場所』の中に、ハッキリと書いてあるんですね。
    (本を見せる)

    nico_190825_02750.jpg
    【画像】続・風の帰る場所

     グランマンマーレの正体はチョウチンアンコウだそうです。
     「体長が1キロメートルくらいある、超巨大なチョウチンアンコウのバケモノ。それがグランマンマーレの正体だ」と書いてあるんですね。
     そんな巨大アンコウと人間の男との異種交配、つまり「違う生物同士が交配して、子供を作る」というお話なんです。
     日本でも、例えば『鶴女房』とかがありますよね。いわゆる『鶴の恩返し』。ああいう違う生物との間に子供が出来るお話というのは、民話にはよくあるんですけど。
     「そういった異種交配の話こそが、この『崖の上のポニョ』の本質の1つだ」と、宮崎さんは語ってるんです。
     それも極めて楽しげに語ってるんです。「異種交配譚なんですよね! アンコウなんですよ! 1キロもあるんですよ!」と、すごく嬉しそうに語ってるんですよ(笑)。
     まあ、皆さんもご存知でしょうけど、チョウチンアンコウというのがどんな生物かというと、こんな姿をしています。
    (パネルを見せる )

    nico_190825_02903.jpg
    【画像】チョウチンアンコウ

     これがグランマンマーレの正体なわけですね。
     深海魚です。この口には鋭い牙が生えていて、頭から生えている触手の先端の辺りから発光液という液体を放出するので、海の中で光るんです。
     つまり、グランマンマーレの女性の形をした部分というのは、この触手の先端部分なんですよ。この部分が女の人の形をしているんですけど、その奥には、超巨大な、大きさが1キロくらいあるグロテスクな深海生物の本体が存在しているわけですね。

    ・・・

     グランマンマーレの本体は、今、言ったように、チョウチンアンコウなんですけど。
     現実のチョウチンアンコウというのは、「深海でも光るこの触手で獲物をおびき寄せ食べる」という生物なわけです。
     それと同じく、このグランマンマーレというのは「この触手の先にすごく美しい女の人の全身を作って、人間のオスをおびき寄せて異種交配をする」という生物なんですね。
     宮崎駿は、さっきの本とか、別のインタビューでも「グランマンマーレには、フジモトだけでなく、何人も夫がいる」って言ってるんですね。
     つまり「貪欲で多淫症」というのかな? 「とりあえず、いろんな相手と交配するのが好き」というような性格なんです。さらには「これはもう、その娘であるポニョもそうだ」と言ってるんですけど。
     じゃあ、フジモト以外の他の夫はどこにいるのか?
     フジモトと同じように、世界の海のどこかに住んでいて、グランマンマーレが来るのを待っているのかというと、いや、たぶん違うんですよね。
     その理由は「マンマーレの正体はチョウチンアンコウである」というところからもわかるんです。
     チョウチンアンコウのオスとメスの交配の仕方、交尾の仕方というのは、かなり特殊なんですよ。
    (パネルを見せる。 日テレニュース24 the SOCIAL natureより画像引用)

    nico_190825_03104.jpg
    【画像】チョウチンアンコウのオス ©NNN

     「メスに噛みつき一体化するオス」と書いてあるんですけど、巨大なメスの身体に埋まり込んで、寄生するように、オデキみたいになっているのが、チョウチンアンコウのオスなんですよ。
     このオスは、メスの身体に埋め込まれていて、すでに組織は癒着して、もう一生、離れられないんですね。チョウチンアンコウのオスというのは、メスの身体に寄生して、そのまま一生を送るんです。
     メスは、オスが寄ってくるように化学物質を出すんですけど。チョウチンアンコウのオスというのは、本当にメスの身体の数十分の1という小ささなんです。そんなオスは、化学物質を頼りにメスの身体を探し当てると、その身体のどこかにかじりつくんですね。すると、その瞬間から、オスの組織と循環系というのはメスの身体と一体してしまう。
     そこから先は、栄養はメスの血液を通じて得るようになり、目も手足もヒレも他のほとんどの内臓も退化してなくなってしまって、単なる「メスが産卵する時に精子を放出するだけの器官」になっちゃうんですね。メスの内臓の一部になっちゃうわけです。
     これが、チョウチンアンコウという生物の特殊なところなんです。
     そんな生き物を、わざわざ「グランマンマーレの本体だ」と設定したということは「フジモト以外の夫、オスというのは、全てグランマンマーレの体内に吸収済みだ」ということなんですね。

    ・・・

     じゃあ、なぜ、フジモトだけは吸収されていないのか?
     実は、フジモトという男についても、これは『ポニョ』のパンフレットとかガイドブックにも書いてあるんですけど、「『海底2万哩』に出て来るノーチラス号の船員の生き残り」という設定があるんですね。

    nico_190825_03304.jpg
    【画像】1871の壺 ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

     フジモトが、自分の船の中で海の生命のエキスを抽出しているシーンで、一番古い壺には「1871年」という年号が書いてあるんです。
     要するに「フジモトが作った生命の水の中で、一番古い壺が1871年製だ」ということなんですけど。
     なぜ、ここだけ具体的な数字を出しているのかというと、「ジュール・ベルヌが『海底2万哩』を出版したのが、1870年だから」なんですね。この『海底2万哩』というのは、ノンフィクションという体で出版していたので、「ちょうどその時期にノーチラス号の沈没事故があった」と書かれているわけですよ。
     フジモトは、沈没があった1870年にグランマンマーレに助けられ、そこから生命の水の精製を始めた。だから、最初の壺に書かれた年号が1871年になっているという設定なんだと思います。
     この辺の「『海底2万マイル』の生き残りだ」というのは、宮崎駿自身が、裏設定と言いながら、堂々といろんなところで言ってる話ですから、これは確かだと思うんですけど。
     こんなふうに、フジモトだけは、グランマンマーレの役に立っている。だからこそ、他の夫のように同化吸収されずに、今も生きているわけです。
     なので、フジモトにとってのグランマンマーレは、愛しい妻なんだけど、同時に、自分が役に立たなくなったら、体内に同化してしまうような、恐ろしい存在でもあるんです。
     「マンマーレには、フジモトの他にも夫がたくさんいる」と言いながらも、海の中で生命の水を作っているフジモト以外に全く気配を見せないのはなぜかと言うと、おそらく、「他の夫もいたんだけど、もう死んでしまった」か、あるいはチョウチンアンコウをわざわざ設定してるんだから、「マンマーレに同化されてしまった」と考えるのが一番良いんじゃないかと思います。
     たぶん、フジモトも、年を取ってこういう作業が出来なくなってしまったら、グランマンマーレの体内に引き込まれて、組織とかが癒着して、同化されてしまうんじゃないか、と。
     でも、その時に、フジモト自身がそれを「嫌だ!」とか「怖い!」と思うかは、この世界観の中ではちょっと疑問だなと思うんです。案外、喜んじゃうんじゃないかな?


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