岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/09/13

 今日は、2019/08/25配信の岡田斗司夫ゼミ「『崖の上のポニョ』を精神分析する〜宮崎駿という病」からハイライトをお届けします。


 さっきの話の続きになりますけども。今までの話からわかる通り、この花壇に隠れて見えないグランマンマーレの足元の部分には、おそらく、本体のチョウチンアンコウに繫がるデカい触手があるんですね。
(先程のパネルにマジックペンで描き込む)

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【画像】花壇と触手 ©2008 Studio Ghibli・NDHDMT

 こういうふうに。おそらく、見えないところに、触手があるんですよ。
 リサは、その触手を踏まないようにするために、わざわざ花壇を避けて歩かなきゃいけなかったわけですね。
 宮崎駿は、この映画を気持ちよく見ている観客には、こういうことがわからないように描いているんです。触手を隠すためにわざわざ花壇をレイアウトしているわけですから。
 この『ポニョ』という作品は、普通に見ている限り、「実は、宗介という少年は、薄気味悪い相手と変な契約をしている」という部分が僕らには見えないようになってるんです。
 じゃあ、なんでそんな「グランマンマーレと同じく半魚人のポニョを、ずっと好きでいて、守る」という契約に、宗介は同意したのか?
 これについて、宮崎駿は「宗介は子供だからだ」と言ってます。「大人にはそんな約束は出来ない。約束したとしても、守れない。それは大人だからだ」と。
 よく「子供が大きくなったらどうなるんですか?」って言うんですけど、宮崎駿に言わせれば、そんなもん、答えは1つしかないんです。「子供が大きくなったらつまらない大人になるんだ」と。「子供というのは、みんな、みんな、つまらない大人になる。くだらない大人になる。だから、子供っていうのは素晴らしいんだ」と。これが宮崎駿流のロジックなんです。
 でも、宗介は、まだ子供なんです。そして、くだらない大人になる前の子供だからこそ、「一生かけてポニョをずっと好きでいて、一生ポニョを守る」なんて約束が出来る。
 子供だから、そんな無茶な約束をするし、子供だから、その約束を守ろうとしてしまう。「だから、宗介の一生は、これから苦労の連続ですよ」と、宮崎駿は言うんです。
(DVDを見せる)

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【画像】宮﨑駿の仕事DVD

 ……あの、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』というドキュメンタリーがあるんですけど。この宮崎駿の特集の中で、本当に「いやあ、彼の一生はこれから大変ですよ。アハハ!」って大爆笑しているんですよね(笑)。

・・・

 じゃあ、なんで「幼い宗介が大変な契約をしてしまう」という結末のこの映画を、宮崎駿は「ハッピーエンドだ」と言うのか?
 あのね、ここからがちょっと面白いところ……というか、僕、ちょっと怖いんですけど。
 宮崎駿にとっては、別に、触手が付いていて得体のしれないグランマンマーレだけが怖いわけじゃないんですよ。全ての女は、宮崎駿にとっては、グランマンマーレと同じなんです。
 「全ての女はグランマンマーレと同じように怖く、得体がしれなく、でも、強くて美しくて、男は敵わない。だから、一度好きになってしまったら、一生死ぬまで振り回される。それが女である」というのが、宮崎駿がこの映画の中で語っている「女とは何か?」という考え方なんですよ。
 例えば、宗介のお母さんのリサとグランマンマーレが話しているシーン。この内容は、一切、観客には知らされないんですよ。すごく遠くで話している描写があるだけでセリフも何も聞こえない。あまりにも不自然なんですよね、このシーン。
 ここまで教える気がないんだったら、いっそ話し合っているシーンごとカットしちゃえばいいんですよ。ところが、このシーンって、コンテの時点から、かなり長い秒数を指定されているんです。
 つまり、「ここで何を話しているんだろう?」と、観客に想像して欲しいということなんですよ。わからないように作っているんですけど、想像して欲しいんですね。
 物語のラスト、宗介達の街は大津波で水没するんです。水没するんですけども、なぜか平和なままなんですね。みんな生きてて、平和なままで、ついに宗介のお父さんであり、リサの夫でもある長嶋一茂が乗る小金井丸まで無事に港に戻って来るんですよね。
 もちろん、小金井丸が戻って来れたのは、マンマーレのおかげです。ということは、観客にすら聞かせられないリサとマンマーレの会話は何だったのかというと、おそらく「あなたの夫は生きて返してあげるから、その代わり、あなたの息子を差し出しなさい」というやり取りをやっていたということなんですよ。
 なぜかと言うと、このリサという女の人は、息子である宗介の晩御飯よりも、夫との喧嘩の方を優先させる人なんですよ。
 子供を乗せているのに、無茶で乱暴な運転をするのが好きな人であって、自分の子供には「ママ」ではなく、「リサ」という名前で呼ばせるような人なんです。
 このリサというお母さんは、宮崎アニメの中では、かなり不自然なほどに母親的な部分が少ない。母性は少なめ、女は多めみたいな「母親ではなく、どちらかというと女だ」というふうに描かれるキャラクターなんですね。
 そんなリサにとって、誰にも知られないところで持ちかけられた「あなたの夫を返してあげるから、息子を私にちょうだい。でも、安心して。あなたの息子をあなたから取り上げるわけではないの。そうじゃなくて、私の娘があなたの家でずっと暮らすというのでいいから」という、マンマーレからの提案は、案外、良い提案だったんじゃないかと思います。
 流石にこんな話は観客には聞かせられない。
 でも、「リサとマンマーレが何か内緒話をしている」という雰囲気だけは伝えたい。
 そして「女が内緒話をしている時というのは、必ず男にとっての不幸が起きる」という、この世の真実だけは伝えたい。
 だから、こんな不自然なシーンになっているわけですね(笑)。

・・・

 別に、グランマンマーレだけが、強くて怖くて美しいのではなくて、リサもポニョも、女は全て強くて怖くて美しい。これが、『崖の上のポニョ』のテーマなんですよ。
 女は全て、強くて怖くて美しい。だから、俺は、女に対して頭が上がらずに、でも、ゾッコンで、すごく好き。だから、身体を壊すほど働いて、そして、いつかは使い物にならなくなって、捨てられるか、吸収されるかして行くんだろう、と。
 そういう運命を知っているからこそ、フジモトの目の下には、いつもクマがある。大人の男の目の下には必ずクマがあるわけです。
 「運命を知ってるフジモトにはクマがあるんですけど、そんな運命をまだ知らないから、宗介は健気で元気だ」という話なんですね。
 こういうところまで話してから、「はい!」という感じで、このアニメはポンと終わっちゃうわけですよ。
 もう、宗介とポニョがキスしたら、ポンっと終わっちゃって。そこからは「めでたし、めでたし」で、世にも楽しげな歌が掛かるわけですね。
 「楽しいエンディングテーマ、『ポニョ』の歌をみんなで歌おう!」って。「ポーニョ、ポニョポニョ、魚の子、青い海から、やってきた~♪」というふうに終わっちゃうわけです。

 ……はい、無料はここまでです(笑)。
 『崖の上のポニョ』の解説の第1部でした。


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