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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『Dr. STONE』(ドクターストーン)は「漫画表現」がすごい!」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『Dr. STONE』(ドクターストーン)は「漫画表現」がすごい!」

2019-10-02 07:00

    岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/10/02

     今日は、2019/09/15配信の岡田斗司夫ゼミ「『Dr.STONE』の元ネタ『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』徹底解説!」からハイライトをお届けします。


     さて、じゃあ『Dr.STONE』(原作:稲垣理一郎 作画:Boichi 集英社)いきましょうか。

    nico_190915_01823.jpg
    【画像】『Dr.STONE』表紙

     「ある日、この世界に自分しか生き残らなかったら、どうなるか?」「ある日、目が覚めたら自分以外の人間が消えてたら?」こういう妄想は誰もがしたことがあると思うんだけど。
     果たして本当かなと思ったので、アンケートをお願いします。

    「ある日、自分以外の人間が消えている妄想をした経験ある/経験ない」
     ちょっと答えてみてください。僕ね、「全員ある」と思ってたんですけど、この間「いや、ない」って言われて。

    「ない」(コメント)

     ない人、結構いるんだ。
     はい、結果を出してください。……わー! 半分が「ない」。
     「経験ある」が50%くらい、「経験ない」が40%だから、4割くらいの人が考えたことがないんだ。すごいなあ。いやショックです。
     少年ジャンプで連載中の『Dr.STONE』というのは、そういう妄想を、そのまま抜群に面白いマンガにしたような作品です。
     「3700年後の世界で、科学文明の世界を一から作る」という内容で、まあ、生き残りの人類の文明レベルが石器時代まで落ちている。狩猟民族になっているという話であります。

     マンガとしてはメチャクチャ面白いです。とにかく、キャラクターとセリフが良いんですよ。
     そして、「キャラクターとセリフが良い」ということは「絵と中身が釣り合っている」ということなんですね。
     「セリフが良い」というのは「そのセリフを言わせるためのシチュエーションが、マンガとしてハマっている」と。ここら辺は、あとでもうちょっと説明しますけど。
     世の中には「絵の上手いマンガ家」と「マンガが上手いマンガ家」がいるんですよ。これ、いしかわじゅんの言葉なんですけど。「絵の上手いマンガ家というのは、止め絵で見て上手いマンガ家なんだけど、マンガの上手いマンガ家というのは、絵ではなくマンガが面白いマンガ家だ」と。そういう意味だったと思います。
     この『Dr.STONE』も原作が付いてるんですけど、原作付きのマンガを描くのは、普通、絵の上手いマンガ家なんですよ。「絵の上手いマンガ家が原作を貰って描く」というのは良いことで、例えば『デスノート』では、マンガを描くのは上手いんだけど絵があまり上手くない原作者と、絵がすごく上手いんだけどマンガがあまり上手くない絵描きというのが上手く組み合った、奇跡のようなマンガだと思うんですけども。
     しかし、稀に、マンガが上手いマンガ家が、すごく面白い原作を得た場合、とんでもなく面白くなるんですね。たぶん、『巨人の星』とか『あしたのジョー』っていう昔の少年マガジンの梶原一騎原作のスポーツモノというのは、そういうのに当たってたんじゃないかと思いますけども。

     例えば、これは『Dr.STONE』の2巻のあるページです。
    (パネルを見せる)

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    【画像】コハクと千空 ©稲垣理一郎 ©Boichi

     僕、すごく好きなシーンなんですけど。木の間に挟まれたコハクという名の女の子を、主人公の千空が助けるというシーンです。
     滑車が3つあって、そこにつり下がろうとしています。動滑車を3つ繋げることで、だいたい50キロくらいの千空でも、400キロの重さを持ち上げることが出来るというシーンですね。
     この「今、何をやっているのか?」という状況を、俯瞰、上からあおりの見開き1コマで見せる、この度胸と構図の上手さ。そして、左の小さいコマで「もともとはアルキメデスの考えたものだ~」ということと、あとは、動滑車を3つ使った小学校か中学校の教科書のような図。で、あとは「今からこれを思いっきり引っ張るんだ!」という行動で止めるコマ。この3つの並び方が見事です。
     この、全体説明のための大コマと、あとは、ディティールとしてとにかく面白い情報を入れるための2コマ、そして、最後の見開きの左端のコマというのは、次のページを捲らせるためのコマですから、あくまで行動と声、セリフで出来ているんですね。
     この辺の作り方、第2巻のラストでこれくらいの完成度というのは、本当にすごいと思います。

     これに続くページがこれです。
    (パネルを見せる)

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    【画像】コハクと千空2 ©稲垣理一郎 ©Boichi

     この、状況とセリフが交互に並んでいるところを注目してください。アクションとセリフが交互に並んでいるんですね。
     女の子が「素晴らしい。アルキなんとかの知恵じゃない」って言ってから、「君のその一歩一歩問題解決へと楔を打ち続ける揺らがぬ信念がだよ。私の名はコハク。どうやら私は君のことがめっぽう好きになってしまったようだ」と。
     この「めっぽう好きになってしまったようだ」と言った時には、コハクと千空の目線は合っているはずなんですけど、あえて、それを見せていないんですね。
     助けられた女の子が横になったまま、こういう話をする。それに対して、受け手のキャラクターである千空は、青ざめた顔をしているんですね。これ、通常のマンガだったら、「鈍感で意味がわらかない」とか、または「顔が赤らんでポッとなってしまう」とかするんですけど、逆なんですよ。
     これは「好き」と言われていることに対して「面倒くせえな」と思う、千空のキャラクターをわからせるための顔でもあるんですね。だから、かわいい女の子が愛の告白っぽいことを言ったのに、それに対して主人公の男の子は、あろうことか「嫌な予感がする」みたいな顔をしている。
     このキャラの持って行き方と、アクション、セリフ、アクション、セリフという流れの作り方。この、さっきのカッコいい大コマ使いからの連続が、マンガの上手さというやつですね。

    ・・・

     科学文明を創り出す過程もすごい素晴らしいです。ちゃんとゼロから説明しています。
     例えば、これは「自分が石になってから3700年後の世界に素っ裸で復活しちゃったので、周りの猿から笑われてる」というシーンです。
    (パネルを見せる)

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    【画像】石器作り ©稲垣理一郎 ©Boichi

     獲物も獲れない、木にも登れない、みじめな猿で、火も起こせないんですよ。しょうがないから石を砕いて石器を作っているんですね。
     これは打製石器という石器です、「このカラフルなチャートって石がクッソ硬え!」って書いてあるんですけど。
     チャートというのは東海地方の遺跡からよく発見される石器に使われる堆積岩のことなんですけど。これを熱するとガラスの原材料にもなるという、それくらい、普通の石とは違う、ちょっと硬くて脆い性格をもっているんです。
     ちなみに、『もののけ姫』で、アシタカが村を出る時に、カヤという娘から黒曜石のナイフを受け取るんですけど、あの黒曜石というのは、東北地方とか、北海道とか、いわゆる日本の北の方で使われていた石器なんですね。
     ここでチャートを選んだということで、千空の判断の良さというのを示していると思います。

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    【画像】ルヴァロワ技法

     千空がここでやっている、削り取るように石器を作るやり方は、ルヴァロワ技法と呼ばれる、フランスで発見された技法なんですね。
     「発見」というのはどういうことかというと、「旧石器時代には、こういうふうにして石器を使っていたに違いない」と調査されたという意味なんですけど。北アフリカで発見された今からだいたい31万年くらい前の遺跡から、この作り方が発見されました。
     実は、このルヴァロワ技法というのは、わりと最近の発見なんですよ。そんな最近の発見を、少年ジャンプのマンガにガーンと入れてくるあたり「ああ、勉強しているな」って思うんですよね。

     ここに「石器を手に入れた!」って書いてあり、完成した石器が描かれているんですけど。ここでは「完成した石器を木の枝に通しているだけ」なんですね。つまり、まだまだ固定法が緩いんですよ。
     一応、木の枝に通すことで、石器を使う時のリーチを伸ばして破壊力を上げているんですけど。木の枝の、たまたま入る穴に、石を無理矢理グリグリ入れただけだから、仮のものにしかなっていないんですね。

     次に千空が作るのがヒモです。
    (パネルを見せる)

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    【画像】ヒモ作り ©稲垣理一郎 ©Boichi

     今作った石器で、草を刈って、その草をほぐしてほぐして、なんとかヒモにして、そのヒモを使って火を作ろうとしているわけですね。
     この草も、実は適当に描いたものではないんですよ。ちゃんと葉っぱの形から品種が特定できます。
    (パネルを見せる)

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    【画像】カラムシ

     この草はカラムシという草で、本当に日本中のどこででも見つけられる雑草なんですけど。繊維が強くて、魚を獲る網にも使えるし、服もこれで織れるし、紙も作れるという、ほとんど万能素材なんですね。千空が最初に使う素材にこのカラムシを選んだというのは、抜群に良いアイデアです。
     実は日本書紀でも、持統天皇が「民衆はカラムシを栽培すべし」という詔を発令したというくらい、日本では千年近く前から組織的に増やそう増やそうとしていた。そのおかげで、今、日本国中にカラムシという雑草が生えているんですけど。これがあれば、僕らも、文明が滅びた後でも、一応、繊維を手に入れることが出来るんですね。持統天皇以来の、延々とした歴史のおかげで。
     ヒモを作った理由は、さっきも言ったように火を起こすためなんですけど。火は、やっぱりマンガだから、見開きでドーンと出るんです。この見開きの横のセリフが、やっぱカッコいいんですね。
    (パネルを見せる)

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    【画像】火を起こす ©稲垣理一郎 ©Boichi

     「道具を使う生き物は意外に多い。だが、科学を使う生き物はこの世に一種類しかいない!」と。言い切るところがカッコいいいわけですね。もう、すっごいゾクゾクすると。
     千空が火をおこすと、あっという間に、周りで見守っていた猿が驚きます。千空はツルピカ猿と呼ばれる、猿よりも弱い生き物としてこの世の中に生まれてきたのに、科学の力で、まず石器を手に入れて、ヒモを作って、それを使って火を作ることによって、猿たちを追い抜いて行く。そんな様子が、わずか6ページくらいで次々と語られるんですね。
     いやあ、もう、超カッコいい!

     では、続きは次のコーナーで話しましょう。
     ……これ、今、なんで「次のコーナー」って言ってるかというと、ここがYouTubeの編集点になるからですね(笑)。

    「斗司夫楽しそう」(コメント)

     そうなんですよ。もうね、「なんでこのマンガは面白いんだろう?」ということを説明しようとしたら、やっぱり、フリップ出して話すしかないんですけど、これが、俺、もう、本当に楽しくって。
     もう、こういう芸が出来て、本当に嬉しいと思っているんですけど。


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