岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/10/16

 今日は、2019/09/29配信の岡田斗司夫ゼミ「【番組終了記念】『なつぞら』総決算+マンガ版『攻殻機動隊』解説 第3弾」からハイライトをお届けします。


アニメ作品の納品スケジュールと「線撮り」

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【画像】スタジオから

 「1週間前に来なかった」という場合、プロデューサーは代理の番組を探し始めます。しかし、そんな中、前の日であっても、納品されてしまったら、テレビ局の人間としては差し替えるしかないんですよ。
 でも、差し替えると言っても、マスターテープは作っちゃってるじゃないですか。そして、3時間のマスターテープをもう一度、頭から作り直すとなると、コンピューターにデータが入っているわけじゃないから、1日以上かかるわけですね。
 すると、どうなるのか? この差し替えを、電子的ではなく、物理的に、1インチのビデオテープをカットして、繋げることをするんです。
 各放送局には必ず1人はいたというビデオテープを切る名人が、VTRテープを斜めにカットするんです。というのも、1インチのVTRの信号というのは、VHSなどの家庭用のビデオも同じなんですけど、斜めに連続して信号が入ってるからですね。髭剃り用のT字カミソリで、シャッと斜めに切るんですよ。
 で、この斜めに切る時の角度とか位置が違ったら、放送信号が荒れるわけですね。
 そうやって、代理の番組の部分を取り除いて、次に納品された『大草原の少女ソラ』の完パケの端っこをシャッと斜めに切って、繋げる。
 フィルムと言っても中身は見えないんですよ。黒に近い灰色のビデオテープだから、何も見えないんでけど。「だいたい合ってるな?」と思った箇所をスパッと切って繋げて、青い色をした磁気粉末塗料というので止めるわけですね。
 「人によってはセロハンテープみたいなのを使った」という話もあるんですけど、もう、この時代のテレビ局のことって、ほとんど伝説になっているので、僕も又聞きなんですけど。
 そうやって、青い塗料を塗って、ビデオテープ同士を接着するのと同時に、磁気信号を均したそうです。
 この時に、カミソリを入れる角度とかが間違っていたり、あとは磁気塗料の厚みにムラがあると、なんと、その箇所で、放送を受信している日本中の全てのテレビに「ブーン!」という一瞬のノイズが入ることになるんですね。
 このノイズが酷ければ、テレビによっては、5分とか10分は元に戻らないんですよ。
 昔のテレビは「ブン!」とノイズが入ることが時々あったんですけど。それって、だいたいカミソリを入れたからなんですよね。
 カミソリを入れる箇所や磁気塗料の厚みがちょっと違うだけなら、一瞬のノイズで済むんですけど。これが下手クソだと、5分とか10分くらい砂嵐みたいになって見えなくなってしまうんですね。下手したら、そのテレビの形式が古かったりすれば、30分とか1時間くらい調子が戻らないことすらあったんです。
 そうなったら、テレビ局には苦情の電話が殺到して、電話回線はパンクします。担当プロデューサーも、もう始末書ではすみません。
 そういう時によくあったのが……テレビ局って、土地を持ってるところが多いので、系列会社で不動産をやってる場合が多いんですよ。そういう分譲マンションとか建売住宅とか賃貸の不動産屋とかに出向という名目で島流しに合うんですね。出向じゃないんですよ。一生出向ですから。
 だから、彼はマコさんに怒鳴っているわけです。「お前、ふざけんなよ! 1週間前に納品の約束だったはずだろ!」って。
 これ、1週間前納品というだけでも、彼はかなり妥協しているんですよ。僕が『ふしぎの海のナディア』の時にNHKに言われたのは、3週間前納品ですからね。
 まあ「3週間前納品を絶対に守ってくれ」と言われた瞬間に、僕は「いや、1週間までは大丈夫なはずだ。放送マスターを作るのは3日くらい前だよな」と読んでたんですけど(笑)。
 でも、前日は流石にメチャクチャだよ、そんなの。
 というわけで、今、放送局で働いている人でも、なかなか知らない人も多いんですけど、前日納品が怖かったのは、こういう理由があるからなんですね。
 前日だろうが、納品されちゃったとしたら、それを放送しなかった場合、責任問題になってしまうので、生テープをカットして間に挟むしかない。でも、それをすると、日本中のテレビ受信機にノイズが入って、ヘタしたら苦情が殺到する。そういう恐怖があるわけです。
 マコさんは、この話をイッキュウさんに聞かせないように、他の制作の人に「演出には言うな。私達でなんとかする。私達で締め切りを守れ」と言うんですけど。
 でも、イッキュウさんみたいなタイプの人には、絶対に「局のプロデューサーから苦情が来てます!」って言った方が良いんですよ。
 なぜかと言うと、「あらゆるクリエイターというのは、締切をギリギリまで読むものだから」です。
 このイッキュウさんのモデルになった高畑勲自身も『アルプスの少女ハイジ』のコンテを全然描かなくて。それどころか、担当プロデューサーに「いい加減にしろ!」って怒られた時に「なんでテレビアニメを毎週毎週放送しなければいけないんですか!?」っていう、ムチャクチャな逆ギレをして、大喧嘩になった事があったんです。
 それを、間に入って止めた宮崎駿が「じゃあ、俺がコンテ切ります!」と言って、腕を組んだ高畑勲が口で言う内容を、そのままコンテにして描いたことがあって、その時に「この人は本当に締め切りを守れない人だ」と、宮崎駿は思ったそうなんですけども(笑)。
 まあ、そういうことなんですよ。だから、早目早目に、演出家なり現場のクリエイターには「これくらい遅れていて、これくらいヤバい」と言った方が良いんですね。

・・・

 さらに、制作進行の男の子のミスで、作画用紙を落として濡らしちゃったりして、制作は遅れて行きました。
 その結果、ついに……俺も、まさかNHKの番組でこれが見れるとは思わなかったんですけど。「線撮り」というのが行われます。
(パネルを見せる)

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【画像】線撮り ©NHK

 声優さんのアフレコの時に、絵が用意できなくて「はい、青い線が出たらレイさん役の方、喋ってください。赤い線が出たらソラちゃん喋ってください」という、線撮りという光景ですね。
 最近のアニメ好きな人なら、ある程度は知ってると思うんですけど。線撮りというのは、絵が間に合わない時に「声優さんにこの色の線が出たら、セリフを喋ってください」と言って行う収録なんですね。
 この場合、出演者が2人だから、まあ、まだ救いがあるんですけど。場合によっては、3人4人出てきて、いろんな色の線が乱れ飛ぶこともあります。

 この線は、通称デルマ、正しくはダーマトグラフという、三菱鉛筆が開発したグリスペンシルという油性の色鉛筆で描いてあります。
 このデルマって、芯が柔らかくて油性だから、ガラスとか陶器にも描けるし、人間の皮膚にも描けるんですね。だから、手術する時の「ここをカットするよ」という指示みたいなことにも使うんですけどもですね。
 これは、実際に絵コンテを16ミリで撮影して、その上にデルマで、セリフの入るタイミング合わせてシャーッと線を引いているんですけど。まあ、レイは青い線、ソラは赤い線ですね。

 この線撮りにも段階がありまして、1番から6番まであります。
(パネルを見せる)

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【画像】線撮り段階

 第1段階の「タイミング撮り」というのは、セルを撮影しています。
 「セルは間に合ったんだけど、背景だけ間に合わない」とか、もしくは「色パカがあったので、後で直します」とか、リテイクするんだけどセルは間に合っているという段階のことを、タイミング撮りと言うんです。
 口パクのタイミングとかが全部わかるから、タイミング撮りと言うんですけどね。
 このセルが間に合わなかったら、第2段階の「動撮」、「動画を撮影する」というバージョンになります。
 この動撮になってくると、そろそろ声優さんの嫌味が始まる頃ですね。「ああ、今回も動撮ですか」って言われます。タイミング撮りくらいまでは、あんまり言われないんですけど。
 それも間に合わなかったら、第3段階の原画撮影、「原撮」ですね。
 原画撮影とかになると、口は動かないし、動きもわからないから、もう演技のつけようがないんです。正直言って。
 この原画撮影も間に合わない場合は、第4段階「レイアウト撮影」というのがあります。
 原画に入る前に、原画の人と背景の人が会って打ち合わせして「画面レイアウトはこんな感じで行きます」って決めるんですけど、この時のレイアウトをそのまま撮影しちゃうのがこれです。
 そのレイアウトも間に合っていない時、世の中には「コンテ撮り」という恐ろしいものがあります。
 このコンテ撮りは、絵コンテを撮影するんです。
 しかし、この絵コンテすらも、いよいよ間に合わない場合というのが世の中にはあって。まあ、『超時空要塞マクロス』でもあったはずだし、手塚治虫さんの24時間アニメでもあったはずなんですけど。最終段階として、純粋な「線撮り」というのがあります。
 これは「素材なし」ですね。つまり、何も映っていない16ミリフィルムに、演出助手が「えいやっ!」と引いたデルマの線だけを頼りに、とりあえず声優さんにアテレコしてもらって「声と作画した絵とあうかどうかは、それはもう、後のお楽しみ」という方法で合わせる方法があるんですけど。
 今回の『なつぞら』では、見ていただいたらわかる通り、コンテ撮りなんですよ。
 恐ろしいことに、絵コンテをそのまま撮っている。つまり、第5段階まで行っちゃってるわけですね。
 これね、おっかないですよ? もう、声優さんによっては、怒って帰っちゃうんですよね(笑)。
 まあ、声優さんやスタジオを、予め何ヶ月か前から押さえなければいけないから、こういう事態になるんですけど。
 『ルパン三世』のルパン役をやってた山田康雄さんは、すごい真面目な人で、ルパンのアフレコで、もう本当に、1カットだけ絵が動いてなかった、つまり動撮か原撮だったという時に、スタジオから出て行ったことがあるというエピソードがあるくらいですから。
 まあ、正直言って、原撮あたりからは、もう演技のつけようがないので、本当にラジオドラマになっちゃうんですね。
 しかし、1980年代、この『そら』が放映される5年後辺りから、アニメブームが本格化して、テレビアニメが毎週40本とか50本というありえないスケジュールで作られるようになり、もう原撮や動撮も当たり前になりました。

・・・

 注意したいのは、アニメーションというのは手作業だから、全ての作業にギャラの支払いが発生するんですよ。
 アニメーションの撮影というのは、セルを1枚ずつ、1秒間を24コマに分けて1コマずつ撮るんですけど。それがアフレコに間に合わなかった場合、どんどんこういう線撮りになるわけです。
 この線撮りのためのフィルムにも、だいたい、セル撮影とほぼ同じギャラが発生するんですよ。

 このコンテ撮りって何かというと、例えば、普通にアニメーションを撮る場合、3秒のシーンだったら、1秒間12コマだから、36回素材を変えて、パシャッパシャパシャと1枚ずつ撮っていくんですけど。
 これがコンテ撮りの場合は、コンテの1コマを大写しにして、そこで3秒間分、パシャパシャと連続で撮るわけですね。
 もう、本番では全く使わない無駄なものを、延々と30分番組分撮影して、演出家がそのフィルムの上から線を引くから、結局、同じお金を撮影さんに払わなきゃいけないんですよ。
 つまり「スケジュールが遅れる」ということは、単に「時間が遅れる」というだけでなく、「同じ支払いを2回しなきゃいけなくなる」という意味でもあるんです。撮影費が2重払いになっちゃうので、結構シンドいんですよ。
 先週も話した目玉焼きのシーンや今回の「良いものを作るためにアニメーターが頑張る」というのは、感動的に聞こえるんですけど、毎週オンエアするアニメでクリエイターのワガママを許しちゃったら、仕上げとか撮影に、ひたすら負担が行く。後ろへ行けば行くほど、このしわ寄せが激しくなるんですね。
 作画スタジオというのは、『なつぞら』を見て分かる通り、所詮は鉛筆と紙しかない清潔な環境なんですよ。
 ところが、これが仕上げ部門、つまり、仕上げの外注のおばちゃんのところへ行くと、そこら中、絵の具だらけで、しょっちゅう洗わなきゃいけなくて、未乾燥の塗料があって、湿って不潔な環境になるんです。
 さらに、それが撮影に行くと、撮影所というのはだいたい地下にあって、そこから外に出られずに、太陽の光を全く浴びないまま、暗い所で人間がずっと手袋をしっぱなしで作業をする、と。
 だいたい、アニメーターが頑張って一晩徹夜した結果というのは、仕上げは2晩徹夜することになるし、撮影は3日間徹夜することになるんですね。後ろに行くほど被害が酷くなってくるんですよ。
 だから、今回の線撮りのシーンというのを見ちゃうと、僕は笑うと同時に溜息が出るんですよね。「うわっ、キツいな」と思って。

・・・

 このアフレコのシーンで僕が楽しかったのは、これは『大草原の少女ソラ』の最終回で使われた台本なんです。
(パネルを見せる)

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【画像】『ソラ』台本 ©NHK

 「第39話 最終回:優しいあの子」って書いてあって。オープニングの曲名と同じタイトルに持ってきた、と。なんか、最後までちょっと余裕を持って遊んでいるところが、ちょっと楽しかったんですね。
 第1話の時は、こんな台本だったんですよ。
(パネルを見せる)

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【画像】『ソラ』初回台本 ©NHK

 「第1回:新しい家族」っていうやつなんですけど。
 でも、この台本、『大草原の少女ソラ』とは書いてあるものの、放送局も何も書いてないんですよ。最終回の台本には「UTV」ってちゃんと書いてあるんですけど、こっちは放送局も書いてない。
 だから、たぶん、この第1話の台本をスタッフが作った頃は「放送台本の表紙には何が書いてあるのか?」っていう取材をしてなかったんですね。で、それを先輩に見られて「バカ野郎! テレビの台本に放送局名が書いてないなんてことがあるはずないだろう!」と。
 本当は代理店名も書かなきゃいけないんだけど、「まあ、そこはいいや」と思って、こうなったんだと思います。

 それと同時に、ついに『大草原の少女ソラ』のポスターも発表されたんですけど。
(パネルを見せる)

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【画像】『ソラ』ポスター ©NHK

 「制作:マコプロダクション」ってわざわざ書いてあるんですよね。他にも、一応、放送が「UTV系列にて毎週日曜日7時30分」って書いてあるんですけども。「いやいや、普通、スポンサーを書くよね?」と(笑)。
 スポンサーと代理店をここにびっちり書くはずなんだけど、ここらへんがこうNHKっぽい嘘だなと思いました。
 まあ、このポスターの絵は、僕は結構、好きなんですけども。

・・・

 ちょっと一旦、コーヒーを飲みますね。
 ここまで『なつぞら』を見てない人でも全然楽しめる……アハハ、「楽しめる」というのは当たり前ですね。『なつぞら』とは関係ない話ばっかりですから(笑)。
 いや、こういうところばかり気になっちゃうんですよ、本当に。すごい取材して、遊んで作ってくれているのに「台本に局の名前が入ってない」とか、あと「ポスターにスポンサーの名前が入ってない」って、ありえないだろうと。
 あと「日本全国で日曜日の7時半に放送されるはずないだろ!」と。あの当時、1つの番組を日本国中同じ時間でオンエアするなんて、NHKだけなんですよ。絶対に民法は、例えば佐賀テレビは土曜日の7時半からとか、大阪だったら読売テレビで月曜の夜8時とか、絶対にそういうふうになるんですよ。だから、系列局の名前をズラリと書いてあって、それぞれ何時に放送されるのかを書くのが、もうお約束なんですけど。
 NHKの人は、そういう民放のお約束というのを知らないから、ついつい「日曜の夜7時半より」って書いてしまうんですよ。
 そこらへんも「なんか、NHKって、世間知らずでかわいい」とか思ったりするんですけどね。


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