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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「万能調味料と南北戦争がハンバーガーを作った」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「万能調味料と南北戦争がハンバーガーを作った」

2019-10-25 07:00

    岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/10/25

     今日は、2019/10/06配信の岡田斗司夫ゼミ「味を超越した“文化としてのハンバーガー論”」からハイライトをお届けします。


     このアメリカ料理ってのは面白くて、これに限らず、基本的に「その後に来たドイツ人」「その後に来たポーランド人」「その後に来たイタリア人」というふうに、新しく来たいわゆるイギリス人が差別するような人達から、次々に料理法を教えてもらって、取り入れるんですね。
     もともとあったイギリス料理というのは、もう、影も形もなくなって来て、全部、後から来た奴隷とか、もしくは貧しい移民たちの料理というのが混ざっていった結果、アメリカ料理というのが出来ていく。そこら辺が特殊なところだと思います。

     さっきも言ったように、ヨーロッパから来るのは、投機目的の商売人に雇われた農夫か、または、カソリックの締め付けが厳しくて逃げてきたピューリタン(清教徒)か、そんな人らしかいないんですよ。
     つまり、とにかく、圧倒的な料理人不足でもあったんですね。
     これも特殊なところで。人がこんなに来ているのに、ヨーロッパ人が食べる小麦がなく、採れる魚も、採れる肉も、バッファローの肉みたいな、それまで見たことのない食材ばっかり。そんな中で、料理人が圧倒的に少ないという状態が、まず、アメリカの建国から100年くらい続くわけです。
     この100年くらい続いている状態で、さっきも言ったように、奴隷歴が長い黒人や、現地での料理に慣れている人に、トウモロコシとかバッファローの料理をやらせて、徐々に徐々に「黒人が料理を作る」という文化が出来ていく。
     つまり、西洋と違って、奴隷から上がって来て、家の中に入って来た「ハウス奴隷」とでもいう人達が、調理を担当するようになってきたわけですね。
     このような「ヨーロッパから来た本職の料理人がいない」、あと「未知の食材ばっかり」という条件によって、インディアンや黒人の料理を、なぜか白人までもが食べるようになってしまうという、アメリカ料理のベースが出来上がりました。

    ・・・

     しかし、そんな中、唯一定着しなかったのが、最初期の移民であるイギリス人のイギリス料理なんですよね。
     それはなぜかというと、アメリカへの入植が始まってから、50年か100年くらい経った時に独立戦争が始まって、これによってアメリカ全土に「愛国ブーム」というのが起こったんですね。
     まあ「愛国ブーム」と言うか、ハッキリ言って「アンチ・イギリスブーム」なんですよ。「とにかく、イギリス製のものは食べない、飲まないことが愛国的だ!」という国民運動が、独立戦争の時にザッと広がった。
     そのおかげで、みんなウィスキーを飲まなくなったんです。「ウィスキーでない! 俺達はアメリカ人だ! アメリカ的な飲み物はないのか!?」という時に「トウモロコシから酒が作れるぞ?」って、またインディアンが教えてくれたんです。その結果、バーボンを作ったわけですね。
     なので、『キングスマン』に出てくる、アメリカ版の諜報員、ステーツマンの本拠地がバーボンの工場なのは「バーボンこそがアメリカの酒だ!」と言われているからで、それは、元を辿ればアンチ・イギリスなんですよ。
     とりあえず、「俺たちはウィスキーなんて1滴も飲まない!」って言ってたんだけど、ワインは作れないので「なんとか俺たちでも作れる酒はないか?」ということで、バーボンなんです。
     あと、紅茶についても、入植初期のアメリカ人は結構飲んでたんですけど、独立戦争の辺りから、これまたやっぱりアメリカ人は意地でも紅茶を飲まなくなって、その結果、まだ未知の飲み物だったコーヒーというのをやたら飲むようになったんです。
     「西洋文化の中で最も紅茶を飲まない国・アメリカ」というのが成立したのは、独立戦争で「イギリス憎し! メイド・イン・アメリカ万歳!」という運動が10数年続いたからなんです。
     その結果、「バーボンとコーヒーの国・アメリカ」というのが出来上がったわけです。

    ・・・

     まあ、しかし、ついにそんなアメリカにも、本当のアメリカ料理が誕生する時が訪れます。
     それが、19世紀末。この当時、ある万能調味料が現れました。

     中国とか日本との貿易を始めたヨーロッパ人は、ビックリしたんですよね。「東洋には万能調味料がある!」と。
     例えば、彼らは塩コショウにしても何にしても、ソース類にしてもそうなんですけど、台所で使う調味料と食卓で使う調味料は別だったんですよね。
     ところが、東洋には醤油というのものがある。醤油というのは何かというと、台所で使うことも出来れば、食卓に置いてそのままかけることも出来るという、そういう万能の調味料なんです。
     「そんな万能の調味料が我々西洋の料理にも欲しい!」と。
     まあ、ヨーロッパの方では、食材とかが豊富だから、そこまで切迫してなかったんですけど。
     しかし、アメリカでは、今言ったように、とりあえず、食材があまりにも変わっていたし、プロの料理人もほとんどいなかったので、万能調味料というのが必要とされたんです。
     その結果、ヨーロッパには全く存在しない野菜だったトマトというのを使ったケチャップなるものが誕生しました。

     ケチャップが発明された場所自体は、たぶんヨーロッパらしいと言われているんですけど。アメリカで急速に普及したんです。
     それはなぜかと言うと、「ドイツ系移民が増えたから」なんですね。
     ドイツ人の食事というのは、またヨーロッパの中でも特殊なポジションで。「食卓に必ず酸っぱいものがないとダメ」なんです。キャベツの酢漬けみたいな酸っぱいものが。
     ところが「アメリカで手に入るものでは、酸っぱいものがなかなか作れない!」と。そんな中、トマトをソースにしたケチャップというのを作ったら、「これはちゃんと酸っぱいし、まあ、ギリいける!」と。
     おまけに、煮込んでもよし、直接かけてもよしということで、ケチャップというのが、ドイツ系移民を中心に、アメリカ中に普及した。
     これにて「何にでもケチャップをかける」というアメリカ料理の基礎が出来上がるわけですね。

     他にも、ドイツ移民たちは「もっと酸っぱいものはないのか?」ということで、それまで台所ではちょっと使う程度だったマスタードというものまでテーブルに置くようになり、これをガンガン食べるものにのっけたりするようになりました。
     つまり、マスタード(辛子)という調味料が、台所から食卓へ上がってくるようになったんです。
     と同時にピクルスというものが開発されたんです。「キュウリを酢漬けしておいたら、ドイツ料理っぽくなるよ!」と。「だったら、とにかく何でもかんでもピクルスを入れちまえ!」と。「まあ、本当のドイツ料理じゃないけど、そうすれば、ドイツ料理に段々近づいてくる!」ということで、これが流行りだしたんです。
     その結果、マスタード、ケチャップ、ピクルスという、いわゆるハンバーガーの3種の神器がようやっと揃ったわけですね。

    ・・・

     そこにダメ押しで来たのが南北戦争です。
     ……すみません、ハンバーガーにまだまだ話がいかなくて。もう30分を超えてるのに(笑)。

     そこでダメ押しで来たのが南北戦争(シビル・ウォー)。南部の農業主義と、北部の工業主義。この2つが戦ったわけですね。
     このゼミではよく話してるんですけど、この南北戦争というのは、いわゆる奴隷解放戦争というよりは「奴隷ビジネスである巨大農業対奴隷と、それを排して、黒人を全て消費者にした上で工場で働ける人手として考える工業主義の戦い」だったわけなんですけど。
     結果、北部の工業主義が勝ち、南部の巨大農園というのは、次第に分割されて、アメリカは工業国への道を歩みはじめました。

     すると、何が変わるか?
     それまでは「巨大農地」と言っても、しょせん、みんなは農地の周りに住んでいたんですよ。つまり、それ以前のアメリカ人の大部分は、奴隷を含めて職場の近くに住んでいたんですね。農地を耕して生きていたから。
     ところが、工業化によって次々と生まれた工場というのは、街の近くにあったり、川の近くにあったりするもんだから、必ずしも、住んでいる家の近くにはないんですよ。
     それまでのアメリカの普通の人というのは、農地の近くに住んでいた。イコール、お昼になったら、一度、家に帰って、ご飯を食べて、また農地に行くわけですね。だって、近くに住んでいるんですから。
     ところが、工場で働くようになると、職場に行って帰ってきたら、やっぱり今と違って電車とかがないので、平気で1時間以上かかっちゃうわけですね。
     当時の工場の休み時間って、1時間弱、40分くらいと言われていたので、もう家に帰ってご飯食べることは出来ない。
     じゃあ、家から持って来たものを食べるのかと思っても、当時の食料というのは保存品質とかが悪いから、パンみたいなものかリンゴとかなら持って来れるんですけども、本格的なサンドイッチとかは、途中で痛んじゃって、なかなか持ってくることが出来ない。
     なので、「アメリカ中に屋台が溢れかえった」と言われています。

     工場の周りは屋台だらけ。街の道路という道路は屋台でいっぱいで、馬さえも通れないような状態だったんですね。
     こういう、アメリカの、街中、屋台がいっぱい並んでいる風景って、あんまり写真が残ってないので、見たことがない人が多いんですけど。当時の資料によると、とにかく工場で働く人はみんな屋台で昼飯を食べるしかないから、とんでもない数の屋台があったらしいんです。その中でご飯を食べていたと。
     そこで売れてたのは、サンドイッチとか、ソーセージとか、あとはベーグルとかなんですけど。ベーグルはユダヤ人が食べるんですけどね。
     ベーグルって、調理工程の中で1回茹でるんですよ。すると、茹でるイコール水の中をくぐらすことによって、ユダヤ人にとっては「戒律を守った食べ物」になる。なので、ベーグルというのはユダヤ人が支持する食べ物だと言われているんですけども。
     その中でも、一番売れたのが、当時、ようやっと牧畜が発達してきた結果、いっぱい増えた肉牛を使った、牛肉の塩漬けとか、牛肉をいっぱい使ったビーフサンドイッチでした。

    ・・・

     さて、ビーフサンドイッチというのを屋台で売るんですけども、困ったことに、その当時の貧しい人というのは、歯が揃ってないんですよ。
     これまた意外なんですけど、「当時の労働者の歯の数は平均4本」と言われてて……本当にね、あの国、面白すぎるんですけど(笑)。
     みんな、歯の数が4本か5本くらいしかないんですよ。なので、ビーフサンドイッチは栄養があるんですけども、食べられないわけですね。
     「どうにかして、このビーフサンドイッチみたいな栄養のあるサンドイッチを食べられるように出来ないか?」ということで、そこで、このフィラデルフィア万博で発表された挽き肉器がすごい注目されたんです。

     ここなんですよ。つまり、ちょうど南北戦争が終わって、アメリカ中が農業から工業に切り替わって、人々が外食するようになった。
     「農業から工業に変わる」ということは、どういうことかというと「みんなが通貨を使う」ということなんですね。
     農業やっている時は、なんだかんだ言っても、物々交換に近かったものが、お金を持って街で物を買うのが当たり前になる。屋台で物を買うのが当たり前になる。
     しかし、歯が4本しかない。これでは美味しいビーフサンドイッチが食べられない。
     「柔らかいビーフサンドイッチを作ってくれないか?」というニーズが高まって来たところで、ようやっとここでハンバーガーの話になって来るんです。

    「歯磨きしろよ」(コメント)

     今、コメントで流れましたが、まだ、当時のアメリカは「歯磨きの時代」には達していないので、無理を言わないでください(笑)。
     「挽き肉に玉ねぎを混ぜて焼けば安いし、歯が少なくても食べられる!」さらに「アメリカンチョッパーによって作られた、この挽き肉料理には、ケチャップ、マスタード、ピクルスがよく合った!」ということで、ついにハンバーガーの誕生となるわけです。

     すみません、無料放送はここまでです。
     皆さんが思っていたであろうマクドナルドの話なんか、とんでもない! 言っときますけど、今日、有料放送でも、マクドナルドの話まではいきません。
     むしろ、「マクドナルドに行くまでのハンバーガーの歴史を、俺は語りたい」というか。
     そもそも、なんでこんな語りたいんだろうね?
     それは、ハンバーガーが、やっぱり、自分にとって、特別の食べ物だからですね。
     まあ、この「どんなふうに特別なのか?」というのも、後でもう少し振り返ってみようと思いますけど。
     やっぱりね、「自分にとって、ラーメンは特別!」みたいなことって、よくあるじゃないですか。それと同じように、僕の中でハンバーガーというのは、ちょっと特別なので、もう少し語らせてください。


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