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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『千と千尋の神隠し』解説:油屋は、風俗産業のメタファーじゃない!」
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岡田斗司夫の毎日ブロマガ「『千と千尋の神隠し』解説:油屋は、風俗産業のメタファーじゃない!」

2019-11-25 07:00

    岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/11/25

     今日は、2019/11/10配信の岡田斗司夫ゼミ「『千と千尋の神隠し』を読み解く13の謎[後編]」からハイライトをお届けします。


      じゃあ行きましょう。油屋とジブリの謎です。
    (パネルを見せる)

    nico_191110_00625.jpg
    【画像】油屋イメージボード

     これ、イメージボードに描いてある油屋ですね。主人公の千尋が、送り込まれるというか働くことになる油屋のイメージボードです。
     壮大な和風建築みたいに見えます。しかし、よく見ると、この下半分というのはコンクリートで作られているんですね。

    nico_191110_00711.jpg
    【画像】油屋ペントハウス

     そして、この上半分は豪華に見えますけど、これは全部、湯婆婆のペントハウスなんですよ。上半分のすごくカッコいい部分って、言っちゃえば、昔の帆船の船長室とか『宇宙海賊キャプテンハーロック』の艦長室みたいなもので、艦長室だけがやたらと豪華な建築なんですよ。
     これ、すごく綺麗に見えるんですけど、実はお客さんが飲んだり遊んだりする場所というのは狭い区域に限られていて、それ以外の豪華な部分というのは、ほとんど湯婆婆のペントハウスになっています。

    nico_191110_00738.jpg
    【画像】油屋の厠

     ちなみに、初期案では、この位置に……わかるかな? ここに張り出しみたいなものがあるのわかりますか?
     これ、何かというと「厠」と書いてあって、ポットン便所なんですね。
     この位置にトイレがあって、ここからうんちとかおしっこがポトンと落ちるようになっているんですけど。こんなふうになっています。

     これを横から見るとどうなっているのかというと、これも宮崎駿が初期のうちに描いていたイメージボードがあります。
    (パネルを見せる)

    nico_191110_00822.jpg
    【画像】油屋全体図

     さっき話したように、この壮大にカッコいい部分というのは、湯婆婆のペントハウスなんですけど。ここには「客室」と書いてあります。
     これ、宮崎駿が初期に描いたもので、まだ、上の部分に湯婆婆のものすごく豪華な部分が乗ってないんですけど。下半分は、さっき言ったようにコンクリート造りなんですね。
     大門から入って、お風呂場の部分が全て吹き抜けになっていて、その周りに客室がついていて、裏側に従業員の宿舎が張り付いているというような構造になっています。
     1階に番台と風呂場があって、2階部分は全て吹き抜け。3階と4階は吹き抜けの周りに、客室がある感じですね。そして、5階以上が湯婆婆のペントハウス。

     この建物を、宮崎駿は擬洋風というふうに呼んでいます。
     擬洋風というのは建築界の用語であって、どういう意味かと言うと、巨大なボイラーハウスが下にあることからもわかるように、これ、コンクリート建築なんですね。つまり、和風建築ではなくて、コンクリートの偽物なんです。
     このように、西洋建築の技術を取り入れた和風建築のようなものを、建築業界では擬洋風というふうに言います。明治時代によく建てられた「和風建築の偽物」……と言うよりかは「洋風建築の偽物」と言うべきか。
     だいたい、明治時代に、西洋建築の建て方をよく知らない大工達が、新しく入ってきた素材とか設計図とか材料で、見様見真似で洋風建築みたいなのを作ったんだけど、上にはデカい瓦とかを載せちゃう、と。そういうのを擬洋風と言うんですけども。
     これね、宮崎駿の強烈なメッセージなんですね。

    ・・・

     何かと言うと、日本のアニメーションそのものを指して「擬洋風」と言っているんですよ。
     つまり、ディズニーなんかの西洋が始めた芸術に、日本のセンスを乗っけただけなんですね。宮崎駿も、よく「日本のアニメーションのやっていることというのは、所詮は西洋が始めたものに自分なりのセンスを乗せているだけだ」って言ってるんですけども。
     つまり、『もののけ姫』そのものなんですね。この建物自体が、自分の作品である『もののけ姫』を強烈に皮肉っているんですよ。
     「いくら室町時代を描こうが、縄文時代を出そうが、針葉樹林文化論を出そうが、そういう神話を描こうが、所詮、自分の作ったアニメーションというのは擬洋風であって、西洋が作ったアニメーションの技法、西洋が作った映画の文法の上にのっとってやっちゃっている」ということなんですね。

     そして、この油屋というのは、かつて自分が作った『もののけ姫』そのものであると同時に、スタジオジブリそのものでもあるんですね。
     「この中で、女の人ばかりが働いている」というのにも理由があります。当時のジブリというのは『もののけ姫』の時にトラブルがあって、大量にアニメーターが辞めたんです。その結果、残ったのは女性の新人ばっかりが多くなって、一時期は「ジブリのアニメーターって女の子ばっかりだ」って言われてたんですけど。そんなふうに、女の子がいっぱいいる体制だったんですね。
     そんな、女性ばっかりのアニメーターを集めて何を作るのかと言うと、湯婆婆、すなわち鈴木敏夫プロデューサーは「ヒットさせろ!」と言うんです。
     この巨大になってしまったアニメスタジオで、高畑勲が何も考えず湯水のように金と時間を使うから、どうにかして作品をヒットさせなきゃいけない。観客の欲望を満たすようなアニメーションを作らなきゃいけない。
     つまり、「女の子を大量に集めて、偽の洋風建築の中で、観客の欲望を満たすようなものを作れ!」というメッセージが、すごく大きく入っているわけですね。

     「お客様は神様であって、そんな神様の機嫌を取るような面白いアニメというのをひたすら作り続ける。それが俺達の仕事だ! 俺達の仕事は、この油屋そのものじゃないか!」というメッセージなんです。
     実は、この『千と千尋の神隠し』の裏テーマの1つが、当時、金儲けに走っていたジブリへの批判なんですね。アンチ鈴木敏夫作品でもあるんですよ。
     このアンチ鈴木敏夫作品というのを誤魔化すために「油屋は風俗産業だ」という、キャッチーな、評論家受けするようなフレーズというのが生まれたわけなんですけども。

     宮崎駿は、油屋について、こんなイメージボードを描いているんです。
    (パネルを見せる)

    nico_191110_01310.jpg
    【画像】油屋内部イメージボード

     神様が来て、中には番台があって湯婆婆が座ってて、「お背中を流しましょう」というふうに、神様を気持ちよくして帰っていただくという。いわゆる「垢を落とす」わけなんですけど。
     これは、映画館に来る観客を意味しているわけですね。映画館に来る観客というのは、日常の澱みとか、嫌なこととかがいっぱい溜まっている。それを、映画館に来ることで、感動したり笑ったり涙を流したりして、さっぱりして帰って頂く、と。
     「我々はそうやってお金を頂いている。だから、あくまでヒットさせなきゃいけない」。これは、宮崎駿が鈴木敏夫から言われてたことでもあるんです。それまでは、宮崎駿もこの言い分に納得してやってたんですけど。しかし、もう、この頃になると、流石にいろんなことが積もりに積もって。
     特に『もののけ姫』が、空前のヒットを飛ばしたもんだから、まさか『千と千尋』がそれ以上にヒットするとは思わずに、宮崎駿も「あんなにヒットしたことによって、俺達は何かが狂ってしまった。今、何かがおかしいぞ」というメッセージを込めて作ったら、それ以上にヒットしちゃったという作品だったんです。


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