カリスマという存在が生まれ、それに引き寄せられたイワシたちが周囲を回ることでムーブメントが大きくなっていく。
私たちの生きる21世紀は、あらゆる分野においてこの構造が見られるようになりました。
例えば、政治。
一見すると、現在の政治はさまざまな問題が複雑に絡み合っており、理解するのは容易ではありません。
しかし、国際政治の舞台で活躍する政治家たちをカリスマだと考えると、今の世界の動きがとてもわかりやすくなるのです。
第2章で述べたようにカリスマはシナリオライターですから、それぞれが独自の世界シナリオやサブシナリオを持っています。
例えば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領。
プーチンのロシアは、クリミア半島をロシア領に編入しようとしたり、欧米がテロ支援国家だと名指しするシリアのアサド政権を支持したりと、欧米とことあるごとに対立する動きを見せています。
さらに国内では、野党の指導者など政権に反対する人間の暗殺が相次いでおり、まるで帝政ロシアかスターリンのソ連に戻ったかのような状況です。
筑波大学の中村逸郎教授は、プーチンのことを世界征服をもくろむ「人類史上最大の悪魔」と表現しているほどです。
では彼はなぜ世界征服を企んでいるのでしょう?
彼の世界シナリオとはいったいどのようなものでしょうか?
第二次世界大戦終結後から半世紀近く、世界は資本主義のアメリカと共産主義のソ連の二大国が支配していました。
いわゆる「冷戦時代」です。
1989年、ベルリンの壁が崩壊したことをきっかけに共産主義諸国で次々と革命が起こって政権が倒され、1991年にはソ連も崩壊しました。
ソ連崩壊後、超大国アメリカによる世界の一極支配が始まりますが、2001年に起こった同時多発テロ事件に代表されるように、世界中でテロや内戦が多発するようになっていき、アメリカの支配力は弱まってきています。
古代中国でいえば、漢滅亡後の三国時代みたいなもの。
圧倒的な力を持った大国がいないため、世界全体が不安定になっているのが今の状況です。
私が考えるに、プーチンの世界シナリオはとてもシンプルです。
東西が対立する冷戦時代や、その後アメリカが世界の警察として一極支配していた時代は安定していた。
アメリカが弱体化したために、世界が混乱している。
これはロシア国民にとっても、それ以外の国の人間にとってもよくない状態だ。
それならば、アメリカ、ロシア、中国の三国時代で一番強力な勢力になり、やがては世界を統一して安定させよう―。
反体制派の要人暗殺が相次いでいるにもかかわらず、プーチンの支持率は高い状態を保っています。
ロシア国民は、プーチンの思い描いている世界シナリオを支持しているんですね。
もっとも、ロシアによる世界統一というシナリオが、ロシア国民以外にとっていいことかどうかは別問題です。
私たちは、プーチンのシナリオを見極めた上で、彼のシナリオに乗るのか、あるいは別のシナリオを持ったカリスマを応援するのかを、選ばないといけません。
カリスマ論