黒沢清監督最新作『ダゲレオタイプの女』の公開に先駆け、黒沢監督と主演のタハール・ラヒムが来日し、9月15日都内で記者会見を行った。


本作は、世界最古の写真撮影方法"ダゲレオタイプ"の写真家・ステファンのアシスタントになった青年・ジャンを主人公に、芸術と愛情を混同したステファンのエゴや、彼の犠牲になる娘のマリーに対しジャンが募らせる恋心、さらに、自ら命を絶ったステファンの妻の幻影などが複雑に絡み合うホラー・ラブロマンスだ。

カンヌ国際映画祭をはじめ、海外の映画祭でも数々の賞を受賞するなど、世界的にファンを擁する黒沢監督が、オールフランスロケ、外国人キャスト、全編フランス語のオリジナルストーリーで初海外進出を果たした作品でもある本作。監督は、「随分昔から『チャンスがあれば海外で一度映画を撮ってみたい』という夢は持っておりました。日本人監督なら誰もが持っている夢だと思います」と海外進出を長年熱望していたことを明かし、本作の製作について「素晴らしいスタッフ、俳優たちと出会うことができ、完成させることができて、夢のような時間でした」と振り返った。


2人は、数日前にトロント国際映画祭でのワールドプレミア上映を終えたばかり。トロントでは、1000近くの席が満員となり、観客からも熱を持った感想が寄せられたというが、「正直に言いますと、緊張いたしました」と振り返るのは黒沢監督。また、意外にも客席には笑いが起こったことも明かし「そんなにわかりやすく笑うようなところはないはずなのですが...」と不思議がる様子も見せたが、この反応について、「(観客が)映画の中の登場人物と同調して笑いが生まれることもあるので、それだけこの作品にのめりこんでくれたと思っています」と感触を述べた。


主演のラヒムは、ジャック・オディアールやロウ・イエなど世界中の名匠が手がける作品に出演してきた実力派。今回が初めての来日となるが、日本の映画や漫画を通じて日本の文化に触れ合う機会があり、日本のことをよく知っていたという。「黒沢監督の映画に出演することによって来日することができ、大変嬉しく思っています」と喜びを語った。

黒沢監督は、そんなラヒムの起用理由を、初対面の際に「僕の映画に出てくるのにふさわしい人物だ」と直感を覚えたからだと明かし、さらに、撮影を通じて、「予想していたより遥かに精密で力強い表現者」と感じたことを述べると、ラヒムが照れながら「ありがとうございます」と日本語で笑みを浮かべながらお礼を言うシーンもあった。


黒沢監督と会話を重ね、役への理解を深めたというラヒムは、「ジャンは、本当に普通の、今どきのフランスの若者です」と語る。そんなジャンを演じるにあたって、身体的な表現に関して、映画『スケアクロウ』(73)のアル・パチーノからインスピレーションを受けたことを述べると、「初めて聞きました(笑)」と黒沢監督を驚かせ、笑い合った。

初来日となったラヒムだが、黒沢監督の口からは、記者会見の前夜、一人で新宿ゴールデン街に行っていたことも明かされた。「私は冒険が大好きなので、外国に行ったらホテルの部屋にいるのではなく、必ず出て行き冒険します」と語り、活発な一面を告白した。


最後に黒沢監督は、「『フランス映画にこんな作品もあるんだ』と驚きながら、同時に、『なるほどフランス映画だ』と納得しながら観ていただきたい」と思いを語り、「『日本人が撮った』などはどうでもいいことなので、"最新のフランス映画の一本"ということで楽しんでいただければ」とメッセージを残した。

『ダゲレオタイプの女』は10月15日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開


■『ダゲレオタイプの女』公式サイト
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