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この作品、どうしても76年版(日本公開77年)と比較してしまいます。
でも、新しい『キャリー』に、僕は76年版と同じせつなさを感じました。僕にとっては、素晴らしいリメイク、そして新たな"青春映画"の名作の誕生だと思います。極力ネタバレなしにレビューしてみます。

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狂信的な母親に育てられた内気な少女キャリー。彼女は、高校でのけものにされ、いじめられています。しかしあることをきっかけに、自分が精神力で物体を移動し、破壊することのできる念力使いであることを知ります。一方、彼女をいじめていたことを反省した女子学生スーは、その罪滅ぼしに、自分のボーイフレンドにキャリーを誘って、プロム(高校生活最後のダンス・パーティ)に連れて行くようお願いします。キャリーに"最高の思い出"をプレゼントをしてあげようと。
しかし、キャリーを憎む陰湿な女子が、そのプロムの夜に、ひどすぎるイタズラ(=いや、もう犯罪です)を仕掛け、キャリーは絶望のドン底に突き落とされるのです。その怒りと哀しみが頂点に達したとき、彼女の念力パワーが全開、プロム会場は阿鼻叫喚の地獄と化すのです!

ホラー小説の大家スティーブン・キングの、有名すぎる出世作が原作。そして76年に、ブライアン・デ・パルマ監督、シシー・スペイセク主演で映画化され、話題を呼びました。
この作品、最近では「午前十時の映画祭」でもリバイバルされたぐらいですから、いかに名作にして傑作だったか、それだけでもおわかりになると思います。

しかし76年版も、そして今回の素晴らしいリメイク版『キャリー』も、いわゆるホラー映画ではない。決して『恐怖の超能力少女キャリーの復讐:地獄のプロム・ナイト』的な、怖がらせ映画ではないのです。『キャリー』は、たまたま超能力をもっていたある少女の悲劇の物語なのです。

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この映画の、本当にショッキングな見せ場は、クライマックスのプロムのシーンであり、そこに行きつくまでは、少女キャリーが勇気を出して、自分自身の人生を歩もうとする物語です。
僕らはいつしかキャリーに共感し、応援してしまう。だからプロムの夜、彼女が最高の幸せを手にしたとき、「よかったね、キャリー」と心から思ってしまう。

しかし、映画は、ここから一気に、破壊のスペクタクルに突入します!ピンクが似合う愛らしい少女が、血まみれの殺戮の女王になってしまう。でもここに感じるのは、怖さでも、また いじめへの復讐に対するカタルシスでもありませんでした。キャリーが、かわいそうで、かわいそうで しょうがなかった。いじめられたことが、かわいそうなのではない。本当に、あともうちょっとでつかめたかもしれない、小さな、でも彼女のこれからにとって、一生の宝になるかもしれなかった幸せがふみにじられたこと。そして、心を壊され、モンスターにならざるを得なかったこと。かわいそうなキャリー。

ただ、正直言います。
キャリーに同情しつつも、一方で、僕らが『キャリー』という映画に、"見世物"的に求めていたのは、このプロムのパニック・シーンです。その期待を裏切らない、念力という素材を活かした、すさまじいバイオレンスが炸裂します。
76年版は、キャリーの心は完全に壊され、廃人状態になり、だから彼女のサイキック・パワーが、より狂気じみて制御不能になっているという感じでした。だからキャリーの輝きを失った目(要はいっちゃている目)が、破壊を導いていきます。

しかし今回のキャリーは、怒りに支配された彼女が、サイキック・パワーを凶器として意図的に使っている、ように見えました。だから、指先に力をこめ手を動かしながら、破壊を演出していきます。ひょっとするとここが、76年版と大きく異なる点かもしれません。

ただ、このアクティブさ、みたいなものが、今回、クロエ・グレース・モレッツならではのキャリーの良さ、です。劇中、自分が念力を使えることを知り、とまどいというよりも、ちょっと悪魔的な笑みをうかべるシーンがあります。キャリーの中に芽生え始めた、ダーク・サイド。でもこのときの顔が、また素敵。

そして、この物語のもう一つのキーは、狂信的な彼女の母親(演じるのはジュリアン・ムーア)なのですが、彼女が、自分の娘を愛していていることも語られます。この母親も、誰かが救ってあげれば、あの母娘は幸せになれたハズなのです。

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僕は、キャリーが、それでも救いの手をのべようとする人物に対し「なによ、いまさら!」と拒絶するシーンが印象的でした。昔はキャリー側に立って映画を観ていたけれど、今回、新しいキャリーに再会して、果たして自分がもしあのハイスクールの生徒だったときに「キャリーを笑う側に、いない」と断言できるだろうか、という思いにとらわれました。
そう「キャリー」の事件が語るのは、"ほんのちょっと他人を思いやる気持ちが欠けるだけで、とりかえしのつかない悲劇が起きる"ということです。ここが、本当に"怖い"ところなのです。だからこそ、改めて 若い世代に観てもらいたい。

76年版が傑作だけに、今回、なぜわざわざリメイクするのか、という意見もあるかもしれません。冒頭、"僕にとっては、素晴らしいリメイク"と書いたのは、76年版を変にいじることなく、あの名作をいまの旬なキャストで再現したらこうなるだろうな、という映画なのです。そう、いまの若者のために、いまのキャスト、時代感を盛り込んで、この"寓話"を、語りなおすことに意味はあるのです。

"血まみれ美少女が、超能力で暴れまくる、すごい映画!"を楽しみにすることは、決して間違っていません。やはり、これはダークなエンタテインメントなのですから。だから、僕がここで書いてきたような、教訓じみたことを求めて映画館に行く必要はありません。でも、観終わった後に、キャリーのことを、そして自分だったらどうしただろうか、をきっと考えると思います。

どうか、キャリーに会いに行ってあげてください。傑作です。

(杉山すぴ豊)

【参照リンク】
・『キャリー』公式サイト
http://www.carrie-movie.jp/

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