当サイトではこれまで、うまい食べものを探訪しつつ、ボートレース場を巡ってきたが、その成果が実ってか、ボートレースに使われるボートとモーター(ボートレースではエンジンをこう呼ぶのだ)を製造する工場を見学する機会に恵まれた。
うまい食べものも大好きだが、工場見学も大好物である筆者は、喜び勇んで「ヤマト発動機」のある群馬県太田市へと向かったのであった。
ボートレースのボートとモーターを製造しているのは、ヤマト発動機のみである。つまりシェア100%。競技に使用されるボートとモーターの全てを生産しているわけだから、その役割は重大である。
そんな、ボートレース界の生命線をになうヤマト発動機の工場見学。興奮を抑えきれずに工場へと足を踏み入れたのだが、その内部は、興奮という二文字では表せないほど魅力的であった。
まず、ボートの製造工程を見学したのだが、その様子は例えるなら楽器づくりのよう。
ボートレースに使用されるボートはすべて木製だ。
ボートレースは、競技の公平性を保つため、ボートやモーターの性能差を極力小さくしなければならない。そのため、完成したボートのサイズの誤差はミリ単位で定められている。重量70kg弱の船体を数百グラムの重量差で製造するのは、容易ではあるまい。
実際、製造工程には、そのための工夫が随所に取り入れられていた。
まずは材料となる木材。品質のいい最高級の材料を輸入し、それを半年から場合によっては2年間も「寝かせ」るのだ。これは乾燥による変形を抑えるため。
じっくり乾燥させた木材を加工する前に、ボートに適しているか改めて選別する。高品質な木材を用意しているにもかかわらず、この時点で半数ほどが「使用に適さない」と判断されるそう。吟味に吟味を重ねて材料を選んでいるのだ。
こうして準備された材料は、大型の機械でカットされる。
カットされた部品は、重さごとに選り分けられる。定められたサイズにカットされた部品は、木材の性質上、どうしても重さに偏りができてしまう。
これを適当に組み上げたのでは、ボートの重さも変わってしまう。
それを避けるために、たとえばAの部品が重めにできあがった場合には、軽めに仕上がったBの部品と組み合わせることで、重量差を極限まで小さくするのだ。
組立の工程も大型の工作機械を用いて行われるが、最終的には職人の手仕上げが必要となる。
ゼロコンマ数ミリの単位でカンナをかけ、ボートを仕上げるのだ。
そうしてできあがったボートは、まるで芸術品のようですらある。
ため息が出そうなほど美しい仕上がりにうっとりしている間もなく、続いてはモーターの製造工程を見学する。
ボートレースに使われるモーターは、直列2気筒の2サイクル水冷エンジン。排気量は396.9ccで最高出力31.5ps、最大トルク3.7kg・mを発生する。
モーターも、性能差をできる限り小さくする必要があり、製造には高度な精度が要求される。
そのため、構成される部品は1000分の1ミリ単位で計測され、正確に組み立てられる。
筆者は何度か、自動車用エンジンの製造工場を取材した経験があるが、安定した品質が求められる量産車のエンジンと比べても、さらに精密であり、工場というよりは研究室といった印象だ。
約400ccの2サイクルエンジンで31.5psというと、同程度の排気量を持つオートバイのエンジンと比較しても、それほど高性能というわけではないので(市販バイクは50ps以上)、もっとやんわりと生産されているのかと想像していたが、とんでもない誤解だった。
均質であるということは、単純に高性能を狙うよりも、よほど大変なことなのだ。
精密機械のように組み立てられ、完成したモーターは、すべて実際に稼働させて検査し、基準に合格したものだけが出荷される。
ちなみにこのエンジン、年間1600台ほど生産されるが、価格は1台60万円程度とのこと。
これほどまで緻密な製造工程を見て、数百万円くらいだろうかと推測していたので、思わず声が出るほど驚いてしまった。
開発・製造コストとクオリティーを考えると、極端に安い。つい買って帰りたくなってしまったが、一般向けには販売していないとのこと。
そしてボートも同じくらいの価格だという。これほどの品質のものがこんな値段で買えるなんて、日本の製造業もたいしたものである。
<ヤマト発動機では、ボートレース用のプロペラ(スクリュー)も製造している>
日本の製造業といえば、どうしても「高齢化」というイメージがつきまとうが、ヤマト発動機の工場で印象的だったのが、若い従業員の多さだ。
120人弱の従業員の平均年齢は30代の後半という。熟練の職人が、若い人をサポートする姿は、悲観的な見方の多い日本の将来にとって、希望の光ではないだろうか。
従業員が一丸となって、熱心にていねいにボートとモーターを作る姿を目の当たりにして、またまたボートレースが魅力的に思えてきた。2014年のレースがさらに楽しみになったのである。
(工藤考浩)
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