「待ってました!」という人も少なくないだろう。もちろん筆者もそんな一人なので、早速自腹購入してプレイ! その内容をレビューとして紹介したい。
待ちに待った3D版! 『最恐 -青鬼- / Absolute Fear -AOONI-』
「青鬼」といえば、小説化や映画化もされている人気ホラーゲームシリーズ。もともとは個人製作のPC向けフリーゲームだったが、その後スマホアプリとしてシリーズ展開されている。
その内容は基本的に、青鬼と呼ばれる謎の怪物が巣食う閉鎖空間から脱出する……というもの。脱出のためには、閉鎖空間に仕掛けられた様々な謎を解かなければならない。謎解きに集中している中、突如として襲いかかってくる青鬼の恐怖がシリーズの醍醐味となっている。
なお、これまでのシリーズはいずれも見下ろし型視点の2Dゲームとして作られていた。3Dとして作られるのは、本作がシリーズ初。
ただ、非公式に3D版『青鬼』が作られることはあったのだが、非公式なので当然世の中に出回ることはなかった。逆に言えば、非公式に出回ってしまうくらい、3D版を期待するプレイヤーが多かったといえる。だからこそ、「待ってました!」なのだ。
(画像はスマートフォン版『青鬼』)
では、本作の内容はどのようなものか……というと、3D化によって視点がこれまでの見下ろし型視点から一人称視点へと変化。一方、「青鬼と呼ばれる謎の怪物が巣食う閉鎖空間から脱出する」という基本は踏襲している。ただ、これまでの作品では突然襲いかかってくる存在だった青鬼が、常に館内を歩き回っている存在となった。
また、ゲーム展開も手が加えられており、これまでの「アイテムを獲得しつつ、少しずつ探索可能エリアを増やしていく」という構成から「謎を解くたびにエリア構造が新しいものになる」というステージクリア型に近いものになっている。さらに、登場人物も本作オリジナル。既存シリーズでフォーカスのあたっていたひろし、たけし、卓郎、美香という4人ではなく、「失踪した姉を探す妹」が主人公となっている。
3D版でのこうした変更点は必ずしも好意的に受け入れられたわけではないようだ。この原稿を書いている4月28日現在で、Steamでのレビューは「賛否両論」となっている。
ちなみに筆者個人の感想は、手放しで絶賛というレベルではないものの、これはこれで「アリ」というもの。充分楽しませてもらった。重ねて申し上げるのだがこれは冒頭に書いたように、ゲーム代金を自腹で支払った上での感想だ。
とはいえ、本作を否定するプレイヤーの感想にも共感できる点もある。そこで、なぜ筆者が肯定的な感想を抱いたのか、その理由を詳しく書こうと思う。
3Dで『青鬼』ならではの恐怖を可能な限り追求した一作
「青鬼」シリーズのエポックメイキングな点は、言うまでもなく青鬼というキャラクターにある。ゾンビでも、幽霊でも、妖怪でも、クゥトルフ神話の異形の神でもない完全オリジナルのキャラクター。
青鬼のビジュアルは、パッと見そこまで怖くはない。むしろ、愛嬌があってコミカルですらある。しかし、青鬼から必死で逃げているときはガチの恐怖を感じてしまう。
ストレートに「怖い」わけじゃないのに、ガチで「怖い」。こんなキャラクター、なかなか存在しないだろう。
ただ青鬼の持つこのユニークな特徴は、3D化にあたって課題となったはずだ。
(画像はスマートフォン版『青鬼』)
というのも、2D見下ろし型視点とは違い、3Dの一人称視点で逃げている際には、青鬼の姿を見ることができない。当然ながらプレイヤーが逃げる時は青鬼のいない方へ、障害物にぶつからないよう前を向いて逃げることになる。青鬼は背後から追ってくるかたちになるため、姿を見ることはできない。
この点を踏まえると、逃走時のみならず、青鬼の登場時も課題となる。登場シーンをプレイヤーに分かるよう表現するとなると、基本的にプレイヤーの正面に青鬼を登場させなければならない。
仮に背後に登場させた場合、青鬼が出現した際の効果音だけでプレイヤーは逃げ出すことだろう。「ならば」と効果音を鳴らさなかった場合、「突然出現した青鬼に気づく暇もなく、理不尽に殺された」という状況が発生してしまう。
では、カットシーンで青鬼の登場を描いたらどうなるか? 突然襲われるというスリルがなくなる上、逃走タイミングが明確化され難易度が大きく下がってしまうことだろう。
いずれのパターンも、「青鬼」シリーズのおもしろさを損なう結果となる。
こうした点を踏まえた場合、青鬼は2D版のように突然出現するのではなく、常に空間内にいた方がいい。常に空間内にいることで、プレイヤーは青鬼のビジュアルを味わうことができ、その上で理不尽なゲーム展開も回避可能。
ただし、「青鬼が常に空間内にいる」となると、「いかに逃げるか?」から「いかに気づかれないか?」というかたちにゲーム性が変化してしまう。
2D版で青鬼は突然プレイヤーの前に出現し、一定時間プレイヤーを追跡する。これに対し、3D版『青鬼』は常に空間内に存在。プレイヤーの姿を認識すると、見失うまでプレイヤーを追跡するというかたちだ。
プレイヤーはしゃがみ移動で姿勢を低くしたり、青鬼の見ていないタイミングを伺ったり……といった手段を駆使して、鬼に気づかれないよう移動する。
おそらくこの変化によって、ゲーム展開にも手が加えられることになったのだろう。
「いかに気づかれないか?」というゲーム性を実現するためには、「警戒すべきタイミング」と「警戒しなくてもいいタイミング」を作り出さなければならない。
「警戒すべきタイミング」に警戒を怠ると、プレイヤーは青鬼に気づかれてしまう。一方、常に警戒していると謎解きの進行が遅くなってしまうので、プレイヤーはいつ警戒すべきかを考えるようになる。これがゲームに緊張感をもたらす。
では、どうすれば「警戒すべきタイミング」と「警戒しなくてもいいタイミング」を作り出せるのか? そのためには、プレイヤーに対し青鬼が現在エリアのどの辺にいるかを大雑把なかたちで伝えなければならない。たとえば、遠くから見えるシルエットであったり、足音の大きさであったりといったかたちで。
となると、エリアがある程度狭くなければならない。エリアが広大であったり、何層にもわたる構造になっていたりすると、なかなか青鬼が接近せず、ず~っと「警戒しなくてもいいタイミング」になってしまうからだ。
これを踏まえると、2D版のように「アイテムを獲得しつつ、少しずつ探索可能エリアを増やしていく」という構成より、「謎を解くたびにエリア構造が新しいものになる」という構成の方が向いている。
つまり本作は、「青鬼」シリーズのコアであるキャラクターを大切に3D化した作品といえるだろう。2Dと3Dでどうしても表現を変えなければならない部分に対して、青鬼というキャラクターを最も活かす選択を行っているように見受けられる。
ここまで書いたことは、開発スタッフに直接聞いたものではないので、筆者の推測に過ぎない。けれども、こうした推測をしたからこそ、筆者は本作に肯定的な感想を抱いている。
キャラクターゲームとしての青鬼らしさが薄いのは残念
「青鬼」シリーズはホラーゲームであると同時に、キャラクターゲームでもある。というのも、『青鬼』『青鬼2』『青鬼3』『青鬼X』というシリーズ作を通じて、ゲストキャラクターが加わることはあっても、中心人物はひろし、たけし、卓郎、美香という4人だった。シリーズファンからすると、「青鬼」シリーズは青鬼のゲームであると同時に、ひろし、たけし、卓郎、美香のゲームであるといっても過言ではないはずだ。
こうしたおなじみのキャラクターが登場しないという点では、筆者も本作に対して寂しさを感じている。「本作を否定するプレイヤーの感想にも共感できる」と書いたのは、このためだ。
(画像はスマートフォン版『青鬼』)
「いかに逃げるか?」から「いかに気づかれないか?」へとゲーム性を変化させ、ゲーム展開も変わり、主人公たちまで変わった本作の体験は、2D版『青鬼』で楽しめるものとは明らかに方向性が違う。このため、「期待と違っていた」と感じる人がいてもやむを得ないだろう。
(画像はスマートフォン版『青鬼オンライン』)
とはいえ、そもそもシリーズには『青鬼オンライン』という変わり種が存在している。『青鬼オンライン』はその名の通りオンライン対戦に特化した作品で、100人のプレイヤー中最後の生き残りとなることを目指す。「青鬼から逃げる」という点は踏襲しているものの、謎解き要素、ストーリー要素は一切ない。
そう、シリーズの方向性から逸脱したスピンアウト的作品は、本作が初めてではないのだ。
(画像はスマートフォン版『青鬼オンライン』)
また、『青鬼3』や『青鬼X』では一部にアクション性を高めたボス戦的ステージが用意されるなど、シリーズの枠組みを拡大させるような要素はこれまでも部分的に追加されていた。シリーズが長く続いてくると、どうしてもマンネリ感が出てきてしまう。このため、新要素を追加してシリーズの枠組みを拡大することが避けられない。
こうしたことを踏まえると、今作は3D化という大きな変革にともない、ゲームに関する要素を大幅に拡張したスピンアウト的作品ととらえた方がいいのかもしれない。
筆者は肯定的な感想を抱いていると書いたが、これは本作をスピンアウト的な作品ととらえた上での感想だ。『青鬼』の3Dリメイクや、『青鬼3』『青鬼X』に続くナンバリングの新作ととらえると納得がいかないという人もいるだろう。ただ、『青鬼オンライン』的なスピンアウト的位置づけのタイトルと考えると、納得がいくのではないだろうか。
なお、本作は「謎を解くたびにエリア構造が新しいものになる」というステージクリア型に近い構成と書いたが、ゲーム全体を通してステージクリア型の構成になっているわけではない。第一章と第二章をクリアして最終章まで行くと、2D版『青鬼』のように、館を探索してアイテムを発見、謎を解きながら移動範囲を拡大していく……という展開となる。
なので、2D版『青鬼』のゲーム性を完全に捨て去ってしまったわけではない。本作をプレイしてゲーム性の部分に不満を覚えた人は、最終章までプレイしてみるとまた違う感想になるかもしれない。
最後にまとめると、本作は2D版『青鬼』の延長線上にある作品というより、3Dを前提として構築しなおした新しい『青鬼』といえる。『青鬼3D』だとか『青鬼4』といったタイトルではなく『最恐 -青鬼- / Absolute Fear -AOONI-』と、ナンバリングを匂わせないタイトルとなっているのも意図的なものではないだろうか。
では、3Dで生まれ変わったという前提で本作を見た時にどうかというと、「いかに気づかれないか」というステルスホラー的恐怖と謎解きを、極めて短いスパンで次々楽しめるという点で本作ならではの恐怖を構築しており、「アリ」だと思う。
クリーチャーに気づかれないように行動するステルスホラー作品は多数あるし、謎解きの奥深さという点では2D『青鬼』の方が勝っている。しかしステルスと謎解きの2つを同時に、ステージクリア型ゲームのような短いスパンでガンガンプレイできるというのは本作ならではの魅力的な体験だと感じた。
そんな「いかに気づかれないか?」に特化した新しい『青鬼』に興味を惹かれる人なら、本作はプレイする価値のある一作だ。
……とはいえ筆者も本作をプレイしてあらためて、2D『青鬼』の延長にあるナンバリング的な3D『青鬼』を遊びたいと思った。ぜひ次回作にはひろし、たけし、卓郎、美香を復活させてほしい。
やっぱり、3Dでガタガタ震えるたけしが見てみたい……。
文/田中一広
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