人間が物を見たり、手足の感覚を感じたり、身体の各所を動かせるのは神経組織の働きが関与しています。
たとえが正確ではありませんが、人間の神経組織はバケツリレー式に神経の電気刺激を伝える物質が分泌されることによって、神経細胞の隅々まで刺激が伝わり、身体の機能が正常に動くのです。
その神経細胞の電気信号をスムースに伝えるために、神経細胞は「ミエリン」という組織に包まれています。
このミエリンを、異物として免疫細胞が勘違いして攻撃(脱髄といいます)し、様々な障害が起こる多発性硬化症(MS)という病気があります。
多発性硬化症は、北欧やカナダなどの極地方に近い地域に住む白人に多いことがわかっています。
ところがここにきて、日本人もこの病気に罹患している人が増えていることがわかり、単なる環境や遺伝的な要素だけで発症するのではないことが立証され、病気の発症のメカニズムについて疑問視する医学者が増えてきました。
日本においては、圧倒的に女性の方のほうが罹患する確率が高く(全体の7割)、各大学などが独自に行っている疫学的統計データを見ると、発症年齢が若くなっているとされています。
ミエリンは、免疫細胞から攻撃を受けても初期のうちは回復が早く寛解(病気が治るわけではないが症状が治まってしまう状態)に至ることが珍しくありません。
そのため、病気に罹患していることに気づかないケースが多いとされています。したがって再発した際に、医師が多発性硬化症を疑い、病気に罹患していることがはっきりすることが少なくないようです。
多発性硬化症の診断は、医師でも難しい側面があります。多発性硬化症と非常によく似た兆候を示す、視神経脊髄炎(NMO)という病気があるためです。そのため医師は、血液検査や、骨髄液の検査、MRIの検査を行い視神経脊髄炎ではないことを確認します。多発性硬化症の患者さんに、視神経脊髄炎の治療薬を投与すると、症状が悪化した上で再発するケースが知られているからです。
多発性硬化症の治療は、ステロイドなどの炎症を抑える薬と、免疫を調整する薬を併用するのが基本です。
昨年秋に軽症の患者さんを対象に「グラチラマー(商品名コパキソン)」が承認されましたが、今後も様々な薬が承認され、きめ細やかな治療が可能になるのではないかといわれています。
ちなみに、多発性硬化症は、初期の患者さんほど、奏功し、症状を寛解させる治療が行える確率が高いとのこと。
本記事のような症状に気づいたら、自然に治ったとしても、かかりつけのお医者さんに相談したほうがベストです。
※写真はイメージ 足成より http://www.ashinari.com/2014/08/08-389449.php
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