今週のお題…………「私が興奮したベスト興行」

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文◎谷川貞治(『巌流島』事務局・広報部長)………………月曜日担当



今週のお題は、「私が興奮したベスト興行」。よく「神興行」などと言われますが、私も約20年間に渡ってプロモーター側に立って興行を作ってきましたが、思い出に残る神興行は何度も体験しています。特に自分がプロデュースしたイベントは、必ずやファンの心に突き刺さる何かを残してきた自負があり、ダメな興行だったと思う方が少ない。それほど毎回一生懸命やってきたつもりです。

しかし、今日挙げるベスト興行は、私が手掛けた興行ではありません。手伝ったとはいえ、主催者は昨日まで敵だった、あのPRIDEの残党組でした。その興行の名前は「やれんのか! 大晦日!2007」。私は長く大晦日の格闘技イベントをPRIDEと闘ってきましたが、視聴率も、内容も負けたと思ったことは一度もありません。しかし、あの「やれんのか!」だけは、終わった後に敗北感でいっぱいの気持ちになりました。それほど三崎vs秋山戦は面白かった。興奮した。他の人がやった大晦日イベントで、初めて興奮させられた「やれんのか!」を、私のベスト興行に挙げたいと思います。

当時、PRIDEはUFCに身売りし、残党組については新格闘技イベント『戦極』と合流するという噂が流れました。その中で私はPRIDEの加藤専務と会って「もう一度、一緒にやらないか」と説得。それがK-1とPRIDEの電撃和解につながり、私と高田延彦さんの記者会見での握手につながったのです。その時、加藤専務とは幾つかの約束を結びましたが、その中の一つが「もう一度さいスパで、自分たちの手で大晦日イベントをやって、ケジメをつけさせてほしい」でした。彼らがつけた興行名が「やれんのか!大晦日2007」。私はその興行を「どうせやるのなら、TBSで二元中継をやりたい。興行的にも協力してDynamite vs  PRIDE対抗戦みたいなことをやろう!」と逆提案しました。

しかし、この調整が結構大変でした。TBSやスポンサーを説得するために奔走。そして、「やれんのか!」をTBSで放送する意味を作るために、K-1側から秋山成勲、チェ・ホンマン、JZカルバンの3選手を提供し、この3人のファイトマネー以外にヒョードルのファイトマネーを負担して、それを放映権がわりとしました。それで組んだのが、

●秋山成勲  vs  三崎和雄
●チェ・ホンマン  vs  エメリーヤンコ・ヒョードル
●JZカルバン   vs   青木真也

でした。しかし、その内JZは怪我のために欠場。代わりに韓国のチョン・ブギョンが青木と対戦しています。こうした調整に追われていたため、大阪ドームでやった「Dynamite!」の方は、桜庭和志 vs  船木誠勝をメインにするものの、満足するようなマッチメイクはできませんでした。そんな中、あの三崎 vs  秋山が行われたのです。

この年、さいたまスーパーアリーナに集まったPRIDEファンは、PRIDE復活を願う気持ちとPRIDEのヒーローだった桜庭和志に全身オイルを塗って闘った大ヒール秋山の登場を異常なテンションで迎え入れました。秋山にとって桜庭戦以来の日本のリング登場というのも、興奮するのにベストなタイミング。その相手が三崎選手というのは、私は最初ピンときませんでしたが、日本人対決というのは良かったのかもしれません。

この試合、私は大阪ドームにいましたから、もちろん生でその熱気を体験しておりません。そればかりか、大阪ドームの方のイベントは終わり、打ち上げパーティーの会場に向かうタクシーの中で、私は携帯電話を使ってこの試合を見るという状況でした。しかし、その小さな画面でも伝わってくる大阪ドームとは比べものにならない熱気。演出家の佐藤大輔の煽り映像も見事に秋山をヒールに仕立てたこともあり、観客のヒートっぷりは近年ないほどのものでした。

しかも、秋山のKO負けで、マイクをとった三崎の異常なパフォーマンスもあり、私まで冷静に見てはいられないほど、興奮しました。いつの間にかK-1軍として秋山に対する感情も高まり、リング上で異様なマイクパフォーマンスをする三崎やリング上で手放しに喜ぶ高田さんらPRIDE勢に怒りを感じたのを覚えています。よく興行には「ファンの熱」と言いますが、あれほどヒールとベビーフェイスがはっきり分かれ、会場に熱が生まれた興行も珍しい。あの熱気が試合を作り、ドラマを作ったのは間違いなく、あの「やれんのか!」こそ神興行と呼べるものだと思います。

私は大晦日興行で他の人に負けたことはありませんが、あの「やれんのか!」だけは敗北感だけでなく、嫉妬を感じた興行でした。視聴率は14,7%。しかし、その後三崎は戦極へ。秋山も本人はヒールになりきれず、DREAMにしばらく参戦した後UFCに転向したこともあり、ドラマは続きませんでした。あの神興行を点から線のドラマに繋げられなかったことは、今でも後悔しています。



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