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La oscuridad de Columbia       〜事件簿 B  襲撃、反撃 〜
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La oscuridad de Columbia       〜事件簿 B  襲撃、反撃 〜

2014-11-23 10:23
    エメラルド街道での襲撃、反撃は賊をしとめた

    その日は原石ビジネスパートナーである相棒のデイブの他にクラウデイオとチューチョが
    ムッソー鉱山行きに同行していた。デイブはドイツ系ブラジル人(母はアメリカ人)で
    数年前からパートナーを組み一緒にエメラルド原石の買い付けにあちこちの鉱山へ出かけ
    ていた。クラウデイオとチューチョーもソシオ(パートナー:相棒)同士で我々の長年の
    友人だ。クラウデイオは沈着冷静な男であるが、チューチョはひょうきんなおどけ者で
    あった。共に気の良いスペイン系白人だ。                                       
    ムッソー鉱山の麓の村ムッソーは週末になると数千人のエスメラルデーロたちや日用品
    雑貨の商人たちで賑あう。食料品や日用品雑貨のメルカード(市場)は町の端にたつが、
    プラサ(教会前広場)はエスメラルデーロに占領されエメラルド原石の一大青空市場と化す。
    鉱山の杭夫が持ち込む原石もあれば鉱山の株主が換金セールで持ち込む商品もあり、
    その総額は数億円から数十億円をくだらない。
    大きなロット(商品)を入手し買い付けを予定以上にこなしたその日は、まだ陽が高い午後
    だったのでいつものように村に泊まる事もなく日帰りでボゴタへ帰ることにした。
    私の運転するカンペロ(トヨタのランドクルーザー)が村を離れる時、村はずれに建て
    られたビルヘン・デ・マリア(マリア像)の裏側にウオーキトーキ(長距離無線電話)を
    抱えた男が我々の通り過ぎるのを見守っていたとはつゆ知らなかった。
    熱帯低地に位置するムッソーは湿気でうだるような焦熱地獄で、村を離れ山道をどんどん
    上っていくと涼しい風が吹き爽快であった。良い買い付けもできて皆んなご満悦だった。
    しかし、村を離れしばらくしてから大事件が勃発した。
     
    機関銃やライフルを手にした強盗団のジープが突如背後に現れたのだ。
    ドン、ドーンと威嚇射撃の銃声を響かせ、
    “止まれ! 止まれ!”
    とソイツらは絶叫した。
    右側は削り取られた山肌がそびえており、左側は千尋の谷の急絶壁である。岩石が至る所に
    突き出している狭いエメラルド街道はS字カーブが連なっている。サードギアからセカンド
    ギアへとシフトダウンしながら猛スピードで私のカンペロは疾走した。後続のジープもほぼ
    同じ車間距離で迫ってきた。機銃掃射の音がダ、ダ、ダッと響く。互いにめちゃ揺れ動く
    車から撃っても弾が当たる訳はないし、まして機関銃なんて狙いが定まるものではない。
    もっとも、へたに当たって我々のカンペロが断崖下へ落っこちでもしたら狙いのエメラルド
    商品は消えてしまうから、脅かしの威嚇射撃かも知れない。
    この襲撃のクライマックス シーンは数年前に新潮社から出版した“エメラルド王”に
    詳しく描写しているので、ここでは概説にとどめたい。なぜなら、このブログ シリーズの
    テーマは襲撃事件後の非常に興味深いミステリアスなストーリー部分である

    -----------------------------------------------------------------------------

    後続のジープをやっと七、八十メートルは引き離したかと見えたところで、左側の断崖絶壁
    が少しなだらかなスロープになりかかった。谷間が開けたかんじの大きいSカーブで力強く
    ハンドルを切り向こう側に飛び出したとたん、あわや私のカンペロは急ブレーキで前に
    つんのめりそうになった。前方二、三十メートルのところに道路を遮断して材木が
    横たわっているのだ。その背後にまた銃をかまえた賊が五人ほどいやがる。
    私は叫んだ、
    “クソッ、谷間へ飛び込もう!”
    私とデイブは前のドアを開け、クラウデイオとチューチョは後ろのドアから飛び出した。
    降りざま前方の敵めがけて我々四人は一斉に拳銃掃射を浴びせた。敵を一瞬ひるませ、
    谷前へ飛び込むチャンスを作るためだ(単に逃げるだけだったら狙い撃ちされる)。
    そういうアクションはエスメラルデーロの我々にとって瞬時の本能的判断だ。
    前方ドアを盾に食らわした私とデイブの数発の銃弾のうちどちらかの弾が賊の一人の急所に
    命中していたとは、その時に知る由もなかった。
    そして、ほぼ四人一緒に谷間へ飛び込んだ。傾斜六、七十度の急勾配を転げるように滑り
    落ちていった。幸運にも下方の地点は川を眼下に見下ろす狭いが平たんな足場が川沿いに
    続いていた。五十メートルほど頭上の敵にめがけて威嚇射撃を続けながら我々は川沿いの
    灌木の中を急ぎ足で上流のほうへ逃げていった。むろん賊の中に断崖を飛び降りて追っかけ
    てくるような殊勝な奴はいなかった。
    一時間近くは用心のため迂回をして、頭上の街道へ上ってきた。
    既に賊は退去しており、銃弾を浴びせられて傷だらけとなった私のランクルが横たわって
    いた。
     
    クラウデイオとチューチョがムッソーからさほど遠くない隣りの県のプエルト・デ・ボヤカ
    に行ったのはその事件の二週間後であった。パーラ(パラミリタール:右翼民兵団)の友達
    に会うためだった。チューチョは二年程だがかってパーラに在籍していたことがある。
    パラミリタールは左翼ゲリラに対抗して結成された自警団であるが組織が肥大化し政府も
    手を焼く厄介な存在になっていた。おもて向きは牧場主や農園主にゲリラからの防衛を提供
    して多額の用心棒代金を請求する一方、他方ではコカイン販売で富を蓄えていた。
    コロンビア全土に数十の組織がはびこり、千人以上の兵隊を抱える大きな組織が三つ四つ
    あった。プエルト・デ・ボヤカに根を張る民兵団は司令官ボタロンの指揮下でその
    おもだった組織のうちの一つであり全国に勇名を馳せていた。
    余談であるが、私ものちにこのコマンダンテ(司令官) ボタロンと友達になった。
    私の映画がコロンビア全土で上映されていた頃、私の事を心配してよく電話をよこして
    くれた。
    “オイ、ハヤタ、あの映画は全国のゲリラがカンパメント(兵舎)で観ているぞ。よくも
    まーあんな挑戦的な映画を作ったもんだ。全国のゲリラを敵にまわしたようなもんだ”
    “あんたも全国のゲリラを敵にまわして戦っているよ、コマンダンテ・ボタロン”
    互いに、“アッ、ハ、ハ、”という具合であった。
    チューチョは当時の戦闘員仲間であった友達のハイロを呼び出してサロン・デ・トマデロ
    (南国風サロン・バー)で久しぶりの盃をかさねていた。
    ハイロも新人の戦闘員仲間を一人同伴し、クラウデイオと連れ立っての四人は話しに花を
    さかせていた。
    再会の目的は、パーラからガソリンを安く分けてもらう事だった。パーラがゲリラから
    奪った送油管からガソリンを抜き取っているのだ。パーラはそれを市価の半分ぐらいの値で
    ロット(大量)販売し、買った者がさらにそれを小分けして市価の二割引きぐらいで小売り
    するという仕組みだ。
    それにはパーラとの友達コネクションが必要だった。
    友人のハイロは上司にそのコネを作ることを喜んで引き受けた。むろん彼にもコミッション
    が入るからだ。
    サロンの十数席のテーブルは週末の土曜日でもあるので二、三席をのこしてほぼ満杯だ。
    クラウデイオはチューチョとハイロの熱の入った会話に耳を傾けながら時折りサロンを
    見渡していた。すると、開け放された入り口から入ってくる三人連れの若者の顔に釘付け
    となった。そのうちの一人に見覚えがあるのだ。クラウデイオはハッとして、顔を横向け
    背も後ろ向けた。横目でどの席に座るか追っかけた。幸運にもクラウデイオのテーブルの
    周りに空席は無い。対角線でクラウデイオのテーブルの反対側の離れた空席に三人は
    腰掛けた。チューチョはもとより背を向けたポジションである。
    クラウデイオがチューチョに
    “うしろを振り向くなよ”
    と言い、そっと耳打ちをした。
    “ヤツだ、あの盗賊団の野郎だ。鼻から下はハンカチで隠していたが、あのズレ下がった
    目付きと赤毛のクレスポ(独特の巻き毛)に見覚えがある”
    チューチョが低い声でハイロに言う、
    “仔細は後で言うけど、今入ってきてカドのテーブルに座った三人組にオマエ見覚えない
    かい。気付かれんようにソッと見てくれ”
    クラウデイオがテーブルの上に拳をのせ指で方角を示す。ハイロは直ぐに事情を察し、
    何気ないふうをしてチラッと目をやった。もっとも、ハイロは彼ら三人組の正面の
    ポジションに座っているので目をやっても不自然ではない。
    “狭い町や、一人はちょっと知ってる。あれはプータ・バー(女郎屋)の
    カンテイネーロ(バーテンダー)だ。あの右側に座ってる太ッチョだけど”
    斜めから横目でうかがいながらクラウデイオがハイロに言った。
    “その正面に座っている茶色のシャツをきている野郎の名前と住所が知りたい”
    ハイロが応えて、
    “わかった、オレに任せてくれ。奴らの出かけをオレがおそう”
    “エエッ?”、チューチョがハイロにただす。
    “心配するな、友達としてあの太ッチョに近づくんだ。それまでちょいと長逗留だ、冷たい
    ビールをいこうぜ、もっとビールを”
    ハイロがサルネロ(ウエイター)にビールを注文した。
    懐具合がわるいのか、あるいは腹具合でも悪くなったのか、三人連れは一人ビール二本を
    あけ、ものの三十分も経たぬうちに席を立った。彼らが出口から出たところを見計らい
    “あんたらは、ここに居てくれ”
    と言いのこし、ハイロが彼らの後を追った。
    表に出たハイロは三人が別れるのを待って、太ッチョに声をかけた。
    “オーラ エルマーノ!(ヘーイ 兄弟!)、出がけに気付いたがやっぱりあんただった
    かい、どうしたんだい、もう帰るのかい”
    “玉がねえんだヨ、みんなピーピーでさ”
    太ッチョが応えた。
    “ナーンだ、そんな事かい、オレがおごるから一杯いこう。オレもつまんねえ奴らと
    飲んでて話しがあわない、飲み直しだ”
    と、ハイロが手をとらんばかりに太ッチョをバーに連れ戻した。
    太ッチョは
    “エッ、ヘッヘ、それでは”
    と、ご機嫌だ。
    サロンに戻ると、彼らが空けたばかりのテーブルに陣どり、ハイロがビールをダブルで
    (一度に二本ずつ)注文した。
    二人は一気に二本のビールを飲み干した。ハイロがおもむろに口をひらいた。
    “どうだい兄弟、景気は良いかい? いい女が入ったらオレに知らせてくれ”
    “そんな事だろうと思ったよ。パーラはうちの上客、若い家出娘でも入ったら一番に
    あんたに知らせるよ。ところで次のビールたのんでもいいかい”
    “いいとも、ダブルでいけや。ところで、さっき一緒に飲んでた野郎どもは誰や”
    “アー、あいつらか。どうしょうもねえバゴ(なまけ者)どもだ。それがどうかしたかい”
    “イヤー、オレもそう思って、パーラに入れて鍛え直してやろうかと思ってさー”
    “兵隊勧誘かい。止めとけ、あいつらはそういう玉じゃない、もちっこねえや”
    “いいから、名前と住所をおしえてくれよ。ヤッてみなきゃーわからねえ、意外ともつかも”
    “赤毛のクレスポがエルナン・ロンドーニョでサンタクルス村の住人、もう一方の
    モレーノ(半黒の素肌)がカールロス・グチエレスで同じ村の住人だ”
    “あんたとどういう関係だい”
    “ウチのチンケなお客だよ”
     
    ひとしきり世間話をおえて、ハイロはぐったりと酔った太ッチョを促して席をたった。
    一緒に表へ出ると別れの握手を交わし、ハイロはまたサロンに戻ってきた。
    一部始終をチューチョとクラウデイオに報告すると、“ところであの赤毛のクレスポが
    何をしたというんだい”とチュチョに訊いてきた。
    チューチョはおもむろに口を開き応えた。
    “ほかでもねえ、オレの女に手を出したんだ。女と一緒のところをチラッと見かけてナ、
    どこのどいつか調べていたんだ。恩にきるよハイロ”
    “どうりで、太ッチョがアイツはバゴ(女たらしという意味もある)だ、バゴだと
    言ってたよ。オレはまたオマエからエメラルドでも盗んで追っかけられているのかと
    思ってサ、コイツをふん捕まえて隠し持ってる宝ものにありつこうかと楽しみにして
    いたんだ”
    “そりゃー、わるかったな。でも大いに助かったよ。後でゆっくりアイツにお灸を
    すえてやる。今日はビールぜんぶオレのおごりだ。ジャンジャンいこうぜ”
    チューチョが喜んで言った。
     
    その日の夕方には、チューチョとクラウデイオはサンタクルス村のエルナン・ロンドーニョ
    の家へたどり着いていた。玄関先からチューチョが勢いよく叫んだ。
    “オーイ、エルナンいるかー?” 
    “誰ダー?”
    “オレだよ! 一杯やりにいこうぜ”
    “フエー プーター(ちくしょー)どこのどいつだー”
    と言いながら赤毛のクレスポがドアを開けノソノソと出てきた。
    眼前にいる二人を見て驚愕のこわばりが顔に張りついた。
    “だっ、だ、誰だ!オマエら!”
    その時にはすでに黒光りのするクラウデイオの三十八口径S&Wリボルバーが男の腹に突き
    つけられていた。
    “話しがある、ちょっと来てもらおうか”
    クラウデイオが静かに言った。
    ウムを言わさぬ気迫だ、下手に騒げば無論ここで即ド・ドーンである。
    前に停めてあるチューチョの旧式のジープに乗り込ませた。チューチョが運転し、
    男を助手席に坐らせてクラウデイオが背後から羽交い締めにした。クラウデイオの太い腕が
    男の首に巻きつき男は身動きできない。
    クラウデイオが威圧的に男へ言った。
    “テメエらがオレたちを襲った三日後にはもうネタがわれてんだ。おとなしくしやがれ、
    このペンデーホ野郎(バカ野郎)!”
    “し、知らねえ、なんの事や、あんたら誰や”
    “トボケるんじゃねえ! 馬鹿野郎! あくまでシラをきるんじゃ、ここで一発おみまい
    してオレたちや引き上げるぜ”
    とクラウデイオが威喝して右手のスミス&ウエッソンを男のこめかみに押し付けた。
    “ヒャーッ、殺さんでくれ! 殺さんでッ! 何でも言うから”
    “じゃ、もうスッとぼけんじゃネエ。調べは全部ついてんだ。オマエの名前は
    エルナン・ロンドーニョ、サンタクルス村の住人。だからこうしてオメエに会いに
    来てるんじゃねえか”
    ひょっとして人違いだったら大変だと思い、クラウデイオは上手に確かめている。
    “それでセニョール、殺されないために何をすればいいんだい、オレは?”
    “オマエやオマエの仲間を一人ずつ探し出して殺している暇などねえや。オレたちが
    知りたいのはムッソーのどいつが手引きをしたかだ。こんな遠くからシノギに
    行ったんだろう、ムッソーにつなぎが居るはずだ。放っときゃ、また仕掛けやがる。
    ソイツを言やあオマエの命は助けてやる”
    “本当に助けてくれる? 後でどうせ殺すんじゃないの?”
    “テメーら盗ットと違ってオレたちエスメラルデーロに二言はねえ。ただしウソはつくな”
    “本当のことを言うよ。ウソついてもすぐにバレるし、また殺しに来られちゃかなわない。
    でもオレが言ったとは誰にも言わないでくれ”
    “心配するな。そんなことすりゃ、オマエが仲間に殺されることはわかっている”
    “じゃ、言うよ。ルイス マエチャだ”
    “あのフラコ(痩せ男)野郎か?”
    “そうだよ、フラコ ルイス”
    “アイツは前にオレたちと商売して大損こいてやがる”
    “そうだよ、それを恨みに思ってオレたちにつないだんだ”
    “ほかに、何かあるか”、
    とそれまで黙ってやりとりを聞いていたチューチョが促した。
    “あんた方も聞いてると思うけど、襲撃のとき待ち伏せしていた側に一人殺されたのがいる”
    “…らしいな”、とさも知っていたかのようにチューチョが相づちをうった。
    “前で応戦したグリンゴ(北米人のことでデイブのことをさす)かチノ(東洋人)の
    どちらかの弾が胸に当たったんだ。それでソイツの弟が二人を殺ろうと狙っているよ”
    “どういう男だい?”、チューチョが続けた。
    “二十歳ぐらいで背の低いずんぐりしたモレノ(半黒)だよ”
    “そうかい、いい知らせだ、ありがとう。あんたにもう危害は加えないよ。じゃ、家まで
    送っていってやる”
    “すまない、ありがとう。襲撃して、わるかった”
    “いいんだよ、恨みに思っちゃいねえ。みんな、食うためだ”
    チューチョが締めくくった。
     
    ボゴタに帰ったクラウデイオとチューチョがさっそく私のオフイスにやってきて私とデイブ
    にプエルト・デ・ボヤカでの出来事をつぶさに語った。
    デイブも私もつねひごろから、狙撃されるようなポジションは取らぬよう最善の努力は
    しているが、なおも用心すべく気持ちを引き締めた。
     
    その数日後の週末、私とデイブはムッソーのプラサでムーロ(公園の仕切りの低い土塀)に
    腰掛け肩を並べて相変わらずの原石買い付けをしていた。そこへ笑顔でやって来たのが
    くだんのルイス・マエチャであった。コイツは儲け分を折半したくないので誰ともソシオを
    組まずいつも一人だ。フラコ(痩せた)の身体にTシャツがダブダブでその下に銀色の
    三十八口径リボルバーを携帯している。
    いつものようにジーンズのポケットから白いハンカチ包みをとりだした。汚いハンカチを
    広げると中から五、六個の色の薄いエメラルド原石が出てきた。
    “こんな低級品じゃ話しになんねえ”
    と私が言うと、
    “ロットのカベサ(商品の頭の部分)はウチ(家)に置いてある”
    とルイスが応えた。
    “じゃ、待ってるからそれを持ってこい”
    と私が言うと、
    “大量な上等品だから危なくて持ち歩けねえ、よければ見に来ないか”
    と彼は言った。
    それはよくあるケースなので、
    “しょうがねえ、行ってやろうか”
    とデイブが私の方を見ながら言った。
    “あー、いいよ”
    と私も応えた。
    前にも同じようなケースで彼の家に行ったことがあるので、家の場所はわかっている。
    彼は村の外れの小さな農家を借りて一人で住んでいた。商品は家の中の天井裏とか縁の下
    とか独特な場所に隠してあるのだ。
    “ここでの商売が暇になったらボチボチでかけるよ、四時ぐらいになあ”
    と私が言うと、
    “これは借りた商品だから午後にはオーナーに返さなければならねえ、今行こうぜ”
    と応えた。
    “しょうがねえな、この前損させたから今度は儲けさせてやんなきゃならねえ。
    行ってやるか”
    と言いつつデイブがムーロ(塀)から腰を上げた。私もつづいた。
    プラサから五角ほど行った川沿いの道を上りルイスの家の前に来た。
    開けっ放なしのドアからルイスが先に入っていった。その背後にピタリとくっ付き私が
    つづいた。デイブも左右に用心しながら私の後につずいた。無論、私もデイブも腰の拳銃に
    手をかけていた。家の中に入るや否や、ルイスが左へ横っ飛びに跳んだ。
    遮るものがなくなった私の眼の前に一人の男が拳銃をかまえて立っていた。
    予想出来る展開ではあったが、コイツの銃が火をふくのが、私が腰から抜きだして撃つの
    よりもはやいと無念にも直感された。
     
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