結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年11月27日 Vol.348
はじめに
結城浩です。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
Web連載「数学ガールの秘密ノート」に新キャラ「ノナちゃん」が登場したというお話を先週の「結城メルマガ」に書きました。先週の金曜日にはノナちゃんの登場第2話目が公開されました。今回も読者さんに楽しんでいただけているようです。感謝です。
◆第242回「数学ガールの秘密ノート」無限のキャンバス(後編)
https://bit.ly/girlnote242
第241回と第242回を読んでくださった読者さんが、数学苦手な新キャラ「ノナちゃん」にエールを送るブログ記事を書いてくださいました。感激です!
◆「数学ガールの秘密ノート」最新話241-242回が禁断のヤバみーー数学という権威、暴力、あるいはノナちゃんは銀色サヴァンなのか
http://modernclothes24music.hatenablog.com/entry/2018/11/23/104450
最近の結城は、Web連載でも「結城メルマガ」でも《自分の理解に関心を持つ》ことに関心があります。先月配信のVol.344でも《自分の理解に関心を持つ》ということについて書きました。
◆Vol.344「本当にいい勉強法を知りたい」(note)
https://mm.hyuki.net/n/na2e5c2dc0cf8
◆Vol.344「本当にいい勉強法を知りたい」(ブロマガ)
http://ch.nicovideo.jp/hyuki/blomaga/ar1690642
今回の「結城メルマガ」でも、もう少し別の角度から《自分の理解に関心を持つ》について書きました。ぜひお読みください。
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ShowyEdgeの話。
ShowyEdgeというのは日本語入力モードのときに画面の一部に「色つきの太線」を表示するMacのツールです。
◆ShowyEdge
https://pqrs.org/osx/ShowyEdge/
ShowyEdgeはKarabinar-Elementsの作者 @tekezo 氏によるソフトです。現在日本語入力モードかどうかを画面に「カラーバー」を表示して教えてくれるもの。自分の意識では英単語やプログラムやコマンドを入力しようとしてたのに、キーを打ったら日本語が出てがっくりというのを防げます。
逆に、日本語入力をしようと思ったけど日本語入力モードになっていなくて「日本」と入力しようとして「nihon」と入力しかけてバックスペースを連打するということも防げます。
ShowyEdgeはそういう状況を軽減するためにあるツールです。画面の一部に「カラーバー」が表示されることで、それを目の端でとらえることで「あ、いまは日本語入力モードじゃないな」ということがわかるという仕組みです。
そのはずなんですが……どうもうまくいきません。目の端でとらえるのが苦手なのか、夢中で入力しているときにはそんな意識にならないのか。
そこで先日からShowyEdgeの設定を「画面全体」にしてみました。画面の一部じゃなくて、画面全体に色を着けちゃおう!というのです。
画面全体に色を着けて文章が見えなくなってはまずいので、色を半透明にしています。最初は違和感があったのですが、慣れてみると意外にいい感じです。日本語入力モードのときは画面全体がほんの少しシアン系の色になるようにしています。
ShowEdgeを「画面全体」にしたときの様子をスクリーンショットとってみました。日本語入力のときは全体が薄い青になっているのがわかるでしょうか。ターミナルだけではなく任意のアプリ上で動きます。
一日文章を書いている身としては、ちょっとした改善でも重要なのです。
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十面ダイスの話。
私たちがふだん使っているダイス、つまりサイコロは六面あります。ある方から「十面ダイス」という言葉を聞きました。十面ダイスということは十面あるサイコロですね。
ちょっと待って。十面あるサイコロ?
ダイスが六面なのは立方体すなわち正六面体だからですよね。各面が正方形になっていて対称性が高くてどの面も均等に上に来ることが期待できる。だからサイコロは六面。六面ダイス。
十面ダイスって可能なんでしょうか。
正多面体は五種類しかありません。正四面体、正六面体(立方体)、正八面体、正十二面体、正二十面体。うん、正二十面体を利用すれば実質的に十面を持つダイスは作れますね。同じ数字を二回だぶらせて書けばいいのです。でも、立体としてちょうど十面だけ持つサイコロなんて作れるのかな。
しばらく考えても「十面ダイス」が想像できなかったので、Wikipediaを調べてみました。「ねじれ双角錐」という形状を使うみたいです。言葉で説明すると、正五角錐を二つ用意して底面を貼り合わせ、さらにぎゅーっとした立体です(図を見てください)。正多面体ではありませんが、確かに対称性はありそうですが、フェアになるかどうかは私にはわかりません。十面ダイスは、TRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)などでランダムな要素が必要になるときに使うそうです。
ところで図形と言えば数学。数学を学ぶときに、図形が得意な生徒と不得意な生徒がいます。平面図形は得意だけど、立体つまり空間図形が不得意な生徒もいます。結城は図形はそれほど得意ではありませんでした(いまでも同じですが)。
そのことを実感したのは今年の春に刊行した『数学ガール/ポアンカレ予想』を執筆しているときです。どういう図版を作ろうか考えたり、実際に図版を作ったりするとき、とっても時間が掛かるからです。
◆『数学ガール/ポアンカレ予想』
http://www.hyuki.com/girl/poincare.html
不得意ではあるのですが、文中に登場する語り部の「僕」のように、四次元の立体について想像を巡らせるのは小さい頃から好きでしたね。トポロジーの本も何冊か買って読んでいました。小学生のころで、教えてくれる人も誰もいなかったので数学はさっぱりわかりませんでしたが、不思議な図形をながめているのは楽しい経験でした。そういう謎な読書を放置してくれた親には感謝ですね。
ユニークな本を紹介します。『トポロジーの絵本』は、ぐにゃぐにゃした不思議な立体がたくさん出てくる数学書です。どうして絵本かというと、立体をどのように描くかを解説している本だからです。
◆G.K.フランシス『トポロジーの絵本』
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4621062182/hyuki-22/
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空間把握のゲーム「.projekt」の話。
空間図形の話が出たので、パズルゲームを一つ紹介します。「.projekt」という名前で、投影されたシルエットからサイコロの積み重ねを推測するというミニマルで素敵な知的ゲームですね。
◆.projekt
http://stampedegames.net
◆.projektの紹介動画(YouTube)
https://youtu.be/JoIbcR5959c
図形感覚というよりも論理感覚が試されるのかもしれません。難しそうですが、何回かやっていると正面図と側面図の両方を眺めながらサイコロ積んでいくのが楽しくなります。
初めのステージでは単に積み重ねをするだけですが、後の方になると同じシルエットで「最大何個詰めるか」や「最小何個まで減らせるか」という挑戦がやってきます。これが楽しい。三次元空間で、どのサイコロがどのサイコロの影になっているかを考えることになるのです。
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ではそんなところで、今回の結城メルマガを始めましょう。
どうぞごゆっくりお読みください。
目次
- 受験前、時間を掛けられなくてもじっくり勉強すべきか - 学ぶときの心がけ
- メモなどの管理はどうしていますか - 仕事の心がけ
- C言語の本を書いた理由 - 本を書く心がけ
- 《自分の理解に関心を持つ》とは - 学ぶときの心がけ
受験前、時間を掛けられなくてもじっくり勉強すべきか - 学ぶときの心がけ
質問
先日Twitterで、結城さんが学ぶことに関する質問に答えているのを読みました。
ところで、時間がない状態でも、じっくり勉強をすべきでしょうか。
たとえば「もうすぐ受験を控えているのに数学ができず焦っている。とうてい時間を掛けてなどいられない!」という状態でも、じっくりと勉強を地道に進めて行かなければならないのでしょうか。
回答
ご質問ありがとうございます。
理解するまで時間を掛けて勉強しなければ理解できないし、でも時間を掛けすぎたら間に合わないし、という話ですよね。
一般的に答えるのはなかなか難しい質問です。勉強をどのくらいじっくり進めるかというのは、どうしても程度問題になってくるからです。
「理解しなくても解法パターンを暗記して解けるようになればいいじゃないか」という考え方はあります。実際、受験の問題でも、あまり理解せずに解法パターンでちゃちゃっと解ける問題はあるでしょう。でも、それは、他の受験生にとっても同じようにちゃちゃっと解ける問題とも言えるわけです。
一般的に答えるのが難しいというのは、あなた(あなたの話ですよね?)が、どのくらい大きなチャレンジの受験をしようとしていて、現在がどういう状態で、数学以外のほかの科目はどうで、受験しようとする学校での数学の配点はどれくらいで……。「どのくらいじっくり進めるか」は、そういったことを総合的に考えて、あなたが判断することになります。
そういう総合的判断は、あなただけに課されてるわけではありません。多くの受験生も同じように悩み、焦り「時間がない!まだこれができない!どうしよう!」と思ってるはずです。
「解法パターンの暗記で合格できる」という人のアドバイスがあったとしても、どこまで真に受けられるかはわかりません。「暗記で乗り切った」という人自身、暗記で乗り切ったつもりでいるけれど、しっかり解法の意味について考えていた可能性も高いでしょう。また、基礎ができていてその上に解法パターンを「暗記」するのと、基礎ができていない状態で解法パターンだけを「暗記」するのとでは、「暗記」の意味はまったく違うことになります。
学びや理解はとても個人的な話で、参考にはなりますが確実なことはいえません。「じっくり」「地道」「暗記」「時間をかける」「時間がない」という表現を精密に、しかも現在の自分に対して具体的に考えないと、一般的なアドバイスは役に立たないはずです。
いずれにせよ、焦っても成績は上がりません。深呼吸をして、焦る心を何とか鎮め、残りの時間でやるべきことをしっかり考え、それをこなしていきましょう。他の、多くの受験生たちと同じように。
すみませんが、受験に関して私に言えるのはそのくらいです。
がんばってください。
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