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あしがる 第五話「たそがれのそれがし」
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あしがる 第五話「たそがれのそれがし」

2017-01-06 02:08
    件の村からほど近い佐川という小さな城下町、足軽の詰所はその一角にある。
    つばめはその暗く狭い廊下を歩いていた。


    「手練だと聞いている。是非とも某(それがし)の隊に迎え入れたいところだ」


    そう語りかけるのは、並んで歩く足軽頭の兵庫介である。
    二人は道すがら家族のことや、村でのことなどを話しているうちにすっかり意気投合していた。

    この兵庫介一見仕事一筋で真面目そうな男ではあるものの、これが随分と熱心に話を聞いてくるのである。
    つばめもいい気分になって父の武勇伝などを語っているうちに、喉がカラカラになってしまった。


    「着いたぞ、今日からここがお前の部屋だ。好きに使ってくれ」

    「本当に何から何までありがとう、兵庫」

    「礼を言われるようなことではない。これも某にとっては仕事のうちだ」


    そう言ってつばめにあてがわれたのは石造りの小部屋である。

    調度品は薄いゴザが一枚に小さなオケが一つ。それ以外には何もない。
    ミニマミストもびっくりの極端にシンプルな部屋だ。

    やけに高い位置から見下ろしてくる明かり取り用の小さな窓には、樫の格子がはまっている。

    出入り口とお揃いの格子は、押しても引いてもビクともしない。



    「これ牢屋じゃん!」


    「そうだが?」


    どこからどう見ても独房である。
    つばめはまるで檻に入れられた猿のように格子にしがみついて叫んだ。


    「そうだが? じゃないよ! 話が違うじゃないか!」

    「お前もあの村の一味であることにかわりはない。沙汰が下るまでそこで大人しくしておれ」

    「おおん!? 隊に迎え入れたいとか言ってたじゃん!」

    「それは嘘偽り無い本心だ。叶うかどうかは別だがな」


    そう言うと兵庫介は足早に暗い廊下を後にした。
    残されたのは檻に入ったマヌケが一人。


    「わーーーん! ここから出してぇーーーっ!」


    みじめな叫び声が、小さな窓から青い空へとこだました。

     
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