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[MM日本国の研究835]「東浩紀との対話」
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[MM日本国の研究835]「東浩紀との対話」

2015-02-19 18:26
    ⌘                  2015年02月19日発行 第0835号 特別
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     ■■■    日本国の研究           
     ■■■    不安との訣別/再生のカルテ
     ■■■                       編集長 猪瀬直樹
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    「東浩紀との対話」

    『救出 3.11気仙沼 公民館に取り残された446人』が発売を記念して2月
    18日水曜日、東浩紀さんと猪瀬直樹がゲンロンカフェで対談しました。本日の
    メールマガジンではそのほんの一部を、特別掲載します。

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    ○東 多くの人はこのタイトルから、きっと猪瀬さんが気仙沼の人たちを救っ
    た話を猪瀬さん視点で思い出として書かれていると思われるのではないかと思
    います。実際読まれるとわかるんですがまったく違う本で、ほとんど猪瀬さん
    の話は出てきません。猪瀬さんが気仙沼に取材したドキュメンタリーです。

     僕もいま言ったような本だと思っていたので、最初「えっ」て思ったし、そ
    してつづけて読んでいくなかで、これは政治家になる前のジャーナリストだっ
    たときの、そのときに書かれた文体、取材姿勢みたいなものが戻ってきている
    ということで、猪瀬さんの古くからの読者だった僕としてはすごくおもしろく
    読ませていただきました。

    ●猪瀬 これは気仙沼の中央公民館に逃げ込んだ446人がどうやって生き残
    ろうとしたか、がテーマです。ツイッターの話も密接にからんでくるんですが。
    『救出』というタイトルになっていますが、あとになって「脱出」というタイ
    トルにすればよかったと思ったのです(笑)。

     446人が一晩、すごい経験をしながら生き残る物語を書いてみたいと。つ
    まり、リーダーが不在とか、ビジョンが見えないとかいうなかで、それぞれひ
    とりひとりがどうやって協力しあって、助け合って、工夫しあって生き残るの
    かというその姿を描こうと思ったのです。

    ○東 ネタバレしないように話すのが難しいのですが、鈴木さんというオフィ
    ス機器の据え付けをする下請け業者の社長さんが登場しますね。

    ●猪瀬 事務機器のオカムラという会社がありますね。事務所の引っ越しや新
    築のときに最後の工程としては、できあがったスペースに事務機器の組立てを
    やる、そういうオカムラの下請け零細企業の社長なんですが、なんでここにあ
    らわれるのか。

     3.11の晩、鈴木さんたちが東京で事務機を据え付けていたらものすごい
    揺れて、それで仕事をやめて帰ろうとするのですが、その途中でツイッターを
    見る。すると、こう書いてある。

    「障害児童施設の園長である私の母が、その子供たち十数人と一緒に、避難先
    の宮城県気仙沼市中央公民館の三階にまだ取り残されています。下階や外は津
    波で浸水し、地上からは近づけない模様。もし空からの救助が可能であれば、
    子供達だけでも助けてあげられませんでしょうか」

     書いたのは、この気仙沼の園長さんのロンドンにいる息子が母からのメール
    をキャッチして投稿したものだった。母は「火の海 ダメかも がんばる」と
    書いて異国にいる息子に送っていたのですね。

     ロンドンの息子が状況説明をした文章がツイッターに書かれる。それを鈴木
    さんという零細企業の社長さんが僕におくりつける。そこで僕が消防の防災部
    長を読んで、これはほんとうだろうかと相談する、そして翌朝、東京消防庁の
    ヘリが気仙沼の公民館に飛ぶのです。

     その公民館に一晩逃げ込んだひとたちは、十数人と思われたが、じつは44
    6人もいた。

    ○東 猪瀬さんが気仙沼にヘリを飛ばしたのは有名な話で、何度も報道されて
    いるからご存じの方もいると思うけれど、まったく別の視点から書かれている
    本で、これを読んでわかるのは、気仙沼にはいろんな人がいて、がんばって津
    波への対処もしっかりしていて、こんなふうに生き残ったのだというのが人間
    ドラマとしてかなり分厚く描かれている。

    ●猪瀬 気仙沼というのは東京からいくと仙台からさらにひと山越えて一関ま
    で行き、さらにそこからローカル線かバスを乗り継いでさらに一時間以上、そ
    れでやっとたどりつく。東京から見るとかなり僻地に見える。三陸という言葉
    は、東北の果てのような、「陸前」「陸中」「陸奥」ですね。ローカルな場所、
    そう僕も思っていた。しかし気仙沼に行って仮設店舗でサンマ定食を食べたの
    ですが、その店は「割烹世界」という料亭で、その壁に飾ってある写真が津波
    に流される前の昭和4年にできた、石灯籠のあるような赤坂にあるような高級
    な店構え。

     なんで「世界」なんだろう。それで気仙沼の歴史を調べていくと、江戸時代
    は寒村だったが、大正には船にも発動機もつき、昭和になると遠洋漁業に出て
    いくようになる。気仙沼にはスペイン語ぺらぺらのおじさんがいたりする。日
    本列島を地図におくと、陸地をポジで見ている。でもネガとポジを逆にすると、
    気仙沼から世界に広がって行ってる。そこに「割烹世界」という料亭があり、
    世界中から人がきている。いまでいえば空港のような役割を気仙沼は持ってい
    ると気づくのです。

    ○東 東北地方は東京から見ると辺境に見えるのだけれど、太平洋に面してい
    る岬の突端のような面がある。だからこそ津波がそこを襲うわけです。象徴し
    ているのが仙台空港で、震災後調べて初めてしったのだけれど、シアトルー仙
    台便というのが太平洋をわたるにはじつは距離がいちばん短い空港になってい
    る、だからけっこう貨物便がくるらしいんですね。

     また昔、福島県南相馬の原町というところに「原町無線塔」という巨大な無
    線塔があったことがあるのですが、それもやはりアメリカ大陸にもっとも近い
    ということなんです。

     つまり東北というのは日本列島だけみているとわからないけれど、もっと離
    れてみると、ユーラシア大陸の岬の突端なんですよね。いちばん、アメリカ大
    陸に近い場所。だからこそ気仙沼にも外国航路の船があるし、日本のなかでみ
    るともっとも奥まったところに見えるが、世界から見るともっとも世界に開か
    れている場所に見える場所だったりする。

    ●猪瀬 気仙沼から世界を見ると、日本は海洋国家なんです。

    ○東 この本を読んで思ったのは、ほんとうに「昔の猪瀬さんに久しぶりにあ
    った」という感じだったんです。途中がどうだったということではなくて、僕
    は「ミカドの肖像」で猪瀬さんのことを最初に知って、それでファンになった
    のですが、最初、東京都心をよくみるとプリンスホテルがいっぱいあるがあれ
    はいったいなんだろうというところから始まって、最後にロンドンに行くんで
    すね。それと似たようなところがあって、最初は東京の震災の話からはじまっ
    て、気仙沼のいろんな話があって、最後はロンドンにたどり着くんです。

     東京の市井の庶民を掘っていくと、ぽこっと底が抜けたみたいにしてロンド
    ンにたどり着くようなところが、「ミカドの肖像」を読んだときの不思議な感
    じに似ている気がしたんです。

     ロンドンに行ってしまった息子さん、内海直仁さんは、気仙沼就職でしても
    よかったのにしないで語学留学だと行ってイギリス行っちゃって、むこうでジ
    ュエリーデザイナーとして活躍されているんですね。宝石職人としてのインタ
    ビューがネットでもヒットします。その方がいたおかげで、気仙沼のひとたち
    が助かった。

     運命の皮肉というか、この人のツイートを多くの人がパスするなかで、これ
    を猪瀬さんに送った人が、かつてヤンキーだった零細企業の社長だったりして、
    社会の複雑さのようなものがこの一件の事例から見えてくる、非常によいノン
    フィクションだと思います。ぜひ多くの人に読んでもらいたい。

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    ■猪瀬直樹が「755」をはじめました。
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