そうです、フジテレビ木曜22時枠のドラマの話。前のクールでは『最高の離婚』をやっていた枠ですね。『最高の離婚』が本当に最高なドラマだったので、ぼくとしては『ラストシンデレラ』にあまり乗れなかったのですが、世間的にはこっちの方がはっきり言って盛り上がっています。ウナギノボーリとはフジテレビのこの春のドラマのキャンペーンワードですが、まさかここまでノボーリとは。関係者の皆さんもホッと胸をなで下ろしてらっしゃることでしょう。
このドラマ、第一回から第七回まで視聴率がじわじわですが上がり続けたことも秘かに話題になってました。普通は第一回の後、二回目三回目あたりは落ちるものですよね。そのあと最終回に向かって再び上がっていくか、そのままズルズル下がっていくか、が成否を分ける。ドラマはそういうものでした。ところが、下がりません『ラストシンデレラ』。それどころか上がり続ける。第八回で少し下がっちゃったんですが、第九回第十回とまた上げ基調になりました。びっくりですよ。
下がるのが普通なのに、なんで上がってるんだろう。「実に面白い!」というわけで、今回はそこを推理してみたいと思います。でも湯川先生みたいに物理で解けるはずもないので、推測の域を出ませんが。そう、あくまで推測だと思ってくださいね。いい加減なことを言うなとか言わないでください。だっていい加減な推測ですから。
まずこのドラマ、予告スポットで「ちょっとエッチな」と言いはじめました。そして確かに、三浦春馬くんがけっこうエッチな、肌をあらわにするシーンを演じてくれています。これはぶっちゃけ効いたんじゃないかな。もう皆さん気づいてると思いますが、このところ、ドラマで肌をあらわにする男子が多いです。最初はたぶん『八重の桜』で西島秀俊さんが小柄ながらムキッとした上半身をさらけ出した時だと思います。『ダブルス二人の刑事』では伊東英明・坂口憲二の、まだまだ若いやつらにゃ負けんぜよコンビが揃って肌をさらけ出しちゃってました。でも誰も「ちょっとエッチな」とまでは言ってない。ある程度のエロ規制コードを持つ地上波テレビから「ちょっとエッチな」という言葉が出てくるのはかなりインパクトあるんじゃないでしょうか。フジテレビのYouTube公式チャンネルには『ラストシンデレラ』のダイジェスト映像「〜お色気編〜」というのがアップされていて、180万回再生されています。ドラマのプロモーション映像としてはあり得ない数です。
このドラマの「ちょっとエッチな」要素が、視聴率を担うF2層を少なからず刺激したのはまちがいないとして、それだけでこの異例のウナギノボーリは説明完了でしょうか。いやいや、推理するといったのですからそれで済ましてはいかんでしょう。最近はステータスも出てきたこの“あやとりブログ”の原稿としてはもっと深堀しなきゃ怒られそうです。
ところでぼくはこの2月に新しい録画機を買いました。いまホントに安くなりましたね。1テラ3チューナーで6万円台でした。1テラもあってチューナー3つもあると、もうほとんど録画し放題です。全録機ではないけど、気分は全録ですね。ぼくはドラマが好きなので、気になったのはどんどん予約しちゃう。そうすると、おや?ドラマの視聴パターンが変わってきたぞ。前はね、できるだけ第一話を生で観てたんですね。で、よさそうなものを第二話以降も観る。他は第二話以降、サヨナラしてた。
ところが、1テラ視聴だと、第一話をシャカリキに観る必要ないんです。余裕です。どれをいつ観てもいいんですから。
ところがところが、そうなると今度は、どのドラマを観るべきかさっぱりわかんなくなっちゃう。いつでも観れると思うと、どれを観るか逆に慎重になるんですね。それで、うーん、とテレビの前で考え込んで、結局どれも観なかったりとか。
そこに「あのドラマいいらしい」という情報が入ると、そこに突き動かされる。よっしゃ!そのオススメもらった!自分に自分できっかけが与えられて、観よう!となる。何しろ、ドラマ好きなのでどれかは観たいわけです。「いいらしい!」の情報源はもちろんいまはネットですね。Twitterとか、ニュースサイトなどの話題とか。
そこではたと気づくわけです。こういう行動をものすごくたくさんの人がはじめているとしたら。1テラDVRをいま、そこいら中の人が買っているわけですよ。さらに主婦層のスマホ率が半分を超えたとかいうニュースも聞きました。ドラマ視聴率のキー層、F2がどんどん録画して、どれがいいの?どれが面白いの?と探し回ってると「あのね、ラストシンデレラ。三浦春馬くんがね」「キャー!ちょっとエッチな、とか言ってるもんね」そんな会話になっていくわけです。そんな会話をスーパーで会っちゃ話し、メール上の井戸端会議のネタになり、最近はじめたtwitterでも話題にしちゃったりなんかする。
Twitterについてはデータをお見せしましょう。NECさんが“感°レポート“というソーシャルメディア分析ツールを出しています。Twitter上で『ラストシンデレラ』がらみのつぶやきの件数を4月から6月初旬まで折れ線グラフにしてみました。
どうでしょう?視聴率と同じでウナギノボーリなのが一目瞭然ですよね。視聴率データと重ね合わせるとなんとなーく相関性が感じられます。ぼくは視聴率とtwitterの関係をこれまでずっと見てきましたが、相関性はないなあ、というのが結論でした。ところが『ラストシンデレラ』にはそこはかとなく相関性が見いだせなくなくもなくもない。
相関性はともかく、このドラマに関する口コミがノボーリなのはまちがいありません。予感としては、この後最終回に向かってさらにノボーリしちゃいそうです。
録画と口コミ。これがいま、ドラマ視聴に多大なる影響を与えている。そうぼくは考えています。ドラマだけですよ。なぜなら、ドラマは録画視聴されやすいジャンルだから。
もう一度説明すると、テラバイトサイズのDVRに気になるドラマをどんどん放り込む。どれ観ようかなーと悩む。スマホで番組に関する口コミが大量に押し寄せる。その中でパワーを持つレコメンに引っ張られる形で視聴しちゃう。
あ、そうだ。もうひとつ、推理があった。そういう情報に囲まれると、すごく観たくなる現象が起きます。さっきのように「春馬くん!」「キャー!」と話題にすると、次回はもう観たくて観たくて仕方なくなるんです。観たくて仕方なくなると、余裕のテラバイトで予約ちゃんとしてあるのに、ライブで観たくなるんです。いちばん早く観れる時間、つまり放送時間に観たくなるんです。
そういうのってあるじゃないですか。ホットな話題になってるものは、いち早く手に入れたい。iPhoneの新しいのとか、『アバター』公開した時とか、なんだかもう「今でしょ!」になったりするじゃないですか。ドラマを録画しやすくなった状況が、逆に話題のドラマの「今でしょ!」感を高めているのだと思います。
もうひとつ別の図をお見せしますね。
ソーシャルメディアが普及して、ソーシャルメディア上での口コミが起きてきた。それによって生活の中での口コミが加速しパワフルになったんだと思うのです。この図は何かの調査の成果というより、生活実感ですね。ぼくのまわりでこんな風に口コミが飛び交うようになった。だから、ソーシャルメディアだけですべてが解決するわけではない。でも口コミのハブとしてのソーシャルメディアの重要性はどんどん高まっているでしょう。
こういう見方をすると、いろんなことが言えそうです。プロモーションのやり方とか、番組企画の立て方とか、見直す部分があるかもしれません。ぼくとしても、だったらこうなのかな、ああかもしれないな、などと考えています。そして考えていることを実際に、テレビ局の皆さんの役に立つような形で実行してみたいな、などとも思っています。
気になるなあ、という方は、ご連絡ください。相談しましょう。
というのも、そういうことも仕事にしていこうと思っているのです。実はこの6月末で、今いる会社を退職してフリーランスになります。もともとぼくはコピーライターなので、広告を作ったり、プロモーションの全体像を企画したりする仕事をしていきます。そのあたりは自分のブログでも書いています。
それとは少し違う形で、言葉にすると怪しいですがいわゆる“コンサルティング”を仕事にしたいなと思っています。この数年、テレビについて、コンテンツビジネスについて考えてきました。だからこそできる、お手伝いがあるんじゃないかと思います。メールしてもらうなり、Facebookで声をかけてもらうなり、していただければ返信します。
境 治 プロフィール
フリーランスのコピーライターとして長年活動したのち、映像製作会社ロボット経営企画室長・広告代理店ビデオプロモーション企画推進部長を経て再びフリーランスに。2011年7月に『テレビは生き残れるのか』を出版。
ブログ「クリエイティブビジネス論」:www.sakaiosamu.com
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by 境 治