今年の6月から、ソーシャルテレビ推進会議という有志の集まりに参加しています。
ソーシャルテレビ推進会議というのは、メディアストラテジストの境治さんが発起人となって構成された有志の集まりで、放送局・広告業界・WEB業界の人間が「放送と通信、マスメディアとインターネットの融合を日本で推進し、活性化させること」を理念として定期的な情報・意見交換を行なっています。
「理念」として掲げているので、抽象的な物言いになっていますが、実際スタート当初は具体的な目指すものが見えているわけではなかったので、こういう書き方になったのでしょう。
しかし、会合を重ねるうちにおぼろげながら何を目指すべきなのか、少しずつ見えて来たように思います。現在のテレビを取り巻く環境、ビジネスモデルに何が足りていないのか、ソーシャルメディアがそれに対して何ができるのか。端的に言ってしまえば、ソーシャルメディアとテレビが融合の形を目指すこの会合の目標は、番組(コンテンツ)の価値を計る指標として、視聴率以外の指標を形作れるか、ということになるんじゃないでしょうか。
番組編成において視聴率は絶対の指標
放送局に努めている方にお話を伺うと、番組編成において視聴率は絶対の指標だと言います。
ここにもし、視聴率以外に番組の価値、または影響力を図る指標があったらどうなるでしょう。
お金を出すスポンサー側からすると、視聴率が唯一の指標。しかし、視聴率はどれだけ広く情報がリーチしたかの指標にはなりますが、CMなどで発した情報がどれだけ深く視聴者にささったかの指標まではわかりませんし、番組やCMに対して具体的にどんな印象を持ったのかまでは視聴率には反映されません。
ネットにも炎上によってPVがあがる現象がありますが、テレビにもそういう現象がないとは言えないでしょう。人は番組に対してポジティブな評価を持って視聴しているか、ネガティブな評価を持って視聴しているかは視聴率ではわかりません。
あるスポンサー企業の方がおっしゃっていました。震災後に通常番組を再開する時、どんな反応があるのか、非常に気になった、と。「こんな時に通常のバラエティなど流すのか、まだ早いだろ!」という反応が多いのか、それとも「気分転換になるし、通常番組が戻ってよかった」という反応が多いのか、とても気にしていたのですが、視聴率という結果ではそれがわからなかったと。そこで独自に独自にTwitterなどのソーシャルメディアをエゴサーチしたところ、ポジティブな反応が多くて一安心だったということです。
この時は肯定的な意見も多く、スポンサードしたかいがあったかもしれません。が、この時視聴率は通常放送と変わらなくてもネガティブな意見の方が多かったとしたら、それはどんな風に評価されていたのでしょう。
「視聴質」を計ることができれば、番組作りにも大きな変化をもたらす
視聴質の議論は随分前から行われています。しかしWikipedia「視聴質」の項にもある通り、何をもって評価するべきかの指標が存在しません(番組アンケートを募るぐらいか)。しかし、今はまだ日本におけるソーシャルメディアもインターネットの利用の仕方も発展途上であるので、ボリューム感が半端な状態にありますが、全体の利用者数がより増えれば、ソーシャルメディアは視聴質を計る指標になり得るのかもしれません。
オリンピック期間中は、ソーシャルメディアも多いに盛り上がったし、ジブリの映画放送の際には毎回ツイッターも盛り上がります。
ソーシャルメディアがテレビに与える影響は、こうした視聴側の習慣の変化だけに留まらないのではないでしょうか。作り手の意識変化とスポンサー側の要求にも変化を与える可能性があると思っています。
例えば、最近では「ソーシャル視聴」という、番組を見ながらスマホやタブレットでツイートしながら楽しみ習慣が一部には定着しつつありますし、NHKのニュースWEB24などの番組ではそれを取り入れた番組作りを行っています。
スポンサーの意識も変化するのでは?
最大公約数的に製品を売ることが以前ほど簡単ではなくなってきているこの時代、スポンサー側も番組に対して視聴者のロイヤリティは如何ほどなのかを問う時代になってくるのではないでしょうか。
例をあげて言うと、時折ニュースやワイドショーで捏造や誇張表現などがあると、ネットで叩かれたりしますね。なぜニュース番組は捏造や誇張をする動機が働くのかというと、一言で言ってしまえば、センセーショナルな方が視聴率を取りやすいから。現在では、番組の成否を計る指標が瞬間的な視聴率しかないという状態が、捏造や誇張表現に対する動機を生み出している可能性があるのではないでしょうか。
しかし、もし番組中、ないし放送後にそのような恣意的な番組作りに対して、ネットでネガティブな意見が集約され、それが根拠あるデータとして提示されたらどうなるでしょう。
安易にセンセーショナルを煽る番組作りはしにくくなり、報道の質もあがるかもしれません。逆にツイッターなどでセンセーショナルに乗っかるような意見ばかり集約されたら逆効果になる可能性もあるけど。。。
あるいは、TBSドラマのSPECは視聴率はあまりふるいませんでしたが、2時間特番が放送された際にはツイッター上では大きく盛り上がり、個性的な内容もあって根強いファンを獲得しています。他のドラマ作品よりも熱狂的な固定ファンが多い。この番組に関してはプロデューサーや作り手が制作デスクの中で外様というか、ちょっとアウトロー的なポジションらしく、それで実現できている部分があるようですが、視聴質指標はそういう作品を作るモチベーションをもっと広く与える可能性があると思います。
視聴率という到達指標だけでなく、視聴に与えた影響まで計ることがでれば、SPECのような個性的な作品がもっと多く生まれる土壌が生まれるかもしれません。
テレビ局側の温度感
現在、テレビ局もソーシャルメディアに注目していることは確かです。
しかし、その多くはソーシャルメディアが視聴率に貢献できるか、というところに関心があるのだと思います。それも重要かもしれませんが、視聴率とは違う視点から番組を評価することができるかどうかが、新しい視聴形態や未来のテレビのあり方を議論するにあたって、より重要な論点ではないかと思います。
ソーシャルメディアがテレビを変えるというのはそういうことなんじゃないでしょうか。
著者紹介
hotaka-sugimoto
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映画系ブロガー。 映画、テレビ、オンデマンドなど、映像というオールドメディアのビジネスがインターネットの発展とともにどう変わっていくかを日々追いかけています。 映画レビュー、映像ビジネスモデル、著作権に関する記事多数。
参考記事
参考記事 : ソーシャルテレビ推進会議の公式サイト、ソーシャルテレビラボが公開されました。
転載元記事:http://hotakasugi-jp.com/2012/09/01/social-tv-better-than-rating/
ソーシャルテレビラボ
ソーシャルテレビ推進会議では、ソーシャル×テレビの関連性を見るための調査結果やデータ一覧を公表しています。今後もこうしたデータや調査結果を公表していきますので、ご活用ください。
- ソーシャル×テレビの関連性を見る調査結果レポート
- ロンドン五輪におけるソーシャルメディアのツイート状況をまとめたインフォグラフィックス
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">by ソーシャルテレビラボ