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第8回 見えない根を深く正確に伸ばした時期。

高校を卒業すると僕は仙台から上京した。仙台での大道塾最後の練習の日。東先生が僕を呼んで話をしてくれた。

「東京に行っても空手を続けるんだぞ」

「お前は絶対に続けたほうが良い」

「まだ東京には大道塾はない。そのうち作るつもりだ」

「それまで東京で練習してるんだ」

「よかったら極真の本部に通うと良いぞ。あそこに行けば強くなれるぞ」

「それでここ(大道塾)にいたことは言わないでおけ」

当時はまだ極真会館と大道塾の関係は良くない時代。だから東先生はそんな事を言ってくれたのだろう。その言葉の持っている意味の深さや、東先生の度量の深さはまだ10代だった僕にもすぐに分かった。

僕はもうすぐ上京する。東北の仙台にも春がそこまで来ていた。窓の外の日差しの暖かさや、その空気の感じをいまだに思い出せる。東先生の気持ちは春の日差しよりも僕には温かい何かをくれた。東先生は話を続けた。

「極真の本部は強くなれる。大道塾が出来るまで行くのは良いぞ。それでな、もしもお前が本部を気に入って強くなったら、その時はそれでも良い。本部にいても構わない。空手を続けろよ」

あの言葉の重みは、あれから30年近く経っても僕の中から消えない。自分が道場を持つようになってから、消えるどころかもっともっと大きくなった。あの日から東先生はずーっと僕の先生のままだ。あれからたくさんの格闘技をやってきた僕の中で、空手は特別な存在だ。特別な存在には意味がある。その意味を東先生がくれた。