後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
第44回:【政策】センター試験国語で若者の言語能力は測れません!

「東方紅楼夢9.5 遠野物語」(2014年3月2日、あえりあ遠野)のサークルペーパーとして配布した記事です。

さて、今回のFree Talkですが、今回は学力調査について。毎年センター試験が行われていて、その問題や平均点も公開されていますけど、そのたびに「センター試験の現代文、特に評論でこれだけの平均点だということは、世の中の多くの人はまともなコミュニケーションができないのだ」的なことを言って、本当にうんざりしています。別に私がかつて受けたセンター試験の国語で、評論以外壊滅的だったということでうんざりしているのではありませんからね、断じて。ちなみにそれでも東北大学工学部人間・環境系に現役合格できました。

はっきり言いましょう。センター試験の国語では、若い世代の言語能力を測ることはできません!いや、正確には、「若い世代の(総合的な)言語能力を測るように設計されていない」と言った方がいいかもしれません。

まず注意しておきたいのは、言語能力、国語力と言っても様々な側面があるということです。入試ひとつを取っても、センター試験の国語で求められるものと、二次試験のそれで求められるものは違うと思いますし、小論文とか推薦入試とかがあれば尚更です。従って、若い世代の言語能力、国語力を測りたいのであれば、まずは何を明らかにしたいか、ということを示す必要があります。
ここで、OECDの国際成人力調査(PIAAC)における読解力の概念を見てみましょう。
PIAACにおける読解力とは、社会に参加し、自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発表させるために、書かれたテキストを理解し、評価し、利用し、これに取り組む能力である。(国立教育政策研究所『成人スキルの国際比較――OECD国際成人力調査(PIAAC)報告書』(明石書店、2013年)p.72)

そしてPIAACにおいては、「情報内容」「認知的ストラテジー」「状況」の3つの項目においてそれぞれ分類を設定しています。対して、センター試験というのは、最も性質が強いのは点数による篩い分けでしょう。もちろんそれにも意義はありますし、問題を作る人が無能だとは思いませんし、また受験勉強の段階で全体的な読解力、言語能力が上がると言うこともあり得ると思います。しかし大学への入学のためというアドホックな目的で使われるテストで、若年層全体の言語能力を論ずるのは無理があります。

第二に注意したいのは、悉皆調査または正確なサンプルに基づいて、比較を行うこと。OECDのPISA(学習到達度調査)では、2000年から2015年にかけて、3年ごとにOECD全加盟国を含む様々な国や地域に対して抽出調査を行って、調査対象における平均との比較、そして前回調査との比較などを行っています。さらに言うと比較のためには、統一した評価基準(インディケータ)を設定する必要があります。PISAやPIAACのインディケータは1987年から作成されており、1997年にPISAの原型が提案されました(このあたりの経緯については同人誌『現代学力調査概論――平成日本若者論史3』がKindleにて配信中ですのでそちらをご参照ください)。国内的な調査でも、ここまで長くやれとは言わないにしても、やはり統一的な評価基準を策定することは極めて重要でしょう。

それだけでなく、統計的にも評価基準を合わせる必要があります。例えばPISAでは平均が500点、さらに調査者の3分の2が400~600点の間に入るように調整しております。

また調査対象者の幅広い分野の能力を見たければ、いくつかの分冊を作って、共通の問題の分布から他の分野の能力を推測するという手段をとる必要もあります。これは項目反応理論(IRT)と呼ばれる手法で行われ、PISAや全米学力調査(抽出調査)では導入されておりますし、日本の文部科学省でも科学的な学力調査を検討する際にIRTが採り上げられたりしています。そしてこのような点数の付け方は、現行のセンター試験には相応しいものではないと思います。

だから、若い世代の言語能力について測りたいのであれば、センター試験を使うのではなく、悉皆調査と抽出調査のどちらでも構いませんが、少ない問題数でできるだけ幅広い分野を測定できるような、全国的な学力調査が必要になるでしょう(そして私はそれは必要だと思っています。なお抽出調査派)。

最後に、PIAACの記録を参照してみましょう。PIAACは「成人力」と銘打っているものの、実際には16歳以上65歳以下の人が対象になっております。特に過去のPISAを受けた世代においては、PISAの結果とPIAACの結果の比較も行われています。日本の場合、PIAACでは全ての年齢層において調査平均よりも有意に高くなっていますが、若い世代の結果について見てみると、読解力においては、その結果が調査の平均と優位な差がなかったPISA2003(PIAACでは24歳),2006(PIAACでは21歳)を受けた年代も、PIAACでは極めて高い成績を残しています(図参照)。PISA2009を受けた年代(PIAACでは18歳)でさえ、調査対象国では1位でした。少なくとも国際的に見れば、若い世代においても、(OECDの規定する)読解力は決して低くないのです。

結局のところ、これらの知見を参照すると、センター試験国語に関する最初のような論評は、かなり的外れで、学力調査というものへの理解を著しく欠いているとしか言いようがない、ということです。
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グラフのデータの出典:http://www.nier.go.jp/04_kenkyu_annai/div03-shogai-piaac-chart.html 表5.6

【今後の掲載予定:定期コンテンツ(原則として毎月5,15,25日更新予定)】
第45回:【思潮】「悪意」の源泉はどこにあるのか?――森達也『クラウド増殖する悪意』を批判する(2014年3月17日配信予定/「EVENT JACK 気仙沼22」のサークルペーパーとして配信します。)
第46回:未定(2014年3月31日配信予定/「幻想郷フォーラム2014」のサークルペーパーとして配信します。)
第47回:【科学・統計】「艦これ」新遠征の実装による遠征効率の再評価(2014年4月5日配信予定)

【近況】
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『統計同人誌をつくろう!』情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11717450615.html
『改訂増補版 紅魔館の統計学なティータイム』情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11717449750.html

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開催日:2014年3月16日(日)
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・「幻想郷フォーラム2014」(東方Project情報・評論系オンリーイベント)にサークル参加予定です。
開催日:2014年3月30日(日)
開催場所:名古屋市国際展示場(ポートメッセなごや)(愛知県名古屋市港区)
アクセス:名古屋臨海高速鉄道あおなみ線「金城ふ頭」駅より徒歩5分程度/伊勢湾岸自動車道「名港中央」インターチェンジより車で5分程度
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・「新潟東方祭14」にサークル参加予定です。
開催日:2014年4月13日(日)
開催場所:朱鷺メッセ(新潟県新潟市中央区)
アクセス:JR各線「新潟」駅または新潟交通バス「万代シテイバスセンター」から「佐渡汽船」行きバス「朱鷺メッセ」下車すぐ/「新潟」駅から徒歩20分程度
スペース:未定

・「第十八回文学フリマ」にサークル参加予定です。
開催日:2014年5月5日(月祝)
開催場所:東京流通センター(東京都港区)
アクセス:東京モノレール「流通センター」駅下車すぐ
スペース:未定

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(2014年3月5日)

奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第44回:【政策】センター試験国語で若者の言語能力は測れません!
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2014(平成26)年3月5日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
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