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※以下は2010年、オレ的ゲーム速報@刃のJIN115さんとKotaku JAPAN編集部で、故・飯野賢治さんに取材したときの記事です。今回、株式会社フロムイエロートゥオレンジの代表取締役CEO江口さんのご許可をいただき、公開させていただく運びとなりました。(Kotaku JAPAN編集部)



 
どうもこんにちは、オレ的ゲーム速報のJin115です。

オレ的と行く」第x回は、飯野賢治さんに再びお会いしてきました。今やってる事やゲームについて思っている事など、色々と聞いてきましたYO!

 


 
早速ですが前回の記事*は気に入ってもらえたんでしょうか?

*2010年2月に一度インタビューさせていただきました。

飯野:初めてということもあって、カタい感じがあったんでもう1回やりたいなと。記事を見て「いいなっ」と思ったし。


正直なところ、Twitterで飯野さんから「続きをやろう」って言われたのは挨拶だと思ったんですよ、本気だったんですね(笑)。

飯野:そんなもんですよ(笑)。流れが重要。

 

サンフランシスコのTwitter社に行かれたそうですが、どんなビジネスを考えてるんですか?

飯野:えー、あんまり詳しくは言えませんが...。ずっと仕事をしてるんですよ。


では、どんな印象の会社でしたか?

飯野:ほんとTwitterの印象そのままの会社でした。TwitterってAPI*的なことも含めて、非常にオープンな会社でありながら、システムはしっかりしていて、そして、そのコミュニティというか繋がりは、非常にユルいじゃないですか。

*API:OSなどのプラットフォーム(この場合はTwitter)に外部のプログラムがアクセスするためのインターフェイス。APIが公開・整備されていると、対応するサービスやプログラムが作りやすくなる。
 

 
飯野:オフィスもまさにそんな感じ。凄くカワイイ絵が描いてあるのに、ピシっとしたところがあって。凄くバランスのいい感じでした。

Blogのほうにも僕なりの視点でみたTwitter社の様子をUPしてますよ。[飯野さんのTwitter社訪問記

 

そういえばTwitterの有名人リストみたいな本があったんで読んでみたら、飯野さんの名前が載ってましたよ。元ゲームクリエイターみたいな感じの説明で(笑)。

飯野:そういうのに載らなくなったら作品出さなきゃって思うかも(笑)。どうでもいい話なんですが、誕生日リストみたいなのってあるでしょ? 「5月5日」の項目から、毎年、毎年、僕がちょっとずつ外されているんですよ。ああいうのって、くだらないけど、やべぇ、とかどこか思っちゃうね(笑)。


 
海外だとデザイナー自身がTwitterアカウントを持っていて、他人の作品に対する意見をツイートしまくるんですよ。でも、日本のゲームデザイナーって他人の作品に対して意見する人って少ないですよね。こういった温度差をどう思いますか?

飯野:うーん、なんでも悪口みたいに考えすぎかなあ。敵か味方か、とか(笑)。例えば、僕が昔「あんたっちゃぶる」*の企画で宮本茂さんと対談したとき、『マリオ64』の事でいろいろ言っただけで、マリオファンのみなさんから散々言われたこともあって(笑)。

でも、賞賛ばかりしてもしょうがないし、思ったことを言っただけなんだけどなあ。対談の後も、宮本さんずいぶん感謝してくれていたし。いずれにせよ、クリエイターの顔がよく見える作品ほど語りたくなりますよね。

*ゲーム業界の舞台裏を描いた鈴木みそさんのマンガ。

 
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飯野:ポジティブで良い事ばっかり言っていれば「良い人」だと思われる。それは簡単。なんだけど、そんなの安っぽくて嫌なんですよね。そういうのを気にしないで言ってる人を信じています。文句言われても、クレームがきても、自分の意見を言うのって大変ですから。当たり障りの無いこと言ってもしょうがないっていうか...結局、世の中って好きか嫌いしかないんでね。

あと、海外の場合はクリエイターが強いってのもありますね。ゲーム会社に就職するのか、ゲーム会社に自分を売り込むのかっていう違いとも言えそうですけど。「クビになったら、また別のところでゲーム作ればいいや!」みたいな。

 

海外はマジにそんな感じですね。

飯野:クリエイターって強くないといけないと思うんですよ。もちろん、クライアントに対して勝手なことはしちゃいけないけど、交渉はできるでしょう。

去年、任天堂さんから『きみとぼくと立体』を出したんですが、著作権表記にfyto*が入っているように、権利を僕らも持っているわけです。そんなことすらする会社も少ない。

*株式会社フロムイエロートゥオレンジ

また、自分のブログでクリエイターとしての思いみたいなものも書きましたけど、あれは任天堂さんとお話しして許可をいただいて実現しています。任天堂さんのソフトについて、クリエイター自身が感想を書くというのはあんまり見ませんが、ちゃんと話をすれば分かってくれるんです。

そもそも表現がしたいからクリエイターやってるのに、表現の枠組みの中にいるのはどうかと思うんですよ。多少荒っぽくても、まわりを変えていくのがクリエイターだと思う。

たとえば、「画用紙に絵を描きなさい」と言われたらハミ出して描いてもいいし、画用紙をもっとくれ! って言ってもいいと思う。でも勝手に画用紙を持っていくのはダメ。ルールはちゃんと守らないといけない。


 
Twitterはここ数年で急激に伸びましたけど、Ustreamもすごいですよね。今年はE3の実況をやってましたし。

飯野:UstreamはTwitter IDのソーシャルストリームが出るじゃないですか。あれの取り組みの勝利だよね。ゲームももっとTwitterと絡んでいくとよいと思う。みんなが横で応援したりとか、ゲームやりながらツイートしてもいいし、ゲームのコマンドがツイートに変わるとかいくらでもやり方があるよね。

今出てるオンラインのゲーム何割かはTwitterを取り入れていてもよいのに、そういうことの対応が遅いのがゲーム業界ってどうかなと外から思います。なんというか、自分で自分を守りすぎみたいな。

相反するものはあると思うんですよ。プラットフォーマーは、自前で全部をそろえようとするじゃないですか。それに対してTwitterはフルオープンで、自社が作ったものよりサードパーティが作ったもののほうが性能が良かったり...。企業文化としては正反対ですね。

だけど、世の中的にはTwitterが支持されている部分もあるわけで、その流れにゲーム業界も上手く同調していかないとね。

 



ドリームキャストのタイトルがPS3やXbox 360で配信されるというニュース*がありました。『Dの食卓 2』を出してもらえないですかね?

*2010年6月のニュース

飯野:そうそう、ビックリした! うーん、セガさんがやってくれるならどうぞって感じですけど、あそこまで容量の大きいのはやってくれないんじゃないかな? あのゲームディスク4枚組だしね。

昔ゲーの復刻って難しいよね。昔は面白かったけど、今プレイしてみるとそれほどでも...なんてタイトルもあるし。その点、音楽って凄いよね、30年前や40年前の音楽でも全然聞けるし、時代は感じても昔の音楽は逆に良い感じで聞ける。

昨日、ふと昔の音楽をYouTubeで検索したら一瞬で出てきて「凄い時代だなー」と思ったんだ。これはレコード会社ピンチですよ(笑)。金銭の問題じゃなくって、ハッと思いついて10秒台でアクセスできるほうが勝つよ。もう、これからは所有からクラウドに価値観が変わっていくだろうし。
 

飯野:人によって価値観はそれぞれですが、すぐ手に入る、アクセスが早い、パッと時間潰しができる...そんなモノのほうが勝ってきている。僕はあまり好きなタイプのゲームではないんですけど、良し悪しはみんなそれぞれが決めるものですから。

僕の知人が携帯電話向けのレースゲームを作っていたんですけど、相手の車と競う演出をいれたら周りからは「それはカッタルイ」って言われたそうです。そこで演出をスキップできるようにしたら、ほとんどの人が演出を飛ばしてしまうみたいで...「時代は変わった」って、引退したスポーツ選手みたいなこと言ってましたね(笑)。

 

飯野さんが出したゲームは手軽じゃなくって、すごく難しかった記憶がありますよ。

飯野:え、でも『エネミー・ゼロ(E0)』と『Dの食卓2(D2)』くらいじゃないかな? あとはユルいよ。

でも『E0』はあんまりゲームしないウチのカミさんでもエンディング行ったし、よしもとばななさんもエンディング行ったんですよ! 当時も相当テストして、ある割合以上、クリアできるってのを確認してOKとしているんです。まあ、でも難しかったよね、僕もプレイして難しかったもん(笑)。


飯野:『E0』は不親切なことも含めて、難しいゲームを作りたかったんですよ。最初に武器を持ってないとか、凄く使いにくい武器(発射に溜めが必要で、しかも連射できない銃)、セーブ&ロードを繰り返してるとバッテリーが切れて続行不能になるとか色々ありました。

S(サド)気質かM(マゾ)気質じゃないと楽しめないかもしれないゲームでしたね。「マジでクリアできんの?」っていうのを笑ってくれる人じゃないと楽しめないかも。まだ怒っている人いたらいま謝る。ごめん(笑)。

 
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その次が『リアルサウンド ~風のリグレット~』ですね。

飯野:ゲームの難易度は100から2ぐらいまで下がりましたね(笑)。僕は「売れてない、売れてない」って言ってましたが、今思えば『リアルサウンド』は十数万本は売れたんですよね。クリエイター自らがネガキャン(ネガティブ・キャンペーン)してたね(笑)。


『リアルサウンド』はPS3版を出してくれっていう要望がTwitterにありましたよ。

飯野:リアルサウンドは...やるんですよ。そのウチ新しいのを。


え、やるんですか、リアルサウンドの新作を!

飯野:はい、やりますよ、何時か必ずやるつもりです。そう言って死んじゃったらごめんなさいですけど(笑)。

よく「iPhoneでやればよいじゃないか」と言われるんですが、あれをそのままiPhoneに移植したら相当ストレスが貯まると思います。1回のプレイ時間が凄く長いんで、iPhoneには合わない。もし携帯機でやるなら時間を短くしなきゃだけど、そういう中途半端なことはやらない、ってここ5年ぐらい考えていて...。流石にあと10年以内には作ると思っています。いやもっと早いかな。


 
その他にもゲーム制作を行う可能性はありますか?

飯野:最近はハイスペックなゲームも作ってみたいと、やっと思うようになってきました。いままで強力なCPU、強力なグラフィックパワー、みたいなものへの興味がなかったんですが、最近やってみたくなりました。とくにキッカケがあるわけじゃないんですが、僕の中でそういう"波"が来たのかもしれない。


飯野:今なら、あえてアドベンチャーゲームがよいなっと思ってるんですよ。

ADVってまずマス的な分母が広いんですよ、実は。できない人もいないし、世界中、そんなに変わらないマーケットだし、FPSやRPGほど作ってる人もいない。今の技術でできるADVっていっぱいあるなーっと思ってて。

とくに、ADVは最近のゲームと「ズレた」感じがあると思うんですよ。家に帰ってハードの電源を入れてテレビの前に座って「よしやるか!」みたいのは時代とズレてる。世間的には、電車のなかで携帯ゲームをやってるわけで。

であれば、もっとズレまくったものを作りたいなって思うんです。中途半端なものを作るから「こんな世の中、なんでテレビの前に2時間座らなきゃいけないんだよ~」ってなるんです。たとえば映画の「アバター」みたいにとことん作れば、「3Dで観たいし、じゃ映画館に行くか!」っていうふうになる。

だから、「週末に時間とってやらないとこのゲームはできない!」ってぐらいのものを作ったほうがよいんです。「サクっとできますよ」と楽なほうにいくと、携帯には勝てなくなっちゃうんですよ。

だから、家庭用ゲームも「家庭用ゲーム機じゃないとできないよ」っていうのじゃなきゃ。そういうのも踏まえたら ADVかなぁっと。


 
マルチプラットフォームについてはどう思われますか? もし作るとしたら?

飯野:マルチプラットフォームはビジネス的に考えたら仕方ないでしょうね、でも僕はハードに特化したものになると思います、Wiiのときもそうでしたし。楽器と同じで、新しくて面白い楽器が出てきたら演奏してみたいじゃないですか。iPhoneのときもそんな感じでしたね。


 
ゲーム開発についてどんな思い出がありますか?

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飯野:とにかく辛い! 辛いよゲーム開発って(笑)。あと長い...できてからもテストや調整がすごく大変で帰れない毎日...。もうあんなのやりたくないですよ(笑)。

あ! だったらプロデューサーになればよいのかな?(笑) でも僕、現場が好きなんですよね。ゲームも曲も、もともと一人で作ってたのもあるし...。


飯野:ワープの頃からかれこれ10年ですからね、長かったなぁ。あのままゲーム作ってたら終わってたかなぁ。最後は無理矢理に作っていた気もするんですよ。

不自然な事はやりたくないんで、結局は業界を離れて良かったかなーっと、今では思ってます。ワープの時の6年よりも、実はその後の10年で学んだ事のほうが大きいんですよね。



2013年、飯野さんは様々なジャンルのクリエイターによるイベントやワークショップを開催しているIID 世田谷ものづくり学校において、講義を予定していたそうです。

これは任意団体ILCA(Innovation Learning&Creative Arts)の活動によるもので、12月16日・渋谷ヒカリエで行われた「未来創造イルカショウ」で「ILCA:学びと創造にアイディアとイノベーションを与える」というスピーチも行っており、今後、飯野さんの考えるクリエーションが広まっていく...といった矢先の出来事に、個人的にも悲しみを隠せません。

しかし株式会社フロムイエロートゥオレンジの江口さんによりますと、ILCAによるIID 世田谷ものづくり学校の活動は予定通り開始されるそうです。

飯野さんのクリエイティブおよびエンジニアリングに興味がある方は、ぜひとも参加すべき! 続報が届き次第、Kotaku JAPANでも告知させていただきます。


フロムイエロートゥオレンジ
未来創造イルカショウ
IID 世田谷ものづくり学校

(Jin115・Kotaku JAPAN編集部)

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